ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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中小企業に勤めるあなたへ

「世にあふれている経営書・ビジネス書はだいたいが大企業向けのものばかり」
「会社の数は日本で約300万社ありますが、そのうち大企業と言われる会社はたった1パーセントほど」
「これでは参考しようにも実感がわかない」
いや、探せば中小企業の社長の話も、中小企業向けの本もあるんだけど、
たしかにベストセラーになるアメリカの経営学やマーケティング理論、
成功した大企業の話なんて言うのは中小企業にはおいそれと転用できない。


冒頭の三行はこの本のプロローグより。

あなたの会社は部長がつぶす!

あなたの会社は部長がつぶす!

「あなたの会社は部長がつぶす!」
おもしろい表題だなぁ、と思って読んでみたらなかなか面白かった。


もう一つ、面白い本があった。

「なぜおいしいアイスクリームが売れないの? ダメな会社をよみがえらせる3つのレッスン」


どちらも現場をよく知って書いているな、と感じる良書。
大企業ではなく中小企業、かつ製造業に向いている物は確かに少ないと思うので紹介したい。

現場的すぎる中小企業の生き残り策

中小企業の「超実践」の本はそれなりにある。
どの辺の棚を探せば良いかというと、「経営」というより「経理」の棚。
現場で30年たたき上げた中小企業診断士や税理士の方々の「資金繰りマニュアル」
それなりの数があり、確かに役に立つ。

International Money Pile in Cash and Coins / epSos.de


はっきり言うと、企業は手形さえ出さなければ最悪社長が「もう辞めた」と言うまで潰れない。
このギリギリのところでいかに会社を「回すか」のマニュアルやノウハウは中小企業においては大事だが、
そこには展望も何もない。


こういう部分からもう少し先を見て、会社をどうするかのビジョンを中小企業のレベルで見た本、
となると地に足の付いた本はなかなか珍しい。

書評:「あなたの会社は部長がつぶす!」

この本は実際に中堅、中小企業を再建させてきた「雇われ社長」の体験記。
自身の体験から、会社を建て直すのは「人」であると断言。
いかに社内の人を知り、人材を構築するかのノウハウと手順を書いている。


「社長はひとりでは何もできない」(本書 p20)
という大前提の元、
「問題はすべてコミュニケーションにある!」(第一章)
として徹底的なヒアリングを行い、問題点を洗い出し、組織を再構築する。


ここまではとても参考になる。
「部長が」
という表題も、良くも悪くも経営を左右するのは部長級の判断である、という自身の体験から。
中小企業では部長職といっても部下が数名のことも多い。
またスキルよりも経験で職位を上げることもあり、経営の判断力と職位が一致していない。
そういう経営層には、手厚い退職金を払ってでも辞めてもらう方が会社の急回復に繋がる、という話。


さすがに外資系企業に雇われ社長になり、短期間で業績を回復させたというだけあり、
結論としては「辞めて頂く」というお話が多い。
この大ナタを、日本企業で社長がいきなり振るえるかには疑問も残る。
ただ、本当に問題があると感じるなら、ここまでの覚悟を持ってやる必要がある、
あるいはこうやって何社も業績を回復させた人がいる事実は知って置いて良いだろう。

ちなみにワタミの渡邊会長は、とにかく「降格人事」というスタイル。

「戦う組織」の作り方 (PHPビジネス新書)

「戦う組織」の作り方 (PHPビジネス新書)

渡邊会長は「降格はするが、必ず、何度でもチャンスを与える」と言っている。
これを徹底する方が、まだ日本企業でも受け入れやすいかなと思う。


とまぁ、概要だけではなかなか伝わらないので、中の図を一部取り出してみた。
本書104ページ、「人材の4象限」

人材を「印象」で4象限に分け、どのタイプかを選別する。
中小企業では、良く動く体力派の「小隊長」タイプが得てして部長職に就いており、
会社の規模が大きくなると経営判断が苦手なため「将校」タイプに進むのに苦労すると。
それなら「参謀」タイプを抜擢し、会社のスタンスを噛んで含め、良く動くようにして
「将校」タイプへと勧める方が良い。
つまり、こうした方針の変換の結果、既存の人材のリストラと抜擢人事が同時に進むと。
この話、言いたいことは分かるが何が「小隊長」で、何が「参謀」なのかの説明がない。
「そんなモン、感覚でやれ」なのだ。
中小企業では人数が少ない分、人材のバラツキが大きい。
下手に厳密な基準を設けても、みんなが特定のカテゴリに分類されてしまう可能性もある。
だから筆者は、ストーリーが出来たら、あとの人材調整などが「感覚」をとても大事にする。
この辺の曖昧さはかなり現場的。
この話を聞いて、「なるほど」と思う規模の会社の人にはおすすめ。
自分が経営層でなくても、経営層はどう考えているのか(どう考えるべきか)を学んでおくことに損はない。

