ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム・3Dプリント作品・3DCG制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

建築図面の入手方法

建築CGの作り方は色々あると思いますが、自分の場合は見た目のそれっぽさを作りたいわけではなく、建築としての理解と勉強がメインなので、図面を最初に探します。
もちろんそこらに図面が転がっているわけではありません。
というか、特に古民家なんか建築時に図面なんか作って無かろうという物なんですが、そこで役に立つのが「修理報告書」「調査報告書」といった公的な資料。

 

前にも書いた通り、木造の建築物は定期的な修理が必要です。
例えば茅葺の屋根は20年で葺き替えが基本だそう。
10年づつ補修して、萱を継ぎ足すなど丁寧にメンテナンスすれば寿命を10年ほど延ばせるとのこと。

それでも萱は外から腐っていくし、こうして草も生えてきます。30年もすると茅葺屋根のボリュームが大分減るそうです。

(茅葺職人は「痩せる」と言うそう)

(旧松井家住宅の修復風景:奈良民俗博物館)

つまり長くても30年に一度は全面的な葺き替えをしなければいけない、とのこと。
以上は奈良民俗博物館で葺き替え作業をされていた茅葺職人から直接伺った話。
もちろん屋根だけで済む話ではなく、掘っ建ての木造であれば木が腐るので柱を変えなければいけないのは前にも書いた通り。
石の上に柱を乗せる構造なら長く持ちますが、それもメンテナンスは必要です。

 

そうした修理・補修は現在なら都道府県など地方自治体などが主になって行いますが、
公的機関が行う作業なので完了後に「報告書」が作成されます。
報告書には三面図のほか断面図、修理前後の写真もあり、公開されている建物でも立ち入り禁止となっている区画の写真が含まれていたりします。
これを手に入れてCGとして起こすのが最近の自分の趣味になっています。
CGを作るのに一番見るのは写真と図面ですが、そもそも報告書なので
「こういう経緯で作られた建物である」
「元はこういう構造だったが修復に際してこうしている」
といった背景情報も色々書かれているので普通に勉強になります。

 

じゃ、どこで手に入れるの?という所なのですが、これが良くわからない。
少なくとも普通に書店などでは販売していないそうです。

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建築史→工学史→道具史

建築の資料はこれだけあります。(入り切っていない資料もあり)

まず建築史。
建築の歴史の概論を勉強できます。
建築史として「大仏様」などの建築様式が最初に出てきますが、
次のステップとして「土台の歴史」「扉の歴史」など個別のディテールについての歴史もあり、CGを作る際には結構役立っています。

(ちなみにこの「建築のディテール」という本は凄い良かったです)

 

建築史と並行して趣味で調べているのが工学史。
工学史と建築との関係で分かりやすいのは、例えば「板」の作り方。

youtu.be

竹中大工道具館YouTubeは凄く分かりやすいのでオススメ)


板は「割って作る」から「切って作る」への進化が一番大きく、要は「のこぎり」の発明と普及が建築史に大きな影響を与えています。
昔の板はくさびを入れて叩いて割っていたため厚く、また表面をきれいに仕上げるには両面を大きく削る必要があり無駄も多くありました。
これがのこぎり(実際には「大鋸(おが・おおが)」などの大型の専用ののこぎり)の伝来により薄い板が量産できるようになります。
また、この工法の変化に応じて使用される木材も変化し、それが家の強度の変化に繋がり工法が変化する・・・
と工学史は建築史に直接影響を与えています。

 

こうした背景情報を知っていれば、
「いや、この時期にこの家具はおかしくね?」
ということがだんだん分かるようになります。
例えば箪笥。

引き出しの多い構造の箪笥は薄い板材が安く手に入る環境で無ければ作れません。
小型の引き出しは高級品として昔からありますが、庶民が箪笥を持てるようになったのは木材の量産方法が確立する江戸中期以降になります。

(ちなみに箪笥以前の収納としては「長持(ながもち)」がありました。

 こちらは内部に間仕切りがありません)

 

町人の収納は、

  • そもそも物が無く「収納」という概念が希薄だった江戸以前
  • 所有物が増えて「収納」の概念が出て「長持」を使用した江戸初期
  • 木材の量産体系が確立して「箪笥」の普及が進んだ江戸中期

と進化していったことが分かります。

ということで建築史・工学史が分かると道具類も分かり、その建築や使用された時期に対して、どんな道具が適切か考えられるようになります。

 

そうして作ったのがこの道具類のCG集。

pen-and-dice.booth.pm

pen-and-dice.booth.pm

 

(階段箪笥。やっぱり絵として映える)

(昔のまな板には足がある、鍋の蓋形状は関東と関西で違う、みたいな話も解説を付けています)


道具類のCGですが、上にも書いた通り、それぞれに背景があり「いつ使われたか」を知らないとちぐはぐなデザインになってしまいます。
そこでCG集には簡単な説明資料を添付しています。

