ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

企画屋から見たボードゲーム市場の成長と、いま目指すべきこと

この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2018」三日目の記事として作成しています。二日目は しらたまゲームズ(@laz_frozentear )様の「作る上で大事にしている事」でした。

 

初めましての方もいらっしゃると思いますのでまずは自己紹介を。

「ペンとサイコロ」というサークル名(屋号)で5年ほどゲームを作っています。制作ゲーム数は7つ。詳細はこちらをご覧下さい。

ボードゲームのデザインについての記事ということで、コンポーネントやシステムについては皆さん書かれるかと思いますので、今日はちょっと別の視点で書いてみます。

 

私は本職で商品企画・事業企画をしていたこともあり、市場規模を調べたり、商品戦略・販売戦略を考えるのが大好きです。(今でも仕事の一部としてやっています)
他の人から「プロデューサーとデザイナーが同居している」と言われたことがありますが、まさにそんな感じで、自分の中で全く違う、二つの目線で考えることがよくあります。

 

こうしたボードゲームデザインの記事を書く時は、デザイナー視点で書く事が多いのですが、今回は「プロデューサー視点」で書いてみようと思います。
市場の話、戦略の話、ということは簡単に言えば「金の話」「売り方の話」です。
こういう話を嫌う人も多いかもしれませんが、たまには、ね。

 
市場の概況

よく「市場規模は何億円」と言われますが、この正確な数字を求めるのは、プロでも難しいです。
業界団体が数字を取っていたり、登録が必須なので正確な数字が上がる業界、例えば自動車の販売台数は、車両登録が必須なので正確ですし、簡単にデータが取れます。
あるいは業界が寡占されていて、そのトップ企業が売上げを公開している場合。
この二つに該当しない場合、特に小規模(100億未満)な業界では正確な統計資料は少なく、推測するしかありません。
では私がボードゲーム制作を始めた5年ほど前、日本のボードゲーム市場はどれぐらいだったか。私の推測ですが、せいぜい25億~30億程度だったと思われます。

 

ゲームマーケット会場はビックサイトになったものの、まだマイナーな趣味で、雑誌やテレビで取り上げられることもほとんどありませんでした。
このため私はゲームを作り始めるにあたり、「既存の日本のボードゲームファンをターゲットにしたら狭すぎるのではないか?」と考えました。
そこで取った手は二つ。

 

ボードゲーム好きでない人にもPRする

私はクラウドファンディングを二度行っていますが、それは「クラウドファンディングに興味がある人と、ボードゲームに興味がある人は違うのではないか?」という想定からです。

今でこそ、ボードゲームの資金をクラウドファンディングで集める手法はたくさんの人が行っていますが、当時日本でボードゲームクラウドファンディングに成功されたのは沖縄の「アルハラシステムズ」さんぐらいだったかと思います。
(当時、KickStarterなどは日本からのプロジェクトが実施できませんでした)


結果としてプロジェクトは(辛うじて)成功しました。
しかし「クラウドファンディング好きでボードゲームは好きでない人は、結局プロジェクトに出資してくれない」という、考えてみれば当たり前の結果を知っただけで終わりました。

 

振り返れば、ボードゲーム人口を増やすPRとしては失敗だったかなと思います。
今でこそテレビや雑誌でボードゲームが普通に取り上げられますが、ほんの5年前はそんなことはなく、「オレがボードゲームを広めないと!」みたいな使命感を持っている人が多かった記憶があります。私のこの思いも、こうした背景に基づく物でした。
この背景って、もう伝わらなくなっている気ますね。隔世の感があります。

 

日本以外の市場にもPRする

日本の市場が当時25億だとすると、ドイツの市場規模だけで400億円程度のサイズがありました。(こちらは統計資料がある模様)
世界で考えれば、その市場規模は1,000億円以上。

現時点での国別の最大消費国はアメリカだそうです。
このため、日本の市場だけで闘うのではなく、当初から海外での販売を見込んでゲームを作りました。
「ペンとサイコロ」作品が当初「日本をテーマにしたゲーム」に拘っていたのはそういう理由です。海外のゲーム制作者に対して、手っ取り早く差別化できるのは「日本人だからこそ分かる、日本をテーマにしたゲーム」だという考え方です。

 

このためゲームを作り始めて数年は、展示会などのイベントは必ず和装で出ていました。当時は「ペンとサイコロといえば着物」と覚えている方も多かったです。

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ヘルプいただいた友人、とるぐちゃん(twitter:@stim1229)と