書評:「なぜおいしいアイスクリームが売れないの?」

意外に見かけない、アメリカ発の良書。
ビジネス本でアメリカの物はいくらでもあるし、良い本も多い。
でも、製造業の現場をよく分かった上で書いたと思えるような本は、結構珍しい。
ちなみにこの本の作者は、ベストセラー「シックスシグマ」の作者だそう。
なるほど、「品質第一」というベースコンセプトは共通している。

シックスシグマ

シックスシグマ

作者はアメリカの品質にかなり危機感を持っていて、本書でもこんな言葉が出てくる。
「”品質重視”はアメリカ企業のDNAに組み込まれていないが、日本や韓国の企業のDNAには組み込まれている」(本書 p33)
なるほど、向こうから見たら日本企業はこう見えるのか、という視点で面白かった。


舞台は傾いたアイスクリーム工場で、その工場長がとあるスーパーに売り込みをかける、というのが大筋。
(売れなきゃオーナーが会社を清算して土地を売っちゃうよ、というのは何ともアメリカ的)
スーパーの店長がたまたま工場長の知り合いだったので、そのツテを頼って営業すると、
悪い部分を徹底的に指摘された上で、その店長による会社の改善講座が始まる、という話。
プロットだけ取り上げるとなんと言うこともない。
この本のキモはその地道な改善だが、「聞く」ことにとても重点を置いているとことが素晴らしい。

Dog Looking at and Listening to a Phonograph, "His Master's Voice", The Original RCA Music Puppy Dog Logo Symbol for Advertising / Beverly & Pack


本書では
「アメリカ企業は、派手な”興奮”を演出するのは得意だが、客のもっと基本的なニーズにじゅうぶんにこたえていない」(p77)
として、そのためには
「客の意見に耳を傾けよ」(p69)
という。
とても面白かったのは、耳を傾けるべき客は、顧客だけでなく、従業員や、その家族から始めよという話。
そうなんだよ。品質の問題って、結構現場は分かってたりするんだよね・・・


改革の流れはある意味教科書通り。
だが、実際の改善活動で一番難しいのはその「きっかけ」「維持」
本書は物語の中で、そこをかなり丁寧に書いているので出来れば本編で読んで貰いたい。
ただ一転、日本と違うなと思ったのは「維持」の考え方。
日本ではカイゼンとして、現場の生産改善や効率化を継続している。
その中の基本的な考え方は「100%は存在しない」ということ。
今までも色々な改善方法を考えたが、より良い方法があるはずだ、として新しい提案をし続ける。
ところが本書では「つねに”完璧”を目指す熱意を部下全員に植え付けよ」(p114)として、
「完璧」が存在するという前提に立っている。
これは国民性の違いなのかな、と少し面白かった。

この二冊を取り上げた理由

製造業に携わり、色々な工場にお邪魔するが、何年もやっている会社は、それなりに仕組みはできあがっている。
(たとえそれが経理のおばちゃんの細腕一本にかかっているとしても)
だから、それが世の中の基準では何点なのかを考える機会というのは少ない。


「なぜおいしいアイスクリームが売れないのか?」を取り上げようと思ったのは、
本書の「三つのニーズ」が面白かったからだ。

  • 第一のニーズ:ごく基本的なもの(車のエンジンがかかる、まともに走る、お店で十分な品揃えがある)
  • 第二のニーズ:出来不出来に関するもの(運転しやすい車、加速性能が良い車、自然食品の品揃え)
  • 第三のニーズ:”興奮”にかかわるもの(新型ハイブリッド車、容量半分の洗剤)

このブログに限らず、経済記事で取り上げられるのは通常「第三のニーズ」の部分だけだろう。
だが、そのニーズに応える企業は第一・第二のニーズに当然応えているし、
その読者・消費者もみんな「そんなのあたりまえ」と思っている。
だが、その第一・第二のニーズこそ企業が不断の努力で維持している物だ。


企業が傾く際には、基本的な部分が脆くなっていることが多い。
「靴下屋」を展開するタビオは、以前倒産の危機に陥った。
・リンク → タビオ株式会社 企業情報 -Tabio(タビオ)

メリークツシタマス @ 靴下屋 / norio_nomura

この時新商品の要望は現場から本部に届かず、売り場では経費削減のため蛍光灯も変えてくれなかったと言う。
売り場も当然やる気が出ないし、客足も遠のき倒産寸前になった。
どちらの本も、結局は同じ事を全く違う切り口で伝えている。
会社とはどうあるべきか、まずは基本をしっかりすること。
自分の会社のやるべき事をひとりひとりが考え、「適切な」組織を作っていくと言うこと。
逆に言うと自分が今の組織の中で適切な動きをどこまで取れているか。
考えると耳の痛い話にはなるのだけれど。