ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム・3Dプリント作品・3DCG制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

10年後のお店を、もうちょっと真面目に考えてみた。

先日買い物難民対策」として「無人店舗」を考えたが、
・リンク → 【買い物難民対策:1】買い物に行けない、を数字で確認する。
・リンク → 【買い物難民対策:2】自動販売店2
・リンク → 【買い物難民対策:3】自動販売店にはロボットを
その実現可能性をもう少しじっくりと考えてみた。

無人店舗の必要性と可能性

まず前提となるデータを整理する。

少子高齢化

日本で人口の減少が始まっていることは知られているが、人口減少より急激に進んでいるのは「生産年齢人口」の減少。

・リンク → 日本の少子高齢化と経済成長−ニッセイ基礎研究所
働く人口が減ることで、これからは人の確保がより難しくなる。
その結果外国人労働者の数を増やさなければ」という論議にもなるが、人を減らして成り立つ仕組みも必要になる。

人口集中の将来

もう一つは都市への人口集中。
東京圏(東京・神奈川・埼玉などを含む)は2000年時点で人口2640万人を抱える、世界最大の都市圏だ。
そして大阪圏は1100万人で世界第11位
ところが国土交通省の調査では、「理想の住居」を郊外に求める人の割合が高いらしい。

・リンク → 都市への人口集中とサステイナビリティ−東京大学大学院工学系研究科 花木啓祐


この調査はあくまで「理想」の居住環境についてだが、金融資産の大半を持つ高齢者が退職し、通勤の必要性が無くなると、
生活費の安い郊外へ転居することも考えられる。
こうなると、郊外で、少ない集客で成り立つ店舗がたくさん必要になる。
つまり、スーパーの品揃えと価格で、コンビニ並の店舗数が求められるようになる。
この二つの課題を同時に実現ために、無人店舗が重要性を増してくる。

参考になる無人システム

無人システムで参考になるのは店舗だけでは無い。
今回の件で、一番参考になると思うのは「駐輪場」

この自動駐輪場システムは海外でも高い評価を得ている。
製造はJFEエンジニアリング。
・リンク → 立体式駐輪場:サイクルツリー−JFEエンジニアリング
葛西駅をはじめ、色々な駅での導入が始まっている。
このシステムのメリットは色々ある。

  • ICタグでの自動化
  • 保管に時間がかからない(約10秒)
  • 取り出しに時間がかからない(約20秒)
  • 保管や取り出し時に力が要らない
  • 窃盗が無い

でも、もう一つのポイントは「場所を取らない」ということ。
駐輪場は「駅からの距離」がポイントになる。
駅から駐輪場までが250mぐらい離れると、違法駐輪が急増するらしい。
このため、たくさんの台数をいかに駅近くに保管できるかが重要になる。
このシステムなら、自転車を「縦」に積むので場所を狭くできる。

でもお高いんでしょう?

ちなみにこのシステム、価格は葛西駅のシステムで約70億円とのこと。
この数字は平置きスペースや建屋、18機の駐輪システムを含むので、駐輪システム1機あたりでは2〜3億円?
高い・・・
JFEエンジのシステムが高価なのは、直径6.9m、深さ14.5mという巨大な穴を地下に掘る必要があるため。

中は結構な広さで、38平方m×10段=総床面積380平方mもある。
中心の半径1mは取り出しシステムの通路なので保管に使えないとしても、残りの面積は一段あたり25平方m
小規模なスーパー・コンビニの面積は100平方m程度
つまり、この駐輪場の半分の深さもあればスーパーと同じ面積を確保できる計算になる。

具体的に考えてみる

実際に絵を描いて考えてみた。
横からの図

上からの図

床面積50平方m程度。(地上部分)
深さは5m程度、大きく見積もっても7〜8mもあれば十分と思われる。

基本構造

ユーザーはタッチパネルなどの端末で商品を選択する。
選択したものはすぐにロボットが棚から取り出し、ベルトコンベア(上面図中央右)から吐き出されてくる。
(この時点で購入は完了している→万引きが原理的に不可能
不要な物は返却処理を行って返却コーナーから返却できるようにする。

自動駐輪場に比べてのメリット
  • 小ささ

自転車はある程度の大きさがあるが、店舗で販売する物は数cm〜なので、自転車に比べて詰めて設置ができる。
このため、例えば深さが2mでも、20cmの棚なら10段積むことができる。
実際には色々な大きさの物を取り扱うので、深さの違う棚を放射状に用意する。

