ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム・3Dプリント作品・3DCG制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

ルールのコピーを減らすために、ボードゲームデザイナーとしてできること

ゲームマーケット2019秋の準備も大詰めですが、「ドブルのルールをそのまま流用したゲームがクラウドファンディングを開始した」という話が飛び込んできました。

megalodon.jp

※プロジェクトの取り下げ申請を行われたということなので、リンクは魚拓です

  • 弁理士に相談し、問題ないと言われた
  • ルールはドブルそのまま
  • イラストはオリジナルで、トランプとしても遊べるようにした

というもの。

 

ボードゲーム界隈の人はみんなご存知ですが、「ルールに著作権は無い」というのはおっしゃる通りです。
このため、既存のゲームのルールをまるまるコピーしてゲームを出したところで、「法的には」問題ありません。
しかしながら、私自身もライセンス契約を結んだこともありますし、ルール制作者に対して対価を支払う仕組みが世界的に構築されています。
そうしなければゲーム制作のモチベーションが無くなりますし、海外のゲームを日本で発売しようというメーカーも無くなります。
ボードゲーム制作者というのは、音楽やイラストと異なり、「著作権で守られない創作活動」であるわけで、だからこそ自ら動いて権利を主張し続けなければいけない宿命だったりします。
この辺は過去のブログでも散々書いた内容です。

 

プロジェクトは取り下げられました

今回の騒動については、当の はちつぶ(@88tomoki)様に直接コンタクトさせていただき、先方も納得された上でまずはプロジェクトを取り下げられる流れになりました。
「叩かれたら取り下げるのかよ」といった心無いコメントも散見されますが、今回の件はこうした背景を知らずにやられたこととして、まずは今後の動きを見守られてはと思います。
「知らなかったことが悪い」という声もありましたが、知らないことを叩いていると参入者には敷居が上がるばかりです。謝