ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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本質は何だ?

この本を読んだ。

ゲームの父・横井軍平伝  任天堂のDNAを創造した男

ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男

一ゲーム好きとして、企画屋として横井軍平枯れた技術の水平思考も知っているし、
それを実現する企画で無ければいけないと思っていたけど、
本人のインタビューを見ると、自分の至らなさを思い知ったというか・・・


「安く作らないと売れないというのは、単なるアイディアの不足なんです」
横井軍平という人が、玩具のアイデアマンとして優れていたことを否定する人はいないだろうが、
やはり企画に優れた人の素晴らしいのは、「切り捨てる力」だと痛感する。
横井軍平という人の作品で、個人的に最も説明しやすいのはゲームボーイだと思う。
ゲームボーイポケット グレー
ゲームボーイは、乾電池で動く。
電池が持つように、モノクロの画面になっている。
「ゲームの本質に、色は関係ない」
そう言っていても、それを割り切れる人は本当に凄い。
でも、ゲームボーイには通信コネクタがあり、通信対戦が出来る。
これを残したことも凄い。

本質は何か

海外に行って改めて感じるのは、日本のコンテンツや技術力の強さ。
でも、それが総花的になっていて、尖ったとことが無くなっているのは誰もが感じている所だと思う。
それはつまり、「削る努力」を各メーカーがしていないということだと思う。
ここでいう「削る」とは、単に「この機能を載せたら、バーターとしてこの機能を削る」という話ではなく、
「本質はこれなので、それ以外は全て削る」というぐらいの「芯」だと思う。


横井軍平氏はゲームの本質は白黒でよいという例に雪だるまやリンゴの例を好んで使ったらしい。
「白黒画面で、黒く雪だるまを描いても、ユーザーには白く見える。
 リンゴを描けば、赤く見える。色なんて関係ないんです」

VirtualBoy / farnea


その後の業界の流れを見ても、ゲームは白黒で十分というのは時代にそぐわないかもしれない。
でも、「遊びの本質は白黒で十分」という言い方であれば、それは時代を問わないと思う。
ゲーム屋ではなくてあくまでオモチャ屋。
それが横井軍平という人の「芯」だったんじゃないかと思う。
オモチャ屋の視点は、巨大ゲーム企業となった任天堂の方針とは相容れない。
それが分かったからこその退社だったのかな、とも思う。


そう考えたときに、自分の芯は何だろう。
新商品の企画を行う際には、どうしても新しい機能をどんどん載せることを考えてしまう。
もちろん扱っている物はおもちゃではなく、プロが扱う物なのだから
一つ一つの機能を使うユーザーの顔は見えている。
それを分かった上で、自社の特徴を最大化する仕様を追い込んでいるか。
自分はまだまだ、どころかほとんど入り口にも立てていないよなぁ、と痛感させられた。

ほんの少しの実用性

ちなみに企画のテクニックとして上がっていたのは、他の業種でも役に立つ物が本当に多い。
例えば「ほんの少しの実用性」
ゲーム&ウォッチと言えば知らない人はいないぐらいのヒット商品だが、
あの商品名に「ウォッチ」と付いているのは、使われ方からすると違和感を感じる。

Game & Watch : Donkey Kong / Frenkieb

「なんで『ポケットゲーム』ではなく、『ゲーム&ウォッチ』なの?」
この解説が面白い。
当時、まだ液晶式の時計は高価だった。
つまり、「ゲームに飽きたら置き時計としても使える」という「実用性」
買おうと思っている人の背中を押したと。
だから、商品名にははっきり「ウォッチ」を歌う必要性があった。
なるほど。


思えば小学生向けにヒットしたキン消しも、「消しゴムだから学校に持って行ける」という
「実用性(実際には消えなかったけどな!)」がポイントで、それ以降、文具のフリをしたおもちゃは小学生向け玩具の王道になった。
ブングギア 対戦型文具 ビタオシジョーギ ライトニンググリーンブングギア 対戦型文具 ビタオシジョーギ アクアブルーブングギア 対戦型文具 ビタオシジョーギ フレアレッド


