夏目漱石住居(博物館明治村)
愛知県の博物館明治村に移設されている、夏目漱石・森鴎外の住居です。
夏目漱石と森鴎外が一緒に住んでいた、というわけではなく、別の時期にたまたま二人の文豪が住んでいた家ということですが、それにしても凄い偶然。
ちなみに「ゴールデンカムイ」でも杉本の幼馴染、梅子の家として出てきたはず。
この角度だったかな?
明治村で訪れるのは主にこの角度。
書斎が家の一番良い所にあるので、それを見てもらうという形です。
(ただし家の構造としては「寝室」に座敷があり、ここが最も格が高い)
家の構造はこうなっていますが、便所と風呂場については資料が無いのでモデリングしていません。
資料が無い。
そう、これ含め、いくつかのモデルは「修理報告書」の存在を知る前に作ったモデルです。
間取り図など、少ない図面を元にモデリングしています。
新しいiPhoneではデジタルスキャンができたりするそうですが、これを作るのにそうした機材は一切使っていません。
使ったのは主に現地の写真。
明治村は有名な観光地なうえ、「撮影自由・SNS投稿大歓迎」をうたっています。
このため、公式の写真、SNS投稿、Googleストリートビューなど手に入れられる写真をとにかく集め、そこから立面図を作り上げたのがこのモデルです。
例えばこの部分。
障子や畳は規格化されているので寸法が分かりますが、斜めになっている部分は
障子の上面 → 梁(太さは規格あり) → 壁側の梁 と順に高さを合わせていって、それと外の瓦の高さを合わせることで高さを計算しています。
図面があれば一発なところも、一つ一つの寸法を積み重ねて作っているものだから、作るのにめちゃめちゃ時間が掛かっています。
お値段が安めに設定されているのは、単純に作った時期が昔で、CGとしての技術レベルが低いころのものだから。
とはいえ、直すのも大変なんですよね・・・ということでこれで完成。
建築的にも、「田の字」構造と言われる江戸時代の間取りから、廊下が出来始める途上の構造で、中途半端な「中廊下」が特色です。
「田の字」と言われる間取りの事例は例えばこちら。(小泉八雲住居)
部屋の畳が連続していて、廊下が無いことが分かります。
(茶色や黒の空間は押し入れや仏壇)
ちなみに和風建築では部屋の外周に縁側がありますが、これは元々通路ではないそうです。移動する際には部屋を通り抜けます。
時代劇でも襖と次々空けて進みますよね?
あのイメージ。
江戸時代の大きな民家や武家屋敷、お城ではそうした「田の字」の設計でしたが、明治以降に通路としての廊下が出てきます。
この住居では女中部屋の横に一部屋分だけ廊下があり、この以降途中の建築だと分かります。
観光地としては見た目が良く特徴的な書斎に目が行きますが、建築史としては後ろの間取りが面白いという建築です。
こういう建築物を選んで持ってきたあたり、明治村のセンスって本当に良いなぁとモデリングをしていて気が付くところです。
書斎側から見た外観としても、建築様式としても面白い。
これは玄関上がり框からの景色。
右が玄関で、左が勝手口。
台所に向かう勝手口が大きく取られているのは古い造りですが、土間は非常に小さく、調理場も板の間になっているのは結構変わっています。
また台所に窓が多く、相当採光に気を使っているのも良い設計です。
玄関と台所を繋ぐ掃き出し窓が、ここに限らず家のあちこちにあるのが特徴の家です。
夏目漱石住居では書斎を見る人はたくさんいて、もちろんそれは良いのですが、家の中の廊下や天井にも目を向けてはどうでしょうか。