ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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弁護士は、職業じゃなくなる

弁護士が増えているとは聞いていたが、友人(弁護士)によると業界内での危機感は当然あって、
「食えなくなる前に対策を考えないと」
という人も多いらしい。

弁護士ってそんな増えているの?

実際の弁護士数の変化を調べた。
司法試験の改訂で、その合格者は増加している。
ここまでは国の想定通り。
ところが、司法試験合格者が進む「法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)」のうち、弁護士のみが急増。
グラフで見るとこんな感じ。

・リンク → 法曹人口政策に関する緊急提言 − 日本弁護士連合会


裁判は法曹三者が揃うことで成立する。
日本の裁判をスピーディにするためには人口あたりの法曹三者の数を増やそう、
それが司法試験改訂の前提だと思われるが、これではその前提を満たせない。
では弁護士はどうするべきか?

弁護士が増えると桶屋はどうなる?

ある市場があり、プレーヤー(事業者)の数だけが急に増えるとどうなるか。
市場が伸びていれば、みんなが売上が伸びる。
戦争特需や高度成長期の日本は正にそんな状態、いわゆる「作れば売れる時代」だ。
では市場のパイ(大きさ)がそのままだったら?
市場は「食い合い」になり、一人(一社)あたりの売上・利益は減少する。
家電やタクシー業界でこういった過当競争が問題視されるが、
その波が弁護士にも降りかかろうとしている(あるいは降りかかっている)

DVC00125 / Tamago Moffle


過当競争に陥ると、単価が下がる。
以前は弁護士への相談時は弁護士会により最低料金は一時間何千円となっています」と聞いた記憶があったが、
それがカルテルじゃないかという判断から、最近は最低料金が撤廃され、任意価格らしい。
また初回相談無料という弁護士も増えているとのこと。
他の市場から見たら当たり前じゃねぇかと思うが、ようやく弁護士にも価格破壊が生まれているということか。

こんな時代の弁護士像

こんな時代に弁護士はどうするべきか。
もちろんアメリカ式に、巨大な弁護士事務所が大きな案件を取りに行って巨大な報酬を得るのもいい。
それはそれで構わないし、ビジネスモデルとして日本でそれが成立するかは興味深い。
今回は、そんな何億・何十億の案件を扱わない、一般の弁護士のビジネスモデルを考える。
要は、友人諸氏の事務所がどうしたらいいのかを考えてみる。

新規領域への進出

弁護士はいわゆる「士業(さむらいぎょう)」の最高峰と言われる。
難関と言われる司法試験をパスした人間だけがなれるし、扱える業務も幅広い。
ただ、現在の弁護士はその扱い業務のうち、実は一部しか行っていない場合が多い。
弁理士司法書士行政書士など、たくさんある「士業」のうち、相当部分を実は弁護士は担当できる。
「日本には弁護士が少ない」と言われるが、
他国では弁護士の業務である部分を行政書士などが扱っていると考えると実は遜色がない
という意見もある。
・リンク → 弁護士人口から見る日本人の特徴と司法改革について


だから、弁護士の人数が溢れて、現在の弁護士業務では食えなくなったらどうするか。
手っ取り早いのは業務の幅を広げることだ。
都合の良いことに、弁護士はそのバッジだけで手を広げられる領域がたくさんある。
司法書士行政書士の領域に、弁護士がどんどん首を突っ込んで仕事を取ればいい。
弁護士なら書士では踏み込めない領域まで一人で対処できる。
「相談に来てもらえば、最後まで面倒を見ます」
といえば相談する側も安心だし、複数に請求先がまたがることによるコストも抑えられる。
実際に司法書士行政書士に、現時点で存在意義はない」と言っている弁護士もいる。
・リンク → 弁護士 猪野亨のブログ 司法書士、行政書士に存在意義があるのか


