ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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水面下の科学VS宗教戦争

アメリカでは進化論を教えると教師は解雇される。

me teaching class 1! / laihiu

誇張した表現だが、あながち嘘とも言い切れない。
アメリカでは進化論というのは非常に繊細な話題だそうだ。
日本ではわかりにくいが、
例えば日本なら天皇制や憲法九条の否定や憲法改正などが近い感覚だろうか。
中東でコーランについて話をするのと同じような物、というと分かりやすいか?


2011年のサイエンス誌によると、こんな状態。

アメリカの高校では積極的に進化論を教える生物学の教師は28%に過ぎない。
さらに、13%もの先生が創造論を教えるというのだ。
大多数(60%)の教師は、当たらず障らずという態度を取っているという。


もっと分かりやすい比較ではこんな感じ。
・リンク → Who/what created the world God or Big Bang?
「世界を作ったのは神かビッグバンか、どちらを信じますか?」という調査の国別結果。
なんと世界では46%もの人が「神が世界を作った」と信じている・・・と思ったら
投票数の70%弱を占めるアメリカで、「神」という回答が50%を越えている!
(統計のトリックの典型例だな・・・)
ちなみに日本は10%、北欧も軒並み10%台。
これでも高いと思うけどね、個人的には。

ID(Intelligent Design)って何?

ID説とは「Intelligent Design」の略で、「生物は『創造主』によって設計された」とされる考え方のこと。
創造主が何かは一般的に明示されないが、普通は旧約聖書における天地創造のこと。
まれに「空飛ぶスパゲッティモンスター」のこと。

2chでちょっと話題になっていたが、「空飛ぶスパゲッティーモンスター教」は驚くべき事に実在する。

Flickr spaghetti monster / oskay

そもそもこんな緩い教義で宗教なのかっちゅう話だけど、神道は教義らしい教義すらないわけで。
とりあえず麺類を信じればみんな幸せなんです。
ラーメン
・リンク → 空飛ぶスパゲッティ・モンスター教−Wikipedia

ちなみになぜ「何か」「創造主」といった曖昧な言い方をするかというと、これが表向き「宗教」ではなく
「科学」という態度を取っているためらしい。
「だって宗教だって言ったら、学校の生物学の時間に教える物じゃなくなるでしょ?」
で、「それなら空飛ぶスパゲッティーモンスターがすべてを創造したって事でいいんだな?」
逆に提案しちゃったのが上の「スパゲッティモンスター教」
あんまりに面白いから取り上げたけど、もうおなかいっぱい。


基本的には
「こんな複雑で素晴らしい生物が、自然に生まれるわけがない。そこには創造主がいたはずだ」
であり、そこには
「人間がサルと同じなんて信じられるか!」

Tea Party; Planet of the Apes / uvw916a

という人間への強い唯我独尊を強く感じる。
まぁ、そんなことはどうでもいい。

笑っていられる話でもない

問題はアメリカでは一部の学校でID説を教えており、つまりはそれを信じている人も多いと言うこと。
何度か「創造説を教えることを禁止する」という判例も出ているが、しぶとくID説擁護派が動いて
実質的にはID説しか教えられていない子供もたくさんいるらしい。


科学雑誌は最新の話題ほど不明確な場合が多く、新発見の記事でもそれを否定する意見を大体載せる。
しかしID説に関しては、科学的立場としては進化論(ネオ・ダーウィニズム)を掲げ、ID説を真っ向否定する。
多くの科学者もキリスト教徒であったり、ユダヤ教徒であったりするので
天地創造が絵空事であっても、聖書の尊厳は変わる物ではない」

Creation-of-Eve-Cappella-Sistina / ideacreamanuelaPps

とわざわざ解説して擁護するあたり、これがどれだけ繊細な話題なのかを感じさせる。


ちなみにID説の肯定派の博物館なんてのもあるし、
州法で「生物学の時間に創造論を教えること」の義務づけについてはあちこちの州で未だに問題になる。

進化 VS 創造

ID説の否定には進化論を説明することになるのだが、
端から見ているとその否定の仕方もちょっと独特で面白い。
ID説が「人体の完璧なデザイン」を前提としているので、進化論肯定派は
「進化の流れでできた、人体の不要な部位、不完全なデザイン」をあげつらうのだ。
胎内の子供は進化の流れに沿って発達し、例えば指は水かきがついた状態で発生し、
指の膜が自滅(アポトーシス)することで形成される。

