ゲームの対象年齢の考え方について
こんなご意見があったので、僭越ながら制作者の端くれとして回答させて頂きます。
そもそもゲーム製作者の方々はどうやって対象年齢の下限を決めておられるのだろうか。 またそのゲームが対象内か対象外かを決める基準はどこに置いておられるのだろうか。 製作者の皆さんのお話を伺いたいところです。
— 松本太一 (@houkagotouday) 2015, 5月 19
海外のボドゲにおいて、箱に必ず書かれている3つの要素があります。
- プレイ人数
- プレイ時間
- 対象年齢
3つの要素を表したアイコン(Quixx)
まれにこれ以上の詳しいデータを載せる会社もありますが、一般的にはこの3つ。
より詳しい説明を付ける場合もあります(Make'n'Break)
「海外の」と敢えて書いたのは、日本の会社が出しているゲームではこういった記載が無いものがあるためです。
一例を挙げると、
という感じ。
注釈を文字(日本語)だけで記載するのは日本ならでは、という感じがします。
どのゲームも日本語を読めないと、本当にどうしようもない。
この辺はいくらでも改善の余地が残されていると思います。
それはさておき。
ボードゲームの推奨年齢問題についての見解
ここからは「私の場合」として回答させて頂きます。
きちんとしたゲーム理論を学んだわけでも、師匠がいるわけでも、ゲーム業内に長くいるわけでもない、普通の三十過ぎたオッサンの戯言ですが、どなたかの参考になれば幸いです。
ボードゲームの対象年齢を考えるにあたり、プレイ可能な年齢を考えるにはいくつかの要素があると考えています。
- 算数 の側面
- 国語 の側面
- 道徳 の側面
- 安全 の側面
算数の側面
一番分かりやすいのが算数の側面です。
私は日本の学習要領を基準にプレイ可能な年齢を決めています。
- 数をカウントできる → 小学校入学前(基準なし)
- 足し算ができる(1桁) → 小学一年生(6歳)
- 引き算ができる → 小学一年生(7歳)
- かけ算ができる → 小学二年生(8歳)
- 二桁以上の計算を行う → 小学三年生(9歳)
ざっくりこんな基準です。
具体的な例で言えば、一桁の足し算をひたすら行う「ぴっぐテン」は6歳からプレイ可能、と考えます。(引き算もありますが、桁下がりがなく、マイナスの引き算が発生しないので6歳で可能)
ゲームの仕組み上、必ずかけ算の発生する「キングダム」は8歳以上。しかし点数計算は三桁に突入するため、大人のサポート無しで遊ぶなら9歳以上が推奨と考えます。
計算の発生しない、 「すごろく」「積み木」は小学校入学前から遊べます。
HABA社のゲームはほとんどがこれに含まれますし、「ねことねずみの大レース」も中身はすごろくなので3歳児でも遊べます。
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国語の側面
難しいのが国語的な能力。
騙すのは難しい
「騙す」ゲームは小学一年生・二年生では難しい。
うちの娘を見ていると、小さな子供は別の人格を「演じる」のがまだ難しいんだと思います。なりきりはOK。だから人狼的なゲームは困難。
思わず「本当はね~」と言ってしまったり、ブラフをかますと慌てたり、笑ってしまったりする。なりきることはできても、「本当の意図」と「嘘」の二面性は難しいんですね。
だからこういうゲームは小学校の高学年まで難しいんではないでしょうか。
難しいのは大丈夫
ルールの難解さについては、自分の作るゲームがそれほど難解でないこともあって、気にしたことはありません。
実際子供の学習能力は大したもので、きちんと理解すれば手続きがややこしいことについては大人が思う以上に適応能力が高いです。
例えばうちの娘は3DSを自分で始めて、誰の説明も受けずに自力でポケモンをクリアしてしまった。小学一年生で。
囲碁や将棋も小学一年生できちんとプレイできる子は多いし、それで十分に強い。
「うちの子供はX歳からカタンをやっています」
というお話を伺いますが、実際、十分に可能だと思います。
大事なのはお子さんの性格と共に、手続きを一つ一つ教えられた親御さんであろうと思います。
道徳の側面
できる、できないではなくモラルの面。
拙作「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」はルール自体は単純なので、6歳でも遊べます。(実際うちの娘は遊べました)
三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい - ペンとサイコロ -Pen and Dice-
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」プレイ風景
ところがゲームの背景が「遊郭」である以上、「プレイ可能年齢」に小学校低学年を入れるのはどうかという点があります。
このため、このゲームではプレイ可能年齢を「10歳~」としました。
このほかにも犯罪を扱ったゲームは多くあります。
殺人、密輸、暴力、等々
ゲームのフレーバーとしてこうした犯罪は非常に有効で、私も大好きですが、それを子供に勧めるかは別問題。
また絵柄やテーマが性的なものを扱う場合、それを子供に推奨するかという問題もあります。
この点はビデオゲームや映画の「レーティング」が参考になると思います。
安全の側面
最後に非常に小さな子供を対象にする場合、誤飲・負傷について考える必要があります。
これは玩具の基準がありますので、それを参考にする必要があります。
誤飲は飲み込むほかに、舐めた場合の毒物についての検討も必要です。
「子供でも遊べる」の子供が「幼児」を含む場合、パーツに穴を空けたり、塗料の確認をする必要があったりといろいろと確認すべき点が出てきます。
5歳未満を対象とするゲームは、個人レベルでは実際には出すリスクが大きいと考えています。
まとめ
いくつか基準を上げましたが、これらのうちの「最も高い年齢」が「推奨年齢」になるかと考えています。
私の制作ゲームではそれぞれこの数字が基準です
- 「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」:道徳面で10歳以上とした
- 「陰陽賽」:足し算のみなので6歳以上とした
- 「コロポックル 見~つけた!」:足し算も不要にし、6歳以上とした
ぶっちゃけて言うと、「陰陽賽」はかなり複雑なゲームなので、6歳が遊んで勝てるかは分かりません。
(うちの娘は遊んでくれないので、参考にならず)
これについてはあくまでシステム上、遊べる年齢として記載しています。
子供向けゲームのデザインで気をつけたこと
拙作「コロポックル 見~つけた!」は、最初から子供が遊ぶことを想定しています。
「コロポックル 見~つけた!」プレイ風景
気にした点は以下の通り。
- 個人攻撃できるカードを作らない
- 足し算・引き算がいらない(その場で数えればいい)
- 大きな数を動かさない(一度に動くチップは1または2個のみ)
- 短いゲームを繰り返すようにして、飽きないようにする
- 負け抜けの条件を厳しくして、発生しにくくする
- 繰り上がり・繰り下がり計算が発生しない(数字は最大で「7」)
子供と遊ぶと「負けて大泣き」という経験は、ほとんどの親御さんがお持ちではないでしょうか。
ところが、いくつかのゲームでは娘も負けて満足しています。
なぜか。
例えば「戦いには負けたけど、ダンジョンでドラゴンを倒せたからいいや」といった、「本人が満足するポイント」があると、負けても大泣きしないことが分かりました。
「コロポックル 見~つけた!」は基本のアクションの「チップ交換」が必ず「成功」あるいは「失敗」します。「ババ抜き」と同じようなものと考えて頂けば分かりやすいでしょうか。この当たり外れを非常に明確にしました。
この細かい「成功体験」がゲームとしての満足度を上げ、「ゲームに負けた悔しさ」を相殺してくれるのではないか、という考えでゲームを設計しています。
また、ゲームからの脱落が起こりにくくし、できるだけ全員が最後までゲームに参加し、一気にゲームが終わるようにしました。(例外として脱落、先抜けもあります)
子供は待つのが苦手ですし、人のプレイを見るのも苦手です。
だからなるべく「ゲームに参加」する時間が長くなるようにしました。
ゲーム好きの用語で言うと「ダウンタイムを少なくする」ということですね。
子供も遊べるゲームは、「遊べる」だけではダメで、「楽しめる」必要があります。ただ、私は子供と遊ぶときは「大人も全力で遊びたい」というワガママなタイプです。
子供も遊べるし、大人も同じレベルで戦える。
このゲームは私の子育てスタイルそのもの、と思って頂ければと思います。
ゲームの対象年齢は、作者が自由に決められます。
若いゲーム作家さんで、子供とプレイする機会の少ない方は、難易度でプレイ推奨年齢を決められているような記載をお見受けすることもあります。
しかし難しさは必ずしも推奨年齢と一致しません。
ゲームの制作経験は浅くはありますが、一児の親のゲーム制作者として、どなたかの参考になれば幸いです。