こうなると次に困るのは当然行政書士司法書士
再編はそうやって順々に波及して、大きな波になる。
そうやって全体のレベルが上がるし、最終的には仕組みがシンプルになる。
個人的にはやれば良いと思う。
こち亀「派出所」が実は既に存在しないように(現在は全て「交番」)、
こちら葛飾区亀有公園前派出所 177 (ジャンプコミックス)こちら葛飾区亀有公園前派出所 176 (ジャンプコミックス)こちら葛飾区亀有公園前派出所 174 (ジャンプコミックス)
カバチタレ行政書士事務所」もいつかはなくなるのかもしれない。
特上カバチ!!-カバチタレ!2-(28) (モーニングKC)特上カバチ!!-カバチタレ!2-(24) (モーニングKC)特上カバチ!!-カバチタレ!2-(22) (モーニングKC)

メニューの作成

もう一つは取り扱いメニューの作成
弁護士がよく分からないのは、その業務内容。
法律をバックに紛争解決?といっても裁判以外はなかなかピンと来ない。
実際、裁判を伝家の宝刀に、内容証明を送ったり話をしたり、とアナログな部分が多い上、
守秘義務がある上に、さらに個別の案件の中身があまりにバラバラで、一言で説明しにくいのは事実だろう。
だからどうしても「最終的にいくらかかるか分かりませんが、時間あたりこれぐらいで」
という見積もりにならざるを得ない。
何?人月単価って、SIerなの?
この分かりにくさが弁護士に相談するハードルを上げて、市場の拡大を阻んでいないか。


それなら、良くある事例はまとめてメニューにすれば良い。

Menu Cover - Sichuan House / avlxyz

既存の弁護士業(時間単価)とは別に、メニュー案件は価格を明示して取り扱う。
現在、それに近いのは「顧問弁護士」「過払い請求」だろう。
顧問弁護士は年間いくら、という定額制で「その中で何時間まで相談OK」という制度。
中小企業では突発的な弁護士費用は痛いし、大企業ではいちいち相談の度に稟議を取っていられない。
それなら定額でリスクを抑えられるなら、ということで顧問弁護士契約を取っている会社は多い。
弁護士にとっても貴重な安定収入源となる。
過払い請求はテレビから吊革広告まで、多数の弁護士事務所がこぞって登録した、典型的なメニュー案件。
判例により過払い請求がほとんど定型業務として行えるようになったため、低リスクの作業として
多くの事務所が顧客を取り合い、低価格化が進んだ。
一時の徒花とは言え、こういった形で弁護士事務所が宣伝を打って大きく売上を伸ばした事実は重要。


元々、破産管財に強い弁護士事務所、離婚調停に強い弁護士事務所など特性はあるらしい。
それなら、自分の特異な領域に絞って、平均コストとリスクを勘案し、
平均40万円のコストがかかるなら、「一口60万円で請け負います」みたいな
分かりやすいメニューを打ち出してはどうだろうか。

メニュー化と細分化が、市場を拡大する

以前は、「便利屋」という何でも屋があったというが、最近ではほとんど見かけない。
ただ、便利屋をやる中で利益率の高い、類型業務があったためそれを切り出して成功した事業がある。
その最たる物は「引っ越し屋」だ。

100_5398 / misawakatsutoshi

後発参入組は別として、創業期の引っ越し業は運搬業と便利屋出身がいたらしい。
今では運搬業が小口荷物を運ぶのは当たり前だが、ヤマト運輸が小口をはじめるまでは
トラックと言えば大型トラックで、個別の顧客に行くのは格好悪いとされていたから、
究極のサービス業である便利屋が引っ越し業を始めた、という歴史的経緯は参考になるところがある。


弁護士などの「士業」も同じだ。
弁護士を「サービス業」と捉えれば、顧客にとって分かりやすい提示が必須だし、
そのためのバラツキをリスクとしてある程度事業者が請け負うことが当たり前。
その分をどう価格に反映するかがキモと言える。
実際、エアコンの取り付け等は工数も配管費用もかなりばらつくが、
「一基いくら」で請け負ってくれる電気屋さんが多い。
これだって、業務のメニュー化と言える。


「弁護士」は資格であり、職業ではない。
弁護士自身がそう考えて、顧客へのサービスという面から自分の業務内容を組み替えていけるか。
つまり、次世代の弁護士は、「弁護士」という資格を持つが、職業名は別なんじゃないか。
電話を取って、「はい、破産トラブル解決の××社です!」というのが未来の弁護士像、なのかな。
いや、明るく「破産トラブル」とか「遺産でおこまりなら」とか言われても困るけど。