趣味の普及曲線
マーケティングで「普及曲線」とか「イノベーター理論」と言われる図が好きで何度か取り上げているけど、趣味にもそういったきっかけとなる変曲点はあると思う。
普及曲線というのはこんなやつ。
ある商品が売れるにはこういった曲線を描いていて、それぞれの客層が普及率によって変わる、というお話。
で、特に「オピニオンリーダー」から「アーリーマジョリティ」に移行できるかには大きな溝があって、これを「キャズム」なんて言う。
それぞれの特徴をざっくりまとめると
- A:イノベーター(2.5%)
新しい物好き。変人。
流行の先端。この人達の行動は、マジョリティに対して影響を与える
- C:アーリーマジョリティ/ブリッジピープル(34%)
- D:レイトマジョリティ/フォロワーズ(34%)
「みんなが買うなら」という消極的な態度の消費者
- E:ラガード(16%)
保守派。その技術が古くなるまで使わない
こんな感じ。
かなり乱暴にまとめてるけど、今日の本題と関係ないから気にすんな。
例えばiPhoneなんかは「D:レイトマジョリティ」の部類。今時iPhoneを持っている目新しさなんか皆無だし。
家電なら「ロボット掃除機」がアーリーアダプターに普及している段階、「レイコップ(布団専用掃除機)」がまさにアーリーアダプター層に普及し始め、ぐらいじゃないだろうか。
(まだマジョリティには達していないので、このまま消える可能性がある)
Sharp「お茶プレッソ」なんかは生産が間に合わないとか聞いているけど、それでも「A:イノベーター」の段階。これが普及するかはまだまだこれから。
シャープ「お茶プレッソ」
ここまでは話の枕なんで、「ああ、そういうことね」という感覚だけでも掴んで頂ければ。細かい突っ込みは多数あるかと思いますが。
趣味の普及曲線
世の中には色々な趣味があるけど、趣味も同じような普及曲線を辿るんじゃないかと最近思い始めた。
もちろんピークの高さ(認知度)や、その普及速度にはバラツキがあるだろうけど。
累積度数のグラフを「認知度」と変えれば結構面白いんじゃないか。
それぞれのフェーズごとに、趣味を紹介したときの反応をまとめるとこんな感じだろうか。
- A:イノベーター段階
「まずこういう趣味があってね」という説明から入らなければいけない。
大多数は存在すら知らない。
- B: アーリーアダプター段階
「あ~、あれね。へぇ~、やってる人いるんだ~」
知ってはいるが、自分でやるのはごく少数。
- C:アーリーマジョリティ段階
「あ、オレもやってたよ/やってるよ!」
たまに同じ趣味の人に会えて盛り上がる。
- D:レイトマジョリティ段階
「オレもやってたわ/やってるわ」
もはやその趣味が珍しくもない
- E:レガード段階
「え、今どきそんなのやってるの?」と言われる
趣味も製品の普及曲線も同じで、「D:レイトマジョリティ」「E:レガード」からの復権もありうる。
「E:レガード」をわざわざ扱うのは、ビジネス面ではその「知名度」が大きい。「知ってはいるけどやらない」なら、知って貰うハードルはクリアしているから、味付けを変えれば爆発的な普及の可能性がある。
将棋や茶道はそれを乗り越えて今の地位があるんだろうし、「ベーゴマ→ベイブレード」「ビー玉→ビーダマン」はまさにその復権作業と言える。最近では「けん玉」がアメリカから逆輸入されているというニュースがあるが、それもその一つだろう。
知り合いでは「A:イノベーター」「B:アーリーアダプター」な趣味に属するマニアックな友人が多数居る。別々の趣味の内情を聞いていて、それぞれの知名度で業界の雰囲気も似たようなものになるのが面白かった。
「A:イノベーター」な趣味
このクラスの趣味は、まずその存在すら知られていない。
だから趣味とも思って貰えない。
この趣味に属する人たちは「その趣味が有名になって欲しい」と思っていることが多い。
「こんな面白いのに、知られてないんだよね」
「一度やれば面白さが分かって貰えると思うんだけど」
こんな言葉が良く出てくる。
知られていない、といっても趣味として確立しているからには専門ショップがあり、大規模なイベント(即売会なり展示会なり)はあるのだが、それでもその知名度の趣味というのは世の中にはたくさんある。
「B:アーリーアダプター」な趣味
これが実際世に知られてくるとどうなるか。
趣味としてはどマイナーなことには変わりなく、その趣味が「変な奴」扱いされるのは大して変わりがないので「社会的地位を上げたい」という意識はまだある。
しかし、それと同時に「新参者を嫌う古参」という「業界内」の対立が出てくる。
例えば自転車(ロードバイク)は数年前、まさにその段階だった。(多分今もそういう対立はあるんだと思う)
のりりんではその辺が結構辛辣に「新参者目線」で書かれていた。
「普及しつつあるものの、情報が整理されておらず新参者に厳しい」というのがこの段階になりはじめに生じること。
端的に言えば「趣味の名前が決まっているか」というのが分かりやすい。
自転車も「ロード」「クロス」「バイク」「自転車」色々な呼び名がある。その中でも競技用バイクで走る趣味は「ロードバイク」に統一されつつある・・・のかな?