うちらの業界じゃ、「そんな機能要らないからその分安くしてよ」は決まり文句だが、
それを言い訳にせず、お客様にちょっと色気を感じさせる、「でもこれが出来たら便利でしょ?」と思わせる機能が大事ということか。

「枯らす」技術の水平思考

また枯れた技術の水平思考という言葉は有名だが、
具体的な例を見ていくと「枯れて」いない技術も結構目立つ。
例えば太陽電池
太陽電池はまだまだ高価な時代、それを太陽電池ではなく「高感度光センサ」として使ったのは
確かに「技術の水平思考」の好例だが、太陽電池はこの時点で全く枯れた技術ではない。
これに対して、加工技術を考えて低価格化するとともに、太陽電池を組み込んだ製品を売ることで結果的に大量生産し、コストを下げる。
つまり「枯れた」という言葉には、自らの力で積極的に「枯れた技術にする」ことも含まれる。
これには驚いた。
持論をあくまで徹底し、それを徹底することがむしろその持論を正面から否定したような動きに見える。
本人は「天才」と呼ばれるのを嫌ったらしいが、やっぱりこういう話を聞くと本当に天才だと思う。


とにかく企画を専門とする人や、ゲーム好きに限らず、
新しい物を考える、発想する立場にいる人なら絶対に読んで損はしない良書。
返す返すも、自動車事故で亡くなられたのが悔やまれる偉人だったと思う。

ナツノクモと婚活

ゲームなんて所詮作り物でしょ、と言う人は
「リアルな」ゲームではなく、MMORPGを一度ガッツリやってみたら良いと思うよ。
ゲームは作り物だけど、その中にはしっかりともう一つの「世界」があるんだから。


突然ですが篠房六郎というマンガ家の、ナツノクモという作品が好きです。
その前の「空談師」も好き。単行本の物ではなく、読み切りの方。
ナツノクモ 1 (IKKI COMICS)ナツノクモ 2 (IKKI COMICS)ナツノクモ 3 (IKKI COMICS)ナツノクモ 4 (IKKI COMICS)
ナツノクモ 5 (IKKI COMICS)ナツノクモ 6 (IKKI COMICS)ナツノクモ 7 (IKKI COMICS)ナツノクモ 8 (IKKI COMICS)

仮想現実で、大切な物

ナツノクモ・空談師はともにネットゲームのお話。
(「リネン」という会社の運営するとてもリアルな3DMMORPG、というところは共通)
世界観は共通だが、登場人物や描きたいポイントはそれぞれ全く異なる。
ただ、ネットゲームという「仮想現実」がどこまでその人にとって重要か、
が作品の中で重要なポイントとなっていることは共通している。


いくらリアルになっても、ゲームは所詮ゲーム。
その中で人を殺しても殺人罪になるわけじゃないし、殺されても死ぬわけじゃない。

Quake 4: Peekaboo / Psycho Al

自分のキャラクターがイヤになれば、一から別キャラクターとして、別の人格としてやり直すことも出来る。


では、その中で大切な物は何か。
普通はその「キャラクター(作品中では「外装」)」だ。
ネットゲームは、とにかくプレイ時間が長い。
プレイ時間に上限は無いので、数百時間とか一千時間以上接続しているキャラクターが普通にいる。
長い時間プレイするとその分強くなるので、プレイ時間の長いキャラクターは(通常)強い。
だから、長い時間をプレイした(育てた)キャラクターへの愛着はみんな強い。
ゲームでそれだけ強い人はゲーム中で尊敬されるが、
逆に言うとそれだけの時間をゲームに費やしていることになる。(通称「廃人」)
ではその「強さ」がゲームプレイヤーの一番大事な物か?
それは違うと思う。
他にもレアアイテムやスキルや・・・というのがあるだろうが、一番は「関係性」だと思う。
誇張や誤解を含んだ言い方を敢えてするが、「スゲー面倒くさいSNSがネットゲームなんじゃ無いかと思う。
(もちろん全てのゲームが、というわけではないが)