「和」をテーマにしても、「ニンジャ・サムライ」は出さないようにしました。
処女作からし「三千世界の烏を殺し、主と朝寝をしてみたい」と、どう考えても日本人でも覚えるのが大変なタイトルです。
しかし、私も香港に住んで、仕事で海外に行くことも多いので分かりますが、海外からわざわざ「日本っぽい物」を求めるようなマニアは、「分かりやすいニッポン」ではなく、こうしたゴリッゴリに日本人向けに作った物が大好きです。


もちろん海外に向けての販促も行い、英訳を付け、英語サイト(BGG : BoardGameGeek)への投稿を行うなどしました。

BoardGameGeek | Gaming Unplugged Since 2000


結果として、少数ではありますが海外から直接のお引き合いも頂き、また委託店舗では「『日本人のゲーム制作者が作った、日本風のゲームが欲しい。でも日本語は出来ないから英語ルールがある物がいい』という、海外からのお客様に売れています」という声を頂きました。
マニアックな要望にドンピシャで当たったわけですね。
一時期は売上げの3割程度が海外向けの売上げだったと思われ、狙いが成功したと思っています。


どれだけ綿密に調査をしても、戦略を考えても、外れる物は外れます。
考えるだけ考えて、最後はエイヤで行くしかありませんが、そのときに複数の戦略を同時に打っていれば、片方がコケても、他の部分でカバーできます。

元が個人制作の少部数制作ですから、とにかくニッチなターゲットで良いので、ピンポイントでヒットするものが作れれば大丈夫と考え、それが実際に成功しました。
そうした策のお陰で、ここまでゲーム作りを続けられたと思います。

 

今の日本の個人制作ボードゲームの状況

私がボードゲームを作り始めてからの5年で、日本のボードゲーム市場はマスコミへの露出・店舗での販売数などが、急激に、本当に急激に伸びました。
私も市場が伸びると思っていましたが、ここまで伸びるとは予想以上でした。
結果として、作り始めてから、たった5年で周りからは「中堅」と言われます。
最適なタイミングで参入できたわけで、マーケターとしてはこの分析に関しては自慢して良いかと自負しています。

 

個人制作の分野では、とにかく制作者数が増えました。
制作者数が増えると、市場のレベルアップと二極化が進みます。
売れるところは極端に売れ、また「ボードゲームが面白そう」と元々他のカテゴリでのスキルを持った人がやってくることで、スキルアップも進みます。
「絵が綺麗なカードゲームばかり」というのが今のゲームマーケットを見た海外ゲーマーが口を揃えて言うことですが、これは日本の裾野の広い同人業界から人が流れている証拠だと思います。
絵が上手なイラストレーターを呼ぶ、あるいはその本人がゲームを作るものの、個人制作なので、費用の安いカードゲームを作りがちということですね。

 

これが二~三年前からの風潮。

 

そうして、市場が増えるとお行儀の悪い人もやってくるのは、どの業界も同じです。
「複数人が時間を掛けて対面で話し込む」という特性を悪用して、マルチまがいの勧誘にボードゲームを使う例が報告され始めました。
また、ゲームの剽窃(パクリ)が出てくるだろうと思っていたら、これも今年のゲームマーケットで話題になりました。

 

例えば「ワンナイト人狼」というゲームを、宮崎の「宮崎南印刷」という会社が「人狼ビギナーズ」という名前でパクって出版したのでは?という疑惑が上がり、しかも宮崎南印刷側が「ワンナイトルール」という名称を商標登録したことで、「ワンナイト人狼の商標除けでは?」という話にもなりました。(商標は後に取り下げ)

 

これ自体がパクりかどうかについて、この場で詳細を分析するつもりはありません。どちらかと言えば、気にするべきはこれを受けて宮崎南印刷側の出した「公式見解」の内容です。

(2018/12/04 23:10 ご指摘を受けましたので追記します。個人的な見解としては「ワンナイト人狼」と「人狼ビギナーズ」のルール上の相違は大きく、特に剽窃(パクリ)には当たらないと考えます。下記の記載はあくまで「公式見解」の文言についての意見です)

TakeTaleTable | 商標出願について

法的根拠がないのにも関わらず、商標権の侵害を主張しただけでなく,弊社に対し,ライセンス契約を求められました。具体的な内容は伏せますが,業界の常識を超えており、到底承服できるもではありませんでした。

