マンガの「アメコミ」化にメリットはあるか?
日本のマンガは海外でも「Manga」で、アメリカの「コミック(日本では「アメコミ」)」
とは区別される。
ほかに「バンド・デシネ(bande dessin〓e)」(フランス等)等もあるが、今日はその日本のマンガについて。
職人芸の日本、企業的なアメリカ
日本のマンガとアメリカのコミックは、その作成スタイルが大きく異なる。
見た目上もアメリカのフルカラーに対して、日本は白黒がメイン。
日本ではマンガ家が原作・脚本・構成(コマ割)・作画などを全て行い、アシスタントが付く程度。
(原作者が別に付く場合もある)
対してアメコミでは脚本、作画、着色など専門分野にわかれていて、同じタイトルでも作者(制作者)がバラバラ。
同じ「バットマン」だと思ったら、次の話では話の雰囲気も絵柄も違ったり、ということも普通にあるらしい。
(色々な表紙のバットマン)
日本のマンガは、アメコミに対して量産される上に安い。
白黒200p弱で500円もしないマンガと、安くても20p〜30pで2$(160円程度)のアメコミを比べればその差は歴然。
ただ、その分一人のマンガ家に対する負担は大きく、労働時間は長く休みも少なく、精神病になる人もいると聞く。
日本も分業したら良いのに
自分は全く畑違いのマニュアルやカタログ作成をやることがある程度だが、
(それを専業にしている訳じゃない)
マニュアルやカタログ作成で、デザインと内容を一人で作る人はレア。
特に業務用だからかもしれないが、専門性の方向性が違うので分業した方が効率が良いからだ。
日本のマンガも、もう少し分業しても良いのにと思う。
アメリカのコミック作りは、映画の作り方に近い。
Vancouver Film School Summer Intensives 2010 / vancouverfilmschool
日本のマンガでも、アニメや映画作りと比較して考えればマンガ家一人で抱え込みすぎと
イメージできるんじゃないだろうか。
例えばロゴなどのデザイン。
最近話題になったアニメ「輪るピングドラム」では多用されるピクトグラムが印象的だった。
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攻殻機動隊では「笑い男」のアイコンなんかは秀逸だったが、あれも外注。
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Blu-ray Disc BOX 1
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それがあることで作品の価値が高まっていることは、作品を見た人なら分かると思う。
(ちなみに「笑い男」のデザインをしたポール・ニコルソン氏は、東のエデンの「セレソン」のロゴなども制作)
徹底的な内製化のマンガ家
マンガでは、スラムダンクでの各校のユニフォームデザインが好きだし、
Slam dunk―完全版 (#1) (ジャンプ・コミックスデラックス)
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- 作者: 三浦建太郎
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マンガではタイトルやロゴデザインは編集部や外注が多いと聞くが、
作中のロゴ・ユニフォーム・建物のデザイン等、外注のデザイン屋がいても良い領域はいくらでもあると思う。
最終的には、アメコミまで行かなくとも、マンガでも分業スタイルはあっても良いのではないか。
もちろん分業化はデメリットも多い。
複数人が作るので、製作にコストもかかり、尖った作品は作りにくい。
だが皆が皆、家庭内手工業の職人スタイルを貫かなければならないことも無いだろう。
マンガの作中では、バクマンで敵役として登場した七峰君の作る会社が同じようなことをやっていた。
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原作者集団とマンガ家を組み合わせることで、作中では編集者不要のスタイルを作っていた。
実際にはアンケートによる多数決で新しい物ができるとは思えないが、
会社組織で効率よく作品を量産する、という考え方自体は良いと思う。
ゲーム業界に学ぶ
具体的にこれを別ジャンルで成功させたのが「カプコン」だろう。
カプコンは日本では職人芸的だったゲームをチーム制にし、メンバーを流動的にした。
例えばバイオハザードがゲームとして成功すれば、
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こうして「バイオハザード」という看板を生かした中で、メンバーは流動的に動き
実際、「この人がいなければバイオハザードじゃない」という中心人物はいないらしい。
中心人物が必要ない、という所まで行くと完全にアメコミの作り方だが、
必要に応じたメンバーの追加や外注化は参考にできるのでは無いか。
企業型マンガ家
マンガでは青木雄二亡き後も新作を作り続ける青木雄二プロダクションや、
新ナニワ金融道 13(銭道群像編) (SPA COMICS)
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これは税金対策もあるが、企業体にしてアシスタントを雇うことで、生活面を支える効果も大きい。
