出張で長距離移動する時は映画を見ることも多いので、Twitterで備忘録程度には残すようにしています。
で今回見たのは、ヒュー・ジャックマン主演の「グレイテスト・ショーマン」。
他にも見たけど、とにかく、これがとんでもなく良かった。
なんか見ながら感覚的には1/4ぐらいは泣いてた気がする。
この感想はとてもTwitterに書き切れるもんでは無いので、こちらでウザく熱く語ってみようと思います。
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そもそもなんで見ようと思ったかというと、出張先で親会社の相談役が熱く語っていたから。
いつもは穏やかなタイプの人で、そもそも映画の話なんてしたこと無いのに、この映画に関しては「とにかく話もいいけど、歌がいい。覚えたくて4回も見た」そう。
そこまでベタ褒めするなら、と思ってみたら、これが本当に良いのなんの。
そらサウンドトラックも欲しくなるわ、これ。
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映画の筋立てはシンプルで、「くたびれたサラリーマンが、会社の倒産を機に一念発起し、ショービジネスで成功する」というもの。
映画のジャンルとしてはミュージカル、時代背景は1920年代頃のアメリカ。
成功したと思ったら増長して破滅、その内省から大事な物を思い出しての再生。
もうね、筋書きも舞台装置もベタ。
ベタの中のベタ。
「真っすぐいって ぶっとばす 右ストレートで ぶっとばす」
これを正面切ってやる時点で偉い、というか凄い。
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そしてそのコンセプトを、エンターテインメントとして、ちゃんとものすごいレベルで完成させてくるのが恐ろしい。
一つ一つの映像は素晴らしいけど、そこに最先端のお金の掛かったCGがふんだんに使われている訳じゃない。凄いのは、技術よりも、技巧。
美しい表現はたくさんあるけど、少なくとも分かった範囲でそれというオマージュはない。だから表現は自分の言葉と絵。
この映画の良いところと凄いところは、そうした良い点の一つ一つがとにかく地道な努力の積み上げに見えること。
この良さは、例えば「レディ・プレイヤー1」とは対極で、あちらは事前知識があるほど面白い。どちらが良い・悪いでは無く、コンセプトが違うという話。
ただ、この「グレイテスト・ショーマン」に関して言うと、過去の全ての作品から切り離して見られるというのはもの凄ぇことだと思うし、だからこそ「オールタイムベスト」たり得る作品だと思うわけです。
この作品の凄さを、自分のようなそこまで映画に詳しくない人間が、しかも文字で伝えるのは難しい。「音楽」については本当に言うまでも無いレベルの完成度なので、これはぜひ映画として見て欲しい。だからここでは「時間」と「言葉」について、語ろうと思う。
「言葉」。
映画において言葉は重要だけど、海外の飛行機会社で長距離便に乗って映画を見ると、日本語訳が無いことも多い。
仕方が無いから「英語音声/英語字幕」でなんとか見ることが多いけど、例えばインターステラーなんて後半何が起こってるか意味が分からなかったし、どうしてもわかりやすい、アクションのエンターテインメント作品に寄ってしまいがち。
でも、この映画に関しては、ほぼ英語で理解できた。
そもそも、特にミュージカル映画は原語以外で見るのが難しい。
ミュージカルにおいて音楽は音楽でもありセリフでもあるから、特に吹き替えで見ていて音楽部分だけ急に原語に変わったりするとかなり違和感がある。
「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」や「アナと雪の女王」なんかはかなり頑張って訳しているけど、それでも例えば「アナと雪の女王」の「Let it go」の訳は全ての含みを訳し切れていないと思うし、言語が違う以上、それは当然だと思う。
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だからこの映画が英語で理解できたのは自分にとってはすごく良かった。
例えばこの映画を代表する歌である「This is me」で
「I am brave, I am brueced, I am who I meant to be」
という歌詞がある。
見て分かる通り「Brave(誇り)」「Brueced(傷ついている)」「Be」と「B」音で叩きつけるように歌う力強い部分。しかもこの前段部分が「Dram」「Drawn」と「D」音で韻を踏んでいる。言葉が分からなくても、とにかく強い音で韻が、しかもかなり短い間隔で踏まれているので、勢いを感じる。
それが公式の歌詞の訳では
「勇気がある 傷もある ありのままでいる」
となんかボヤけた感じになってしまっている。
ミュージカルなんだから歌には気を遣うだろう、と思うでしょ?