(簡単な・・・と書いたけど、今見たらpdfで10pあった)
どの時期に使われていたのか、用途の分かりにくいものについてはどう使われていたか等々。
また道具は随時追加していますが、追加の度に価格を更新して少しずつ価格が上がっています。
購入済みの方はそのまま新しいバージョンをダウンロードできるので、早めに購入しておくと得、という仕組みにしています。


これからも随時追加していきたいので、「こんなものを追加してほしい」という意見があればぜひコメントをお願いします。

 

寺社仏閣の建築

日本の建築史を勉強しようとすると、寺社仏閣の建築構造の話が最初に出てきます。
石造りの建築は長ければ1000年以上持ちますが、古い日本の住宅のような掘っ建て・木造で建て替えを行わなければ木が腐るので寿命は50年がせいぜい、だそうです。
このため江戸以前の古い住居建築はほぼ残っておらず、建築史としてはもっぱら寺社仏閣を中心としたものになるそう。

 

ちなみに「掘っ建て」とは土を掘って柱を埋める建築様式のこと。
「掘っ立て小屋」と言いますが、それ自体が小さかったり、貧相なことを示していない、
なんなら多くの神社は掘っ建て形式だ、と建築史を勉強して今更ながら初めて知りました。
ちなみに神社が掘っ建て形式でも大丈夫なのは「式年遷宮」「式年造替」により建築の寿命が決まっているからだそう。
要は腐る前に建て替えてしまう。
さらにちなみに、掘っ建てでない構造とは「基礎」「基台」のある構造です。

(旧吉川家住宅:奈良)

地面に石を埋め、その上に柱を立てることで柱が腐らないようにします。
なお、現代の方向はもう一歩進んで「ベタ基礎」と言って柱の下全体に一度コンクリートを敷いてしまいます。
家の前に、地面の時点で工法が違うわけです。

 

寿命の長い木造の建造物は日本にもたくさんありますが、これらは定期的な分解修理が行われることで長く寿命を保っています。
(基本的に釘を使っていないので、そのまま分解して再組付けができる)
ところでこの修理、バラした際に柱を新しいものに交換するのかと思いきや、ひび割れ部分だけを削って同じサイズの木を嵌める、
腐った部分で柱を切って新しい柱を継ぐなど、できるだけ古い材を活かすような工夫がされているそうです。

 

世界で一番古い建造物は法隆寺で、世界遺産にも指定されていますが、一番古い材は入ったところの門柱などで、なんと直接見て、触れます。
文字通り、見て・触れる国宝。
おいでませ、奈良。
でもってその柱、よく見るとあちこちに六角形の補修が行われていることが分かります。


法隆寺には見どころがたくさんありますが、この柱一本をじっくり見るだけでも価値があります。
(実際この柱をずっと見ていて娘に呆れられた)
この形が六角形なのは木が膨張してうまく噛みあうとか理由があるらしいんですが、西本願寺では葉の形に継ぎを入れるとか、職人さんの遊び心が見られる補修もありました。
こちらも立ち寄る機会があれば探してみるのをお勧めします。
西本願寺は境内の歩く部分だったので、おそらく大規模補修があれば交換される部材だと思われ、期間限定だからこその遊びということでしょう。

 

そうして得た知識を基に、自分で寺社建築を3DCGで作ってみたのがこれ。
■重文・醍醐寺如意輪堂

pen-and-dice.booth.pm


「懸造(かけづくり)」という、崖に張り出した建築様式で、清水寺などが有名です。
張り出した軒を支えるための、崖の構造物が特徴。
寺社建築のポイントは軒先の「組物(くみもの)」で、見てもらえば「ああ、あれか」となると思います。
これは和様二手先という方式。

元々は装飾ではなく、釘を使わない古い工法の中で、雨を避けるため軒をできるだけ張り出そうと工夫することで発達した工法。
後年になるほど装飾の度合いも強くなります。

 

CGは「CGを作りたい」ではなく、「建築を分析・研究する」がメインの目的なので、CGでは外壁ではなく最初に柱を立てて軸組を作っています。

(内部のワイヤーフレーム表示)

結果として中も当然作りこまれていて、実際の写真とCGデータがどれだけ同じかを比較してもらえれば幸いです。
元データはこちらから確認可能。(要会員登録:ログイン)

dl.ndl.go.jp


自分で言うのもなんですが、扉の桟の一本まで同じ数で作っているので、かなり同じ感じで作れていると思います。
著作権の関係が良くわからないので、元サイトで確認できます。

 

ちなみにこのCG、お気に入り数を見てもらえば分かるのですが、残念ながら人気はありません。
崖の上にあるし、モデルとしては小さいし、使いにくいのかなぁとは思いますが。
まぁ、仕事としてやってたら、割に合わんモデリングですね。
趣味だから楽しんでやってますが。