大切なのは「コミュニティ」

前置きが長くなったが、「ナツノクモ」の舞台はそうしたネットゲーム上のある村。
このコミュニティはその管理者が両親を殺した上、複数の関係者の死により
世間の非難を浴びることになる。
ネットの世界の通例で、そういったコミュニティには外部からの強力な攻撃を受ける。
ナツノクモでは、単純なゲーム上での攻防を描くほか、
精神病院(セラピー)の役目も果たしていた「動物園」の人間関係を丁寧に描こうとしている。


自分の生活を犠牲にしてまで、ネット上の村を守る人達の目的は何だろうか。
それは、自分の所属するコミュニティを大事に思っているかどうか、だと思う。
これは別にネットだからとか、ゲームだからだとかは関係ない。

ネットゲームの可能性

知り合いでもMMORPGで知り合って結婚しました」という人が何人かいる。

Cate Lisle & Electron Cleanslate Wedding / Sean Heavy

※写真はセカンドライフですが、セカンドライフやってた友人はいません。
ゲームの中でも、MMORPGはかなり面倒くさい部類に入る。
複数人のパーティで出かけるなら、あらかじめ待ち合わせしないと行けないし、
一度の遠征にも結構な時間がかかる。
メンバーの一人がトイレに行くなら小休止になるなど、なんだかんだで待ち時間も結構ある。
で、そういう時間の雑談が、出会いに繋がる。
この面倒くささが、ゲームを出会いの場にしているとは思う。


ナツノクモで好きな表現は、「現実」という文字に「リアル」「オフ」の二つのふりがなを使い分けていること。
「リアル」と読む場合は、その反対語は「仮想(バーチャル)」になる。
この場合、ゲームの世界は「現実ではない」という意味で、批判的な意味合いを持つ。
「オフ(オフライン)」と読む場合は、反対語は「オン(オンライン)」になる。
この場合、ゲームと現実はあくまで一つの事象「表裏」であって、優劣はない。
数十・数百時間をネット上で共に過ごした上で会うので、
見た目のギャップはあれど、普通に話ができるのは当然とも言える。

婚活するならゲーム上で

我らが奈良県は、県を挙げて若者の婚活支援を行っているらしい。
まぁ、結構なことで。
・リンク → 奈良県こども・子育て応援県民会議 なら出会いセンター(なら結婚応援団)
(ちなみに2012年2月27日現在の「結婚した」カップルは198組となかなか成功しているらしい)
別にパーティをするのは構わないんだが、やっぱり趣味が合えば話は早いので、
色々な趣味をやりやすい環境作りをやれば良いと思うんだが、どうだろうか。
上ではMMORPGを挙げたが、「一定時間拘束される」「強制力がある」
というのが出会いにはむしろ向いていると思う。
複数回のパーティを主催しても、なかなか継続して会うきっかけになりにくいんじゃないだろうか。


定期的に、集まって趣味で遊ぶ場を設ける方が良い気もするがどうだろう。
言うなれば「大人の部活動」だ。
スポーツでも良いし、ゲームでも良いが、男女で平等に戦えるということならゲームの方が良いだろうか。
ゲームは将棋でも、モノポリーでも良いが、多少でもキャッチーで話題性のある方が良いだろう。
最近だと、カードバトルが人気らしい。
今更ながら、という気もするが。
遊戯王は世界最大の販売枚数を誇る巨大なゲームだが、その歴史もあり初心者にはやはりハードルが高い。
この業界は詳しくないので聞いてみると、ブシロード社の「Vanguard(ヴァンガード)」が人気とのこと。