Fetus week 9-10 / lunar caustic

「これが進化の証拠だ」と言えなくもないが、宗教論争の場ではちょっと弱い。
では実際にはどんな例を挙げるのか。


例えば「合理的でないデザイン」として目の構造がある。

Eye / saturn ♄

目は透明かつ球形という完璧なデザインで、「これこそ、進化のような、途中経過を経て作られる構造ではない」
ID論者が「進化で生まれるはずのないデザイン」とあげる例になっている。
ところが目の受光部分は網膜の裏側にあり、目の解像度は本来出せるべき感度よりもかなり悪くなっている。
また血管も目の中に走らせざるを得ず、これも解像度を下げている。
しかも、内部に配線が走っているので、それを外に出す部分が必要になり、この部分は目が見えない。
これが「盲点」だ。

retinal.jpg / truk

※目の血管と盲点
人間はもう一方の目と、それを制御する脳で目の構造の不都合を補っているが、この効率の悪い構造は個人的にも昔から疑問だった。 


この「センサの上に配線が走っている」という構造は、進化の過程が絡んでいるらしい。
目の進化は、元々が「カメラ」ではなく、単純な「明るさセンサー」から進化したと考えると現在の構造も説明が付くらしい。
また、この「感度が悪い配線」が避けられなかったのかというと、イカやタコはこの問題を回避した配線になっており、
つまり脊椎動物が丸ごと「Intelligent(合理的)」でない設計になっていると言える。

Octopus / tiswango

とまぁ、こんな形で論証を行う。
ちなみに、この目の構造について詳しくはこちら。ちゃんと書くとこれだけで一記事になる。

ID説を信じちゃ、いけないの?

対する進化論の否定派の一番の言い分は「誰か進化した現場を見たのか!」だ。
子供の言い訳みたいだが、これは反論としては正しい。
科学なんて、所詮はこじつけのカタマリとも言える。
宗教も科学も本当は変わらなくて、今ある現象をどちらの解釈がより矛盾無く説明できているかの差でしかない。
台風が来たら、「南米のエルニーニョのせい」でも、「去年のあなたの行いが悪かったから」でも
その人にとっては説明が付いてしまう。

台風が近づいているようです。 / HIRAOKA,Yasunobu


だがID説が宗教論争の様相を呈するのは、ID説を厳密に信じると、それがイコール科学の否定になるためだ。
例えば地球・宇宙の誕生が神の創造なら誕生から1万年ほどしか経っていない、という「若い地球」説を信じるとする。
(ID説自体は「若い地球」説を取らないことも多いそうだが、創造論VS進化論の一例として)
すると「数億年」という測定結果が出る放射性元素による時代同定等を否定しなければならない。それは原発等の原理への否定となる。
同様の理由で赤方偏位はじめ相対性理論を否定しなければならないので、その原理を応用したGPS「悪魔の機械」だろう。
GPSの位置測定は、相対論効果による誤差を補正することで測定精度を向上させている)

GPS Status app - HTC Desire / avlxyz

つまり教育の現場で科学を否定されると言うことは、将来の科学者の芽を摘むことになる。
これが科学者の恐れている、教育に宗教が入ることの問題だ。

彼を知り、己を知る

幸いにして、日本社会では進化論はほぼ「自明」とされている。
端から見ていると「あちらさんも大変だなぁ」というぐらいの話なんだが、
日本にも、こういうアンタッチャブルは当然あるだろうし、それを見直す鏡としなければいけないと思う。


・・・いや、触れませんよ。日本の話には。
詳しくないところに下手に突っ込んでも、要らぬ誤解と迷惑をかけるだけですので。
期待していた方はすいません。