名前が付く頃には手遅れ。新ジャンルについて考える。
新しい商品やサービスの話で必ず出てくるのがこのグラフ。
Diffusion of Innovations / Wesley Fryer
ある商品やサービスの普及について、それぞれの段階で購入する人達を分類した物。
作ったのはスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授という人。
初出はなんと1962年、『Diffusion of Innovations』(邦題『イノベーション普及学/イノベーションの普及』)という本で提案したそう。
- 作者: エベレット・ロジャーズ,Everett M.Rogers,三藤利雄
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2007/10/17
- メディア: ハードカバー
- 購入: 1人 クリック: 18回
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ちなみにこの5段階は以下の通り。
- イノベーター (Innovators:革新的採用者) 市場全体の2.5%
- 新しいモノを積極的に利用したり、採用する人。商品の新しさを重視する人。新しもの好き、マニア。
- アーリーアダプター (Early Adopters:初期少数採用者) 市場全体の13.5%
- 流行に敏感で、自ら情報収集を行い判断する人。他の消費層への影響力もある、「オピニオンリーダー」。
- アーリーマジョリティ (Early Majority:期多数採用者) 市場全体の34.0%
- 比較的慎重で、平均より早く新しいモノを取り入れる人。「ブリッジピープル」。
- レイトマジョリティ (Late Majority:後期多数採用者) 市場全体の34.0%
- 周囲が利用しているのを見てから同じ選択をする人。「フォロワーズ」。
- ラガード (Laggards:採用遅滞者) 市場全体の16.0%
- 流行や世の中の動向に関心が薄い人。保守派。
キャズム理論とは?
ここから派生したのが「キャズム(Chasm)」という考え方。
イノベーター、アーリー・アダプターを合わせた16%は、それ以降の人達と購入の指向が違う、
このため、普及率16%未満か、16%以上かがその先普及するポイントになるというもの。
簡単に言うと、「最初に買う連中は目新しさで買うから、その先の80%が手を出して初めて本当に普及する」
ということかな。
提唱したのはジェフリー・A・ムーアという人。
- 作者: ジェフリー・ムーア,川又政治
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2002/01/23
- メディア: 単行本
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資料を見ると、もともとキャズムはハイテク産業(WEBサービスなどか?)などを対象に提唱されたらしい。
でも今の時代、あまり関係ないと思うけどなぁ。
キャズム以前は先行投資
キャズムを越えていない商品群は今でもたくさんある。
キャズム以前、ということは将来性が分からず企業からするとリスクが高い。
でも、そこから入らないと市場の強い地位は築けないし、あとから取り戻すのはよほどの力が無いと難しい。
キャズムを越える以前で名前が付く
キャズムを越えるかどうかはどうしたら分かるか?
一般消費財なら、一つの基準は「名前が付く」こと。
たとえば、「スマートフォン」。
Smartphone Evolution / Phil Roeder
2000年頃から言葉としてはあったらしいが、「タッチパネル式電話=スマートフォン」という図式ができて
言葉が普及したのは2010年頃からじゃ無いか?
その頃の日本の携帯電話の出荷数を見るとこのようになる。
・リンク → 国内携帯電話市場に関する調査結果 2010−矢野経済
2010年時点でスマートフォンの割合が通年で10%を越えている。
2011年の予測では17.8%。
つまり今年、スマートフォンのシェアは携帯電話の中でキャズムを超えて「普通の人」も手を出すようになった。
そして2010年あたりから、各社からスマートフォンが出そろうようになった。
つまり、流れをまとめるとこうなる。
「各社から同じような機種が出そろう」→「名前が必要」→「名前が付く」→「本格的な普及へ」
ポイントは一番最初。
キャズムを越えるあたりで、各社から追従機種が出始めることで市場が盛り上がり、名前が付く。
つまり、この時点で市場はすでに過当競争に突入してしまうと言うこと。
名前を付ける意味があるのは
結局、スマートフォン市場で名前が残るのは「iPhone」ぐらい。
最初は「サムスンのiPhoneください」だったのが、今は「サムスンのスマホください」になった。
(会社名はサムスンでも、東芝でも、シャープでもなんでもいい)
各社がスマートフォンにも名前を付けたりもするが、よほど革新的な商品で無ければ付けるメリットは薄いと思う。
だから型番だけでいいかというと、本当はダメなんだけどね。
とにかく、黎明期の市場に切り込んでいく商品は、名前が重要。
それが市場の「顔」になれば、そのブランドは市場で強い力を持てる。
市場を表す名前達
そんな黎明期を切り開いた名前というと、こんなところ。
どれもジャンル・カテゴリ名ではないが、聞いただけでジャンル名と認識できる。
YAMATO TRANSPORT CO., LTD. (ヤマト運輸株式会社 Yamato Un'yu Kabushiki-gaisha) / Michael Francis McCarthy
後追いで名前を付ける意味は薄い
既に過当競争の市場で、後追い企業が名前を付けるメリットは薄い。
日本は家電好きが多いので憶えてくれることもあるが、世界戦略では一つの会社に複数ブランドがあるとむしろ逆効果といわれる。
例えばテレビ。
AQUOS・VIERA・REGZA・REAL・Wooo・WEGA・BRAVIA
Sharp Aquos Quattron 3D Display / ETC@USC
わざと終了ブランドも混ぜているが、このブランド名が会社名にぱっと繋がるか?
それこそ、「Mitsubishi TV」とかで良いんじゃないかと思う。
もう一例挙げるならパソコン。
dynabook・VAIO・IdeaPad・LaVie・FMV LIFEBOOK・FMV-BIBLO・Aspire・Let's NOTE・Eee PC・ThinkPad・Inspiron・Mebius
PB251443 / beve4
以上価格.comより。
共通しているのはどちらも国内企業が赤字になって困っている事業だと言うこと。
当然だが、憶えはてもいないようなブランドを抱えている会社は厳しい。
たとえばパソコンでも、業務用軽量・高級機種に特化しているPanasonic(Let's note)は黒字らしい。
もちろん広告戦略としてお金を出している部分も多いだろうが、こういうニッチ戦略なら意味があると思う。
どうでもいい話。
Evangelion新劇場版でマヤが緊急避難時に持ち出したパソコンもPanasonicのToughbook。
これは宣伝。ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.【通常版】 [Blu-ray]
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名前が残る事業を
何が言いたいか、という部分はいつもみんなが言う主張と同じ。
「新しいことをやって、名前が残る事をしましょうよ」
iPhoneは、これから大失敗しても、Appleが不正取引でひっくり返っても、特許侵害で出荷停止になっても
すでに携帯電話史、家電史に大きな足跡を残している。
Walkmanだってそう。
iPodにあれだけシェアを奪われてもAppleの本拠地アメリカで、初代Walkmanを扱った改造が話題になったりする。
Giant Walkman / daryl_mitchell
失敗しても良いから、とは外部の人間は言えないが、失敗をする可能性がある領域にしか、本当の成功は無い。
中小企業はそこまでのリスクは負えないが、
ハードのある電機で、世界展開して圧倒的なシェアを作れるのは大規模な電機メーカーにしかできない。
それはある意味、ライバルの少ない寡占事業だと言える。
日本には大手電機だけで8社(三洋を含めると9社)ある。
これが多すぎるという意見は多いが、それぞれが世界展開できる独自事業を持てば、存続の意味はある。
他の7社が追従できない、したくなくなるような独自産業を各社が持てば、日本も面白くなる。
とりあえずSONYはHMDなのかな?
個人的には大ヒットする商品だとは思わないが、そういうカテゴリなら、他が追従しないので独占できる。