弊社は,商標権の侵害行為もしておりませんし,そもそもゲームルールはアイデアであり、著作権の保護の対象ではありません。人狼ゲーム自体、海外から伝わったゲームルールであって,ライセンス契約の根拠となる法的権利が存在しません。

(中略)

何度も申しますがゲームのルールはそもそもアイデアであり、原則として著作権等の保護の対象とはなっていません。よって、人狼ゲームを元とする各作品を愛好されている方への影響もありませんし、こちらも一切関与を持つつもりもありません。

 (後略)

(上記部分はリンク先より 2018/11/30 時点の記載を引用。太字は私が追加)

※2018/12/04 23:25 引用範囲を修正

 

引用部分については、「やっぱりこういう話が出てきたか」という感覚です。

昔から言われていることですが、ゲームのルール自体に著作権は存在しません。
ゲーム制作者が権利を主張できるのはゲーム名などの商標、イラストなどだけで、例えば商標登録されている「オセロ」を、古くからある「リバーシ」という名前にしてしまえば、ライセンス料を支払わずにゲーム化できるということです。

 

実際に過去には「Bang!」というゲームが同様のルールで「三国殺」という名前で中国でリリースされ、業界内で問題になったそうです。
昔からこういう話は細かくはあったでしょうが、そうしたパクりものが大々的に成功したことがこの件が大きく話題になった理由だと思われます。
ヒットの理由は、このゲームの特性が中国人のゲームスタイルとマッチしたという国民性なども影響しているでしょう。
ちなみに私が香港に行った際にも、やはり「三国殺」は普通に置いてありましたし、何ならその海賊版もありました。もう訳が分かりません。

香港で見かけた「三国殺」

法的な部分で保護されず、皆が勝手にコピーを作るのであれば、制作者の意欲は低下して業界は停滞します。
しかし世界数千億の規模にも上るボードゲーム市場は、その多くがライセンス契約によって成り立っています。

 

私とラインセス契約

私の例で話をします。

私の処女作「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」は台湾EmperorS4 様でライセンス契約をしています。

展示会場にて、EmperorS4の方々と

台湾に旅行に行った際に、「ゲーム紹介してよ」と連絡を貰って自作ゲームを紹介、そして帰国後に「『三千世界の烏を殺し~』というゲームをライセンス契約したいんだけど」と改めて声を掛けて頂きました。

 

では私は何をライセンス契約したのでしょうか。


EmperorS4版のゲームタイトルは「Crows Overkill -三千世界の鴉を殺し-」です。
オリジナルの名称は「さすがに長い」ということで彼らから提案を貰いました。
つまり、ゲーム名の商標での使用ライセンスではありません。

 

ではルール?
台湾と日本ではプレイスタイルが異なり、台湾版のリリースに合わせてカードの効果を調整しています。
また、それにあわせてカードを一種類追加しています。
大元のルールは確かに同じですが、この意味で全く同じゲームではありません。
つまりルールでもありません。

 

オリジナル版もライセンス版も使用しているイラストは同じですが、これはイラストレーターであるアマヤギ堂様の権利であり、ライセンス料の一部を分割してお支払いしています。
つまり絵とは別の部分で私のライセンスが存在しているワケです。

台湾版「Crows Overkill」

こう分析していくと、EmperorS4様は私の作ったゲームにライセンスを支払う根拠が、実はありません
しかし、彼らは私のゲームに敬意を払って、わざわざ契約を行って頂き、ライセンス料を払ってくれているわけです。
実際に台湾を始め世界では、私が販売する以上の数を販促し、販売して頂いており、感謝しかありません。

 

世界のボードゲーム市場は、こうした「敬意」と「感謝」で出来ています。
業界の不文律といえばそうですが、それを数千億の市場を支えており、それが制作者の意欲を支え得ている事実は無視をするべきではありません。


認知されたボードゲームの市場でやるべき事は

業界が大きくなり、裾野が広くなることで新規参入の方も多くなります。
必然的に、既存のルールを知らず(あるいは故意に破って)動く方も多くなります。

今の日本のボードゲーム制作業界は、まさにそういうタイミングです。

 

ボードゲーム業界はライセンス契約で成り立っています。
これによりゲームデザイナーと販売を行う企業が役割分担できており、完成度の高いゲームが世界各地で翻訳され、現地語で遊べる下地を作り上げています。
「法律では問題無いから」と日本の会社がルールを勝手に剽窃して(パクって)ゲームを販売するようになった場合、海外メーカは日本に対してライセンス契約や輸入、翻訳を警戒するようになります。
実際に過去の記事にも書きましたが、中国での印刷には海賊版の危険が伴います。
それと同じようなことが、今後の日本に起こるということです。