例えば「さいとう・プロダクション」はマンガ家さいとう・たかを氏を中心としたプロダクション。
3本の連載を持ち、短編を同時並行で作り続けられるのは、分業制が確立しているから。
3本の連載、と言ってもそのうち一本は「こち亀」と最長連載記録のデッドヒートを繰り広げる
「ゴルゴ13」なのだから、普通ならこの取材や構成だけでもかなりのパワーを必要とするはず。
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プロダクションの社員数は16名、紹介されているスタッフは9名。
これだけの人間が「社員」として安定した地位の中で描けるのも重要だろう。
ちなみにさいとう先生、御年76歳だそうだ。
ゴルゴ13などは「目だけ描いている」と言われることもあるらしいが、
実際、マンガ家自身が死んでも続いていくだけの作品になっているのならそれはそれで素晴らしいと思う。
作品の質を担保する「ブランド」としての会社名
個人的には、会社組織で「会社名のマンガ」があっても良いのではないかと思っている。
例えば、「借りぐらしのアリエッティ」は、「米林宏昌初監督作品」である前に
「スタジオジブリ作品」としてまず知られたのではないだろうか。
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それが集客に繋がった部分は確実に大きい。
個人的にはアリエッティは好きだし、もっとジブリらしくない、冒険活劇にしても良かった気がするが、
とにかくみんなの中に「ジブリらしさ」があり、それがブランドとなることで作品が作れるという循環が出来ている。
(ジブリは宮崎駿や鈴木敏夫という個人名だろう、というならPixerでもいい。
Pixer作品というとイメージが付くだろうが、Pixerの監督って誰か思いつきますか?という話)
話はそれるが「ジブリらしさ」でいうと、ジブリで
背景(訂正:キャラクターデザイン・作画)を描いていた方が、作画で参加している
「玉繭物語」というプレステのゲームはすこぶる良かった。ジブリの森の雰囲気で、獣を指図して闘い、味方にし、先に進む。
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これだけ聞くとポケモンや女神転生なんだが、ストーリーが異常に重い。
神道的な穢れや自然の畏れ、生命の循環や浄化などがテーマなんだが、
あらすじを聞いただけで嫁が怖がって手を出せないほど。
あれ、復刻してくれないかなぁ。
それと同じで、例えば「アトリエびーだま作品、原作:秋本治、作画:誰々」という感じでマンガを売り出す。
(「アトリエびーだま」はこち亀の秋本治氏の会社)
プロダクション形式にし、そのプロダクションから作品が量産されることで、見る側はある程度安心して新作を手に取ることが出来る。
出版社や雑誌のブランドに頼れない時代のために
これから電子書籍が増えてくることで、出版社や雑誌を中抜きした
新しいスタイルの出版形態が増える可能性がある。
雑誌で書きためて単行本、という日本のマンガ出版形態が電子書籍で崩壊すれば、
個別のマンガだけを買うニーズが増えるだろう。
その時に、出版社を介せず、各マンガ家が電子出版することで、より安く出版できる可能性も高い。
だが、マンガを書く時間とコストを考えると、新人には作品を作る障壁が高いし、
各マンガ家が勝手に電子書籍を出すと、余程マンガに詳しい人でなければ作品を探せなくなる。
too much choice / frankh
そこで、プロダクションが重要になる。
出版社や雑誌の代わりに、「こんな品質の、こんなマンガ」という品質を保証する
ブランドとしてのプロダクションが有効になるのではないか。
新人は、まず大手・実績のあるプロダクションに作画担当やデザイン担当として参加し、
徐々に作画領域を広げるスタイルが今後あり得るのではないだろうか。
今日の内容はやらなければいけない話でもないが、現状週刊少年ジャンプ以外のマンガ雑誌は軒並み売り上げが減少しており、
中堅以下のマンガ家は平均的には収入減となると言われている。
また電子書籍を「やりたくない」だけで参入を渋っている間に、
電子書籍の出版ハードルはどんどん下がっており、日本で普及する頃には
大手と素人が同じ土俵でいきなり闘うことになりかねない。
電子書籍リーダー 7インチ 4GB内蔵 動画・静止画・音楽再生対応 大容量バッテリー搭載タイプ
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尖って個性のあるマンガで、必ず一定層の顧客を掴んでいる物のどちらかだろう。
出版やマンガ、音楽関係者の意見を見ていると、やはりみんな芸術家なんだなぁと思う。
でも、ビジネスとして考えれば、新しい仕組みを取り入れて戦える環境を作る事も大事だろう。
強烈な競争社会で生き残っている同人作家は、作家名ではなく
所属する「サークル名」が一つのブランド(アイコン)になっているらしい。
ブランドと、制作工程における分業化という、ビジネスを考えた動きを
マンガ家の方もアイデアの一つとして考えればおもしろいのに、と思う。
となると次に必要なのは、スタジオジブリにおける鈴木敏夫さんのような「プロデューサー」職か。
5年、10年もすれば同人サークル出身のマンガプロデューサーで大成功する人が出てくるんじゃないかな。