ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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幸田露伴旧居「蝸牛庵」(博物館明治村)

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岸部露伴JOJOシリーズ)じゃないです。幸田露伴
幸田露伴は住まいをあちこち変え、カタツムリのようなものだと住まいを「蝸牛庵」と称した、とのことなので、ここは「蝸牛庵のうちの一つ」とするのが正しい気もしますが、それはさておき。
あと著名人の家は「ここに2年住んでいた」とか短期間住んでいる家がこうして残っていることが多い気がするんですが、昔の人はそんなに引っ越しが多かったんでしょうか。
夏目漱石森鴎外小泉八雲・・・等々)
家が残っているということは火事などではないわけで。
とまれ、それはそれとして。

 

作品の中の蝸牛庵

こちらの建物も博物館明治村に移設されており、正確な図面は無く写真からモデルを起こしました。これも大変だった・・・


こちらも漫画「ゴールデンカムイ」では尾形の実家として使われています。
家の中は北海道の別の家なのですが、家に入るシーンの軒だけはこの家がモデルに使われています。
全然気づかなかったのですが、同じ構図で取っているファンがたくさんいらっしゃったので、その理由を調べていて知りました。

ゴールデンカムイで使われた構図)

この建築に限らず、ゴールデンカムイは北海道の建築に限らず、明治村に移築された建物をたくさんモデルとして使用されています。
明治期ということでちょうど時代が合致するので都合が良いんでしょうね。
このため「聖地巡礼」されるファンの写真もたくさん確認できますし、実際に現物と作中の描写を比べてみると非常に丁寧に参考にされているのが分かります。
自分としてはこの家は「百鬼夜行抄」(今市子)の主人公、飯島律の家のモデル、という印象。

大好きな作品なので、実物を見たときにはテンションが上がりましたが、「思ったより小さいな」というのが第一印象でした。
ただ、外から眺めるのと、中から見るのでは大きく印象が違う家でもあります。
明治村では書斎と中庭を外から見る格好になっていますが、ここは玄関から入るべきだろうなと。

 

蝸牛庵のデザイン

蝸牛庵は変わった構造の家ですが、書斎となっている床の間をいかに見せるかを考えて作られたと考えればしっくり来る設計です。
玄関からまっすぐ進めば書斎がある構造で、直線だと大した距離ではありません。
玄関をあがると外に面した廊下から書斎の廊下を通り、右を向いて書斎に入ります。
廊下がメインである書斎に向かっていないのがポイント。
外廊下・内廊下がまっすぐ繋がって、その突き当りは壁になっています。
この廊下、外廊下では天井が低く横向きの格子、奥の内廊下では天井が高く縦(奥行き)向きの格子と別の設計になっています。
さらに外廊下は右側に壁が無いので外の光が入り、左右に壁がある内廊下は明るい外廊下から見ると実際より暗く見えます。
さらにさらに、内廊下の奥には花を生けるスペースがあるのですが、この天井が一段低く作られています。また明り取りの窓の位置も敢えて小さく作られています。
暗い廊下の奥では、この窓の位置は実際より遠く見えたことでしょう。
こうした視覚効果を重ね合わせることで、外廊下に立った瞬間、廊下の奥行きは実際より長く見えるように作られています。
そしてその廊下は、家を貫通するように走っており、廊下自身も家の間取りでは最も長く取れるように設計されています。
来客が通るのは玄関から書斎までなので、この廊下を限界まで長く作り、さらに視覚効果で実際より廊下を長く見せることで、家全体が実際よりも大きく見えるという視覚トリックを限界まで活かすように設計された家、それが蝸牛庵になっています。
こうした視覚効果や細かい工夫は、妖怪をテーマにした「百鬼夜行抄」の作品世界にピッタリで、今先生は本当に良い家をモデルに選んでるなぁ、とモデリングをすることで今更分かったことがたくさんありました。

 

家の「格」について

江戸~明治期の家を調べると、家の「格」が重要な概念だと分かります。
ある程度の格の家だと家の中にも「公」「私」の区別があり、公的なスペースの中でも最も格の高いエリアに床の間が置かれます。
ここが一番家の中で重要な場所で、来客や行事はここで行われますが、日常はこのスペースは全く使われなかったそうです。
私の父は田舎の庄屋で立派な家があったそうですが、日々の生活は家の端の二間程度しか使っておらず、床の間を含めた何部屋もある奥の間は立ち入ることも無かったそう。

格の高い部屋は造作がしっかりしていて、柱や欄間も高級なものが使われていることが多くあります。
分かりやすいのは天井で、天井の高さや造作が違っていたりします。
高さに関しては高い方が格が高く、造作については 無し<板張り<竿縁<格天井<二重格天井 と格が上がっていくので、お寺なんかではメインとなる講堂が格天井になっていたりします。

そうした視点で「蝸牛庵」を見ると、書斎の「格」が高いことが分かります。
一番わかりやすいのは「釘隠し」。

名前の通り、本来は釘を隠すための装飾ですが、建築で実際に見かけるのはほとんど飾りです。
意匠を凝らしたものが多いのですが、蝸牛庵では鳥のデザインのものが使われています。
また蝸牛庵の書斎は廊下から一歩高くなっています。
日本の古来の建築様式だと、縁側は部屋に対して一段下がっていますが、廊下と部屋は通常同じ高さです。
蝸牛庵は構造的に書斎だけ別棟で作られた構造になっており、それもあって高さにズレがあり、廊下から書斎に入るには一段跨いではいる必要があります。
これはおそらく意図したもので、書斎だけ別格という感じを来客にも与えます。

 

廊下から書斎に入ると、右と正面に庭、左に床の間が見えます。
非常に庭を意識した設計ですが、逆に言うと折角の床の間が庭の後に目に入り、意識に登りにくい構造でもあります。
しかし本来メインになるべきは床の間。
そこで、蝸牛庵では玄関と、その後の外廊下で二度、書斎の床の間の面が目に入るようになっています。
「ここに床の間があるぞ」と遠くから意識させ、いざ部屋に入ると最初に庭を見せる。
メインの床の間に向かうまでに何度も驚きを意識させる構造です。

・・・と文字では分かりにくいので、ぜひ動画で見ください。

www.youtube.com

 

この家、玄関の対面側や左側では外に向けた窓が無いので、右側以外は森だったのではないでしょうか。

実際このモデルは人気が高く、漫画等でご使用いただいている事例もあるようです。

気に入っていただけたらぜひご使用ください。