秋葉原野村ビル 壁面広告 カードファイト!! ヴァンガード / fukapon

・リンク → 株式会社ブシロード
売り上げ推移はこんな感じ。

平成20年7月期売上 3億62百万円
平成21年7月期売上 25億40百万円
平成22年7月期売上 32億71百万円
平成23年7月期売上 64億91百万円

伸びが凄いな!
何?基本はカードだけ?利益率何割だよ、ここ。
いや、それはそれとして、とにかくこれだけ伸びているのなら、ユーザーが拡大しているのは間違いない。
大会では「女性専用対戦台」も用意されていて、結構な数の女性プレーヤーがいることが分かる。
ということで「県主催・定期婚活ヴァンガード大会」とかいいんじゃないだろうか。
対戦ゲームなら、対戦相手を求めて人が集まりやすいだろうし。
いや、本気の対戦で雑談するのかは知らないけどさ、こういう趣味が合う人を集めるのって良いと思うんだけど。


あ、元々は何の話だったっけ。
そうそう。ナツノクモ最後は打ち切られたのか、ちょっとグダグダな終わり方なのがもったいないけど
「趣味のコミュニティにどっぷり浸かる」という生き方もアリかもな、と思わせてくれる作品です。
ちなみに「ゲームの世界を現実のように感じてしまう」ではないです。
それはマトリックスであり、インサイダーケンの世界。
マトリックス 特別版 [DVD]
(「インサイダーケン」はネタが古すぎてAmazonにサンプル画像がないとか!残念)
MMORPG、結構やったなぁ、という方は、是非。

基本に忠実に、新しい提案をする

今更だがこの二冊を読んだ。

スタバではグランデを買え!: 価格と生活の経済学 (ちくま文庫)

スタバではグランデを買え!: 価格と生活の経済学 (ちくま文庫)

クルマは家電量販店で買え!―価格と生活の経済学

クルマは家電量販店で買え!―価格と生活の経済学

「売れている経済のなんて、内容が薄いんでしょ?」
という偏見を持っていて、ごめんなさい。


著者の吉本佳生氏は銀行勤務後、大学教員や企業研修を行う経済学者(コラムニスト)。
NHK出社が楽しい経済学も手伝っていたとのこと。
なるほど、極端な単純化による解説はこの番組と共通している。

出社が楽しい経済学

出社が楽しい経済学

番組は面白かったけど、本にするとちょっと内容が薄い感じだったなぁ・・・残念。

何が良いって、文章が上手い

まだ読んでいらっしゃらない方もいると思うので、
余りネタバレになることは避けるが、とにかく文章や説明の手法が上手い。
扱っている題材は例えば「スタバではグランデを買え!」では
「裁定」「価格差別」「規模の経済性」「比較優位等を説明し、それに関わる考え方として「取引コスト」「追加コスト」を説明している。
言葉だけなら今まで経済やマーケティングに関わる者なら全く目新しくはない。基礎の基礎。


作者の上手なのは、

  • 単純化による概要の説明
  • 実事例での当てはめ

この二点が非常に上手なこと。

簡単に説明することが、一番難しい

経済の説明は、単純化しなければ分かりにくいのだが、そのさじ加減は難しい。
単純化しすぎれば架空の世界だし、現実を簡単に説明するには、理解しやすい数字に丸めなければいけない。


例えば「価格差別」
価格差別とは「高く買う人には高く売り、安く買う人には安く売る」という戦略。
口で言うには簡単だが、二人の購買者が並んでいて「あなたには5000円、あなたには1000円で売ります」
なんて言えるわけがないし、誰がいくらで買うつもりかは分からない。
そこで「最初は高く、徐々に安く」という時間的な制限をつけて安くしていくなどの手法が使われる。


本書では価格差別一つに対して、
ハリーポッターのパッケージが初回限定版10,290円から980円まである理由」
「携帯電話の複雑な料金プラン」
という例を挙げて、まるまる一章を使って解説している。
これはとても分かりやすい。

ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1 (1枚組) [DVD]

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また電話料金については、

  • 通話状況による利用者の最適選択
  • 複雑な料金プランを打ち出すことで、利用者の情報量による価格差別

の二面をしっかり説明している。

広告やパンフレットは、あなたが賢い消費者であるか、賢くない消費者であるかを、
企業側が見定めるために用意された「消費者能力テスト」であると意識すれば、
広告やパンフレットの読み方も変わってくるでしょう。
注意深く読まない消費者は、割高な料金や価格を支払うことになりやすいという意味で、
損をする可能性が高いのです。
(スタバはグランデを買え! :第4章 携帯電話の料金はなぜ、やたらに複雑なのか? p125)

ちなみにこれは以前に作成した各社料金プランの一覧表(横軸・通話時間、縦軸・月額料金)
古いデータなので現在の価格とは異なる可能性があります、っていうか多分違います。

大体がこういう料金を網羅したグラフがないあたり、電話会社が説明を故意に複雑にしている事が分かる。


そう、ビジネスの現場にいたり、経済を多少は勉強した人なら大した内容は言っていない。
でも基本を理解している人が、経済を解説するのに、「価格差別」だけで2章も使っているのが凄い。
どうしても、なまじ物を知っていると原理説明ありきで
「裁定に1章、価格差別に1章・・・」と組み立ててしまう。
この本を読んでも、上に挙げたトピックは一つづつ出るのではなく、五月雨式に単語が出てきて、
事例を中心にまとめるような形になっている。
これって、読む側からすると分かりやすくスッと入るが、これを書ける人って凄いなと思う。


ちなみに手法としてストーリー仕立てで問題解決をしながらビジネスの勉強をする、というのは良くある。
実践的なネタを扱うならこちらの方が特定の内容について深く掘れるので、色々な本が出ている。
そういえば前にこの本も取り上げたな。これも良かった。

・リンク → 中小企業に勤めるあなたへ−わかりやすさを、コーディネート

基本は役に立たないのか?

この本で一番面白かったのは作者の文章力なので、それは一般的な感想ではないかもしれない。
ただ、広義に「取引コスト」を定義して、
「裁定が働いて、最終的には一物一価に落ち着く」
という説明を繰り返ししているのは今更ながら面白かった。


「裁定」は経済学の基礎の基礎で、
「同じ商品が高い価格と安い価格で売られていれば、最終的に安い方に均一化される」
というもの。
ジュースが隣の店同士で、200円100円で売られていれば、200円の方は売れないから、
最終的に両方100円になるよねと言う話。
ではなぜ98円でジュースが売られているスーパーの店先に、ジュース130円の自販機があって売れるのか?

自動販売機 / junyaogura

筆者はこれを「取引コスト」という概念で説明し、
「消費者の中ではすでに裁定が働いた結果の状態」
と説明している。
「中まで買いに行って並ぶのメンドクセ〜」が金額にして30円分、ということ)
ここまでは当たり前の話。
企業は裁定が働かないように、特許による囲い込みや新商品による差別化を行い、価格を維持する。
実際に、著作権や特許で囲い込みを行う医療や映画・音楽は、権利切れが来ると裁定による価格破壊が一気に起こる。


筆者は「裁定」「価格差別」をうまく利用すれば業界の効率化ができるし、逆に悪くすることもあると
特に「クルマは家電量販店で買え!」で解説・提案している。
今の世の中は資本主義だ。
資本主義というのは、カネが力を持つということ。
ならば、経済学者はそのカネを使って、より良い未来を提案するべきではないか?
筆者は明確には言っていないが、そういった意図が感じられる。
この筆者が良いと思うのはここで、経済を勉強することで「より自分が儲ける」という話が多いなか、
「より良い社会となる提案を考える」という部分にフォーカスしているのが良い。
(その提案項目にすべて賛同しているわけではない)


作中の事例では例えば「タクシーの料金」「子供の医療費」
当時居酒屋タクシーと言って、官僚の送迎に金券やツマミを提供するタクシーが問題になっていたが、
筆者は「経済合理性があり、タクシー運転手の収益が厳しい限り全廃は困難」と指摘、
そこでタクシーの利益を増やすには「運賃形態の自由化が必要」として
「乗車率の高い時間帯には高く、低いときには安くする料金設定」を提案している。

行列のタクシー / 華氏103

今でも深夜は割増料金だが、例えば雨の時間は高く設定するとか、そういうこと。
その複雑さと価格設定がキモになるが、実際高速道路は複雑な時間帯割引で利用者を分散させようとしている。
また子供の医療費については「医療費をタダにしたら小児科が混み、更に待ち時間が長くなる」として、
特に忙しい共働き家庭ほどそのデメリットが大きく、タダの悪法だと否定している。

回復してきたけど念のため病院へ…。 / senov

これには賛成。
うちの自治体はこの制度を導入しているが、そのメリットよりデメリットが多いと感じる。
小児科が少ないことが問題なら、小児科への補助金制度を設ければ良いという意見にも賛成。
あと産婦人科にもね。

基本は大事

基本は知っていても使うところがない、訳ではない。
みんなが知っている基本なので確かに使いどころは難しいが、基本的な内容ほど、使うと強力な武器になる。
例えばうちの会社のやり方は、本当に基本中の基本。
「裁定を働かせる」の一点だ。


自分の働いている業界は、工場の業務用機器。

JAL 機体整備工場 見学会 / norio.nakayama

工場用は参入障壁が高い。
それは作る商品の開発ハードルと、窓口が分からないという営業のハードル
専門のものなので特注品が多いという商品的なハードルの三点がある。
(営業ハードルを解消するため、商社が発達している)
逆に入り込んでしまえば独占的地位を築きやすい。
このため高い利益率を持つメーカーが業界トップという、特殊な構造の商品も多い。


うちの会社は、商品は既に開発して持っている。(商品・開発のハードルはクリア)
ならば、それを持って業界トップの同等品を安く提供すれば、裁定が働いて自社に流れ込むことになる。
戦略は非常にシンプル。


現状は異常に高い利益率の会社がトップ企業なので、一物一価が破壊されている。
定価で高く売る会社から、俗に「半値八掛け五割引(0.5×0.8×0.5=0.2倍)」と言われるような安値まで
会社や買うタイミングで、大きく違う価格を提示して売る状態になる。
それで成立する、この業界も凄いが。
要は、レクサスしかない自動車業界だと思えば理解しやすいと思う。

IMG_3862 / CLF

レクサスしかないから、「走れば良いんだけど・・・」というお客様にもレクサスを提案するしかない。
ならばうちはスズキになりましょう、ダイハツになりましょうと。

Daihatsu / Kojach

利益率の高い会社は、上位機種を扱えば良い。
汎用品はうちが扱えば、日本の製造ラインや製造装置のコストダウンにも繋がる。
それがひいては日本の製造業の強さに、多少なりとも貢献できないかと。
そんな戦略。


ユニクロ三光マーケティングフーズ(金の蔵Jr、月の雫等)、元禄寿司(回転寿司)など
圧倒的な低価格で仕掛けて業界の裁定を働かせる戦略は、最も初歩的だが強力な戦略なのは間違いない。
それが業界内の体力勝負なら問題だが、現在の体質が古かったり、異常な利益を取っているならむしろ
正統な値付けに戻すための戦略といえるんじゃないか。
工場内のコストダウンでも裁定を働かせるべく、うちの会社はがんばっていければ、と会社の末端にいながらにして思う。


自分の会社の戦略について考えてみると、なかなかおもしろいと思う。
戦略が納得できれば、日がな理不尽に感じていることも意外に納得できるかもしれない。
逆に戦略が感じられなければ、会社に見切りをつけるいいきっかけになるかもしれない。
細かい戦術面は日々変わるが、大きな戦略はそうそう変化しない。
会社の戦略が自分に合うかあわないか、考えてみることもなかなかおもしろいと思う。