逆に言えば「A:イノベーター」段階の趣味は、集団が小さい分、参加者全体が家族的で優しい。それが同時に外から見ると非常に「閉じた業界」に見えるのは表裏一体だと思う。
あの趣味はどの辺?
翻って自分の趣味がどの辺に位置するか考えてみるのも面白い。
ちなみにボードゲームは・・・・「A:イノベーター」だろうね、多分。
自分もゲーム作者になって、ボードゲーム好きと付き合っていると分からなくなるけど、まだまだマイナーでしょう、この趣味は。
このブログで「そもそもボードゲームとは」という所から始めたのも、その辺のマイナーさを考えてのことだ。
日本最大のボードゲームの祭典は「ゲームマーケット」だが、今年から「ゲームマーケット大賞」が創設されたのもこの普及という観点から見ると面白い。
Game Market - ゲームマーケット大賞の創設について
賛否あるらしいが、「なるほど、これがボードゲームなのか」と素人目に分かる「看板」としての「大賞創設」は普及期には意味があると思う。
・対象期間中のゲームマーケットで発売実績のあるアナログゲームであること。
・オリジナル作品であること(版権テーマのものは対象外となります)。
・ゲームマーケットでの販売が初出となる新作であること。
・基本ゲームとし、拡張セットは含みません。
・リメイク作品は、新規のルールが存在していれば、対象となります。
・TRPG、TCG、ウォーシミュレーションゲーム、伝統ゲームは対象外となります。TRPG風、TCG風などのボードゲームは対象となります。
・ゲームデザイナーや発売元の国籍は問いません。また個人/法人の区別はいたしません。
これが判定基準だそうだが、「ボードゲームという新ジャンルを普及させるための看板としての大賞」と考えるとこのレギュレーションは筋が通っていると思う。
重たすぎる(時間の掛かりすぎる・複雑すぎる)ゲームは間口を広げないし、版権物は看板にできない。伝統ゲームも同様。だからあらかじめ省く。
ただ個人的には「応募不要」というのが気にはなるが。
普及期になると市場が爆発的に増える。
数百オーダーでしか作れない同人ゲームが「大賞」として突然祭り上げられて、生産数に対応できず「幻のゲーム」となる。そんな可能性を秘めていると思う。
その意味では、自信のある個人・法人による立候補制にした方が、普及には効果的ではないか。とはいえそれも来年以降考えればいいことで、まずは始めたことを評価したい。
この段階では市場はまだまだ小さくて、各自が普及策を考えているはず。
だから「このアイデアはここがダメ」とダメ出しするよりは、各自がどんどん新しいアイデアを出していって、一発当たれば儲けものぐらいで考えておけばいいんじゃないだろうか。
既存の枠で考えても面白い物は出てこない。
既存のプレイヤー、ベテランに嫌がわれる、笑われる、怒られるぐらいでこそ、面白い物が出てくるのだから、その意味で議論になるアイデアは「良いアイデア」なんだろう。
ちなみに個人的な意見としては、普及には「名前」の統一が有効だと思っている。
「ボードゲーム」「アナログゲーム」「非電源ゲーム」「テーブルゲーム」「ドイツゲーム」挙げればきりがないが、こうして紹介しているゲーム群を表す言葉は多いし、それぞれが微妙に違った物を指しているのでたちが悪い。
個人的には
- 将棋など伝統ゲーム
- TRPG・ウォーゲーム等確立したジャンル
- TCG(ヴァンガード・遊戯王などのトレーディングカードゲーム)
この辺を除いたボードゲームが、自分の指すゲームだと思っている。
これを表す言葉として「ボドゲ」を最近提唱している。
「ボドゲ」は「ボードゲーム」の略だが、それ自体を新語として、これらゲームの一般名称として使ってはどうだろうか。
これは一案だが、小さなコミュニティの中、各自がこうした意見を出して、動いていくことが、マイナー趣味を拡大する第一歩かなと思う。