でも、台詞回しもこんな感じで、とにかく簡単な言い回しで、文章が短い。
だから文法的にはほとんど中学生レベルで理解できると思う。
もちろん単語としては難しい物もあるけど、それも含めて良い英語の勉強になるハズ。
「時間」。
これは上の「言葉」にも繋がるけど、これだけの内容なのに上映時間は1時間45分。
エンディングを除くと一時間半強だと思う。
とにかくテンポが良い。
この映画は生まれて初めて、飛行中に二回見たけど、面白いだけじゃなく、それが出来るだけの短い作品でもある。
つまり「映画大好きポンポさん」の言うところの最高の映画。
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ポンポさんは良い映画を「上映時間が短い映画」と言っていて、それは自分が小さい頃(いや、今でも小さいんだけど)長い映画を見せられたのが辛かったから、と話す。
でも、それはそれとして長い映画を「ぶよぶよした脂肪だらけの映画」といい、批判する。
それがどんな物か?の少なくとも一つの正解が、この映画だと思う。
初っぱな、製作会社のロゴが出た時点から観客を引きずり込み、ほとんどセリフの無いまま回想シーンを突っ走る。
回想自体が10分ほどで短く畳み込まれているのに、それだけで人生の振り返りや家族との確執までがっつり描かれているし、奥さんが「いいところのお嬢さんだったのに今は肝っ玉母さん」であるのを一言も説明せず、回想との比較だけで「想像させる」。
もう、この時点でとんでもない情報量になってる。
そんな造りだから台詞回しも非常にうまくて、例えば
娘が「何が欲しい?」と言われて「バレリーナシューズ(Ballet Slippers)が欲しい」と答え、両親が顔を見合わせる
これだけで「ニューヨークでバレエを(当時)やりたい。でもバレエをやるという事は上級階級入りを意味して、その目に晒されるだけのお金と地位を手に入れてやらないといけない」という事を表現している。
もちろん上に書いたことはその表情では分からないけど、話が進めば「あーそういうことね」と分かるようになっている。
もっとわかりやすい、凄い例は、夫婦の思い出の場所に行ったときのセリフ。
"- Is it?" (あそこ?)
"It is." (あそこ)
これ以上なくシンプルで、このセリフで通じることは観客も回想シーンの伏線から分かるし、夫婦の仲の良さも示している。
当然原語で理解できる。(さすがにこれは理解できるでしょ)
こんな感じなんすよ、全てが。
で、短いことは「見やすさ」にもやっぱり繋がっていて、事業が失敗しても5分後にはいろいろ復活してる。失敗した暗い部分は必要だけど、それを見てても楽しくない。それがテンポが良いことで軽減されるわけです。
もちろん「お前少しは反省しろよ」と観客の共感を得なければ意味が無いので、これもまた「なんで反省できたのか」についてもガッツリと最初から伏線を貼りまくっている。これも構成の妙としか言い様がない。
テンポの良いミュージカル?