  • 省エネ

スーパーやコンビニでは、冷蔵や冷凍棚が必要になる。
特に冷蔵では、顧客が取り出しやすいように開放式の棚になっていて、どうしても冷却効率が落ちてしまう。

convenience store eats / conbon33

今回の方式では、人が入らない部分に棚を置くので、冷却効果を高めることができる。
この結果光熱費を大幅に抑えられる。
また、棚には人が近づかないので、照明も切ることができる。
この結果取り出しのロボットの他にはほとんど光熱費を使わなくて済む。

搬出入はコンテナで

上面図の左上が荷物の入出庫用コンテナ。

Moving Containers at Humber Sea Terminal / D H Wright

専用コンテナで商品の配送を行うようにすれば、搬出入も自動化できる。
コンテナの回収時に賞味期限切れ商品も回収するので、ゴミ箱も不要になる。

で、いくらぐらいか

上でも書いたが、土木工事は高い。
深さが半分なら、単純に考えて1〜1.5億程度?
それでも十分高いが・・・

いくらならペイできそうか?

では、実際にいくらでこのシステムが構築できれば具体的かを考える。
コンビニを建てるのに必要な金額は3000万円程度、月の人件費は100万〜と言われる。

IMG_3902 / CLF

光熱費は人件費に比べると10%以下なので、無人店舗にしても大きく減少しないと考えてとりあえず無視する。
ここから建設費用と二年間の人件費の合計が5400万円
このラインを下回れば、とりあえず土俵には乗れるかもしれない。

上下をひっくり返す

郊外にスーパーを作るのに、土地の制限はそれほどない。
それなら地下では無く、地上に置いたらいい。
先ほどの地下スペースを、地上に置くとこのようになる。

これでも高さは7〜8m
3階建て家屋程度なので、高さの規制にもまず引っかからないと思われる。
これなら地下を掘る必要も無く、5000万程度に抑えられる可能性が十分に出てくる。

郊外でこそメリットが

この店舗のデメリットは「一人づつしか購入できない」ということ。
上面図では上下二箇所まで購入できるようにしているが、それが限界。
これではたくさんの人が来た場合、お店の前で人が並ぶことになりメリットが出ない。
対策としては、ラインを水平に並べて、購入箇所を増やせばいい。
これは土地が安い校外なら自由に設計できる。
つまり、この設計の無人店舗は人が少ない郊外でこそ生かせる方式と言える。

最後に、売上計算。

では最後に、必要な顧客数を考える。
建設費用5000万、メンテナンスコスト年間250万として、2年間でペイすることを考える。
スーパーの粗利は3割なので、5500万の粗利を挙げるには、売上が1.83億円必要。

  • 年間の売上:9160万円
  • 月間の売上:763万円
  • 一日の売上:25万円強
  • 一日の客数:140人強(単価1800円換算)

単価の計算基準はスーパーの単価が1800円というところから。
・リンク → スーパーマーケット年次統計調査 結果概要
ちなみにコンビニでは850円程度らしい。
小規模スーパーでも一日の来客数は数百人〜1,000人なので、かなり来客が少なくてもペイできる計算になる。
(生鮮品を扱うので在庫の管理/廃棄コストを含まない数字)


実際にはもっと細かな費用を考えなければいけないが、安価な無人店舗は数字上では
成り立つ可能性が十分にあると思う。
スーパーでもコンビニでもない新業態、参入はコンビニ、スーパーどちらからでも良いと思う。
個人的には北海道のコンビニ、セイコーマートがやってくれればいいなと思う。
・リンク → セイコーマート

セイコーマート 遠矢店 / alberth2

セイコーマートは北海道のコンビニだが、商品の半分が独自ブランド(PB)らしい。
本州への進出は「コンビニとしては厳しいので、商品から」といって、牛乳など個別の商品で本州進出を行っている。
[rakuten:sanei-store:10000087:detail]
(この牛乳は実はPBをナショナルブランド化したもの)
いわゆる「コンビニ」業態での本州進出は難しいかもしれないが、これなら新機軸なので既存商圏は関係ない。
また独自商品に強い会社なので、商品戦略も自社でコントロールしやすい。
そして何より、人口密度の低い北海道の企業なので、人口密度の低い地域への出店戦略に慣れている。


人口減の時代には、それにあわせたシステムが必要になる。
人口減に困っているのは何も日本だけでなく、世界のどこでも同じ悩みを抱えている。
構造もシステムも全て日本初の「無人店舗」
10年後にはみんなが知っていて、20年後には当たり前の業態になっていてもおかしくないと思うんだが。
JFEエンジニアリングが作って、セイコーマートが実験してくれないかな。


ここまで読んでくれた方、こんな提案は無茶だと思いますか?アリだと思いますか?