ルールをそのままパクることは、確かに法的に問題はありません。
正直な話、そんなことはボードゲームを何年か作っている人間なら、まず全員知っているハズです。
だからこそ、こういう意見を公式に表明する会社に対しては、いち制作者として、私は反対意見を表明し、拡散不買を呼びかけます。  (2018/12/04 23:03追記 :ご指摘を頂き背景確認中です。この部分を保留すると共に、誤解を招くと思われる文章を随時修正いたします)

(2018/12/05 23:22 本件について追加の記事を発信すると共に、この不買の呼びかけを取り下げます。混乱を招いた点についてお詫びいたします)

roy.hatenablog.com


これを許すかどうかが、今後の日本のボードゲーム業界を左右する、というぐらい、大げさでなく重要な話だと思います。

(数年前なら「無視と不買」が対策だったでしょうが、SNSが発達した現在では、問題は早く告知・周知する「拡散」が重要だ、というのが私の意見です)

 

日本のボードゲーム市場は大きくなったとはいえ、まだ100億円も無いと考えています。(エンターテインメント市場の規模は、見た目より小さいことが多いです)
ドイツやフランスに行くと、日本のボードゲーム市場にはまだまだ伸びしろがあると感じます。

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ドイツのデパートのおもちゃ売り場(のさらに一部)

上はドイツの地方都市のデパートの写真。
たいして大きくないデパートでも、これだけのボードゲームが売られているぐらい、ボードゲームが生活に浸透しています。これに比べれば、日本なんてまだまだですよね。(ボードゲームの売り場は、この写真の4倍ぐらいありますが、一枚では入り切りませんでした)

 

日本で国内100億未満の市場というと、少しのトラブルで業界全体が消滅しうるぐらいの、まだまだ不安定な市場規模です。

実際に、ほんの数年前まで世界のゲームがこれほどの数、日本で翻訳され、簡単に手に入ることはありませんでした。それだけ日本の市場が大きくなり、またライセンスして翻訳版を出せるほどの信頼があるようになったわけです。

この「信頼」を、制作者・プレイヤー・販売者の三者で守らなければ、この状況は簡単に崩れると思った方が良いかと思います。

 

ゲーム制作者の皆様への一言

私は「和風」をテーマにしたボードゲームに拘らなくなりましたが、それは「日本のボードゲーム市場が大きくなり、国内をターゲットにできるようになった」というのが一点、「日本の個人制作ゲームに海外のメーカーが注目しており、自分から海外に行かなくても良くなった」がもう一点です。

 

ゲームマーケットに出展されれば分かりますが、会場にはたくさんの方が海外から来場されています。(出展されているケースも増えてきました)

これはただのゲーム好きだけでなく、メーカー(出版社)がゲームのネタを探しに来ているパターンも多いです。

 

それではこういうタイミングで、これから出展される方はどうしたら良いでしょうか。

アドバイスとしては、「英語版ルールやサマリーがあるといいよ」ということです。ボードゲームの国内市場が大きくなってきているので、私のように、その外側で奇をてらった動きを取る必要は無くなりました。ボードゲーム市場のなかで、良い作品を出して、きちんと宣伝していくのが良いと思います。

大事なのは、それが成功する際に、その規模を最大化させる方法を考えることかと思います。英語でそれが伝われば、その規模は日本で10人が喜んでくれるゲームが、世界なら1,000人、10,000人が喜んでくれる可能性もあるわけです。

「法的にはパクってもいいんだから」と無法地帯になり、小銭稼ぎをする人が乱立するよりも、日本から世界に羽ばたいてライセンスを取れる人の活躍する場に、ゲームマーケットが、日本の個人制作ゲーム業界が広がれば良いと思います。

私からは以上です。

 

明日四日目は おーの(@tkm_dx )様の「肩の力を抜く。アートの為のボードゲームデザイン」の予定です。

 

最後に

折角なので少しだけ宣伝させて頂くと、「ペンとサイコロ」では、最初にも上げたように過去7作品をリリースしています。

このうち、部品の廃番により廃番にせざるを得なかった「陰陽賽」以外は販売を継続しています。

購入はこちらのほか、各ショップでも購入可能です。

pen-and-dice.booth.pm

売店舗様、プレイスペース様での購入依頼は常時受け付けておりますので、いつでも下記よりお問い合わせください。

penanddice.webcrow.jp