ミュージカル映画って日本だと嫌われがちだけど、「なんであいつら歌ってるの?」という根本的な話は置いておいて、やっぱり歌があること自体が映画全体を冗長にしている部分は大きいと思う。
「La La Land」も「Sing」も歌のシーンは「歌を見るシーン」で、色々歌っているとは言っても、その歌詞自体でストーリーを進めることは少ない。
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例えば「La La Land」の冒頭はすごく楽しいし面白いけど、映画のストーリーとしては一歩も進んでない。
ところが「グレイテスト・ショーマン」では全ての歌の間にストーリーがガンガン進んでいく。だから飽きる間もなく、真剣に歌に集中できる。
例えば上にも挙げた「This is me」。
非差別者達が自分たちの障害や肌の色などを「売り」にして、
「 I make no apoligies. THIS IS ME(謝るもんか、これが私だ)」
と歌うんだけど、これ絵としてはサーカスのステージで歌ってるんですよ。だから「歌って、踊って拍手を貰う」という見えている行為と、歌詞の内容は別で、観客はその両方を見て理解しなければいけない。
上の「La La Land」の例を挙げるまでも無く、ミュージカルでは「実はミュージカル部分は脳内イメージでした」という「お約束」がよく使われて、それもまぁ嫌われる理由だったりするのかなぁとも思うんですが、「グレイテスト・ショーマン」に関して言うと空想のミュージカル部分は冒頭のごく短時間だけ。こういう所もとにかく情報を圧縮して、詰め込んで見せてやろうという意図を感じます。
ビジネスとして、自分の人生として
最終的には「良い片腕のお陰で資金難を克服して」事業を回復させる、ってどこかで聞いたなと思ったら本田宗一郎とかですよね。
創業社長はアイデアマンだけど経理に疎くて、右腕の金庫番のお陰で事業に成功できたと。
その辺のビジネスとしてのリアルさの描き方も上手いので、大人も安心して楽しめます。
そうしたビジネスの成功と失敗、ということで言うと、自分がボロボロ泣かされたのも身につまされるところが多々あったのかなと思います。
前職で文字通り倒れるまで働いていたけど、それが「家族のため」と言いつつ、家族を顧みられていなかったなと。
結局倒れて前職は退職、今の会社に入社したときは年収は大きく下がりましたが、妻は喜んでくれたし、数ヶ月すると「空気がおいしい。食べるものがおいしい」と実感できるようになりました。本当に。
通勤途中の乗換駅で電車に乗れなくなってベンチで30分座ってたとか、まぁ冷静に考えりゃ異常ですよね。当事者になるとその判断力が失われるんですが、そのほかの感覚も軒並み麻痺しているわけです。
要はそれまで、それだけ精神的にも追い詰められて仕事していたんだろうなと。
この映画の人物描写がスゲーなと思うのは、登場人物が誰も「心変わり」を一度もしていないことです。
主人公はあくまで「ショーマン」であり、「家族に幸せを与えたい」と言い続けます。だから途中の転機も「嫁に美味しいそばを食わせてあげようとしてたら、そば打ちにのめり込んだ」だけであり、「あ、そば打ちは本職じゃねぇや」と気づいただけ。「これからは反省して家族と一緒にいるよ」なんて一言も言いません。
町のゴロツキにはおそらく最後まで「出て行け」と言われるだろうし、新聞記者とは心を開き合ったように見えても、彼の舞台に対する態度も本質的には最後まで変わっていません。
「大人の考え方は変わらない。でもその中でやっていけることはある」
って、なかなか映画としては面白い落としどころかなと思います。
でも、泣かされたとは言っても、この作品は「お涙頂戴物」ではないし、作中でも主人公が「お前のサーカスは変人・奇人だけを集めた町の恥だ」と言われたのに対して、「確かに私の見世物は作り物だが、笑顔は本物だ」とわざわざ「映画と同じ」と言っています。
畸形や障害のある人を集めただけで無く、そういった障害を「演じさせた」作品であるのだから、あらかじめ来るであろう批判に対しての見解かな、と思います。
この監督も食えねぇなぁ。
そんなわけで、「グレイテスト・ショーマン」、私なんぞが言うまでもありませんが、オススメです。
個人的には原題の「 The Gratest Showman」の方が好きですけどね。
「The」を付けるということは、「世界一の」を表すわけで、しかもこのセリフ、主人公が自分で言ってます。そういう背景も含めて、ぜひ「The」はあった方がいいなと。
ちなみに2分予告は全然良さが出てなかったので、アレを見て「あんまりっぽいなぁ」と思わないように。絶対面白いですから。