新ディスプレイ考・1:今のテレビ業界の惨状
テレビの価格下落が進んで久しい。
ブラウン管をフラット化する技術で大型テレビが作れるようになり、「夢の家電」として心を掴んだ。
(それまでは大型にすると画面の端が歪むため、大きさに制限があった)
Panasonic TV / avlxyz
そしてテレビはブラウン管から「薄型テレビ」の時代になり、
様々な方式が実用化され、液晶が大型テレビのデファクトスタンダードになった。
大型化が始まった頃、30インチを越えるテレビを買うと
「おぉ!」と言われた時代が一番家電業界が盛り上がっていたんじゃないかと思う。
その後テレビの価格は下落をたどる。
例えばこのテレビ。
SHARP AQUOS 32型 地上・BS・110度CSデジタルハイビジョン液晶テレビ LC-32E9
- 出版社/メーカー: シャープ
- 発売日: 2011/06/14
- メディア: エレクトロニクス
- 購入: 3人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
2004年末(約7年前)に、自分が展示品を必死の価格交渉の上買ったのがこれと同じ32型。
これを当時30万で買って、「1インチ1万円以下で買えた!」と喜んでいたのを憶えている。
それが今ではAmazonで29,980円。
たったの7年で、価格が1/10になっている。
各社は製造設備の大型化で効率化を図っているが、それを上回る価格の低下でほとんどの企業が赤字に陥っている。
今更だが各社の状況を簡単にまとめるとこんな感じ。
(最近の各社業績をバラバラに拾って来たので、時期のずれている物があります)
- サムスン : ディスプレー事業は3期連続の赤字。
- LG : 3Dテレビの効果で営業黒字。(ただし会社全体としては四半期決算で赤字に転落)
- ソニー : 2005年3月期から7期連続の営業赤字。
- パナソニック : 2011年は赤字の見込み。生産構造の再編に2年で3000億円以上を投資すると発表。
- シャープ : 2011年第二四半期時点で大幅減収となるが増益(黒字)。生産縮小予定も無し。スマホ用など小型化への転換による。
- 日立 : 2011年度中に自社生産終了
- ビクター : 2008年事業から撤退
- パイオニア : 2009年生産終了
- 東芝 : テレビ事業は上期で100億円超の赤字。
サムスンからシャープまでは業界1〜5位で並べたが、上位5社のうち3社が事業で赤字という、何とも痛ましい状態なのが分かる。
こんな事は製造業にいればみんなが知っている。
各社はテレビの価格を上げる機能開発に力を注いだが、
「視野角競争」「高画質化(フルHD化)」「大型化競争」以降は、消費者の心を掴む機能を提供できていない様に感じる。
ある会社が機能を追加しても、競合他社がそれにものすごいスピードで追従し、先行企業に勝てる価格を提示する。
するとその新商品の市場価格があっという間に旧機種と同等まで落ち込み、
以前の商品の市場価格は落ち込んで価格破壊を進める結果になる。
こんな循環がものすごいスピードで進み、市場価格はどんどん破壊されている。
この状況をどうにかできるのか
この状況を見ていて思うんだが、テレビの基本機能はもう、これから大きく手を入れるのは難しいと思う。
もちろんより薄く、軽くという競争は続くだろうが、
テレビのあり方を変えるような改良は、今の機能の延長線上には無いのではないか。
それが誰の目にも明らかになったのは「3Dテレビ」だと思う。
LG전자, 한국전자전에 3D 토털 솔루션 공개 / LGEPR
倍速表示や4原色などの機能は、付いていてもテレビの視聴には邪魔にならない。
(だからそもそもそんな機能があると知らない人も多い)
しかし3D機能は違う。
3Dモードにすると、今までのようにテレビを見ることは出来ない。
それだけの変化を持った画期的なテレビで、その機能がみんなに求められていたなら、テレビのあり方を変えることになる。
ところが少なくとも日本で3Dテレビは受けなかった。
3Dテレビへの不満のNo.1は「気軽に見られない」というもの。
・リンク → 「もっと楽な姿勢で観たい」70%、3D テレビ購入者の不満とは − GfK 調べ - インターネットコム
3Dモードでの視聴は週一回以下、しかも75%は不満を持っているというのが半年前の調査結果。
こんな不満の多い機能では付加価値にはならず、3Dテレビは早くも価格破壊を起こしている。
3Dテレビは今までみんなが気づいていながら見ないようにしていた、
「実はテレビって既にオーバースペックなんじゃないか?」
という事実を、今まで以上にはっきり言ってしまった。
「王様は裸だ」と叫んだのが3Dテレビだったのではないか。
ではどこで儲けるのか?
業界が縮小に向かうのならプレーヤー数は絞らなければならないし、既に淘汰や再編が進んでいる。
だが、辞めるだけでは儲からないし面白くない。
「二次元の」テレビに夢がないなら、新しいジャンルを作るしかないのではないか。
その新ジャンルについて、次回考えてみる。
続き
・リンク → 新ディスプレイ考・2:新しいディスプレイの形
・リンク → 新ディスプレイ考・3:薄いディスプレイはどこに行く
・リンク → 新ディスプレイ考・4:みんなが嬉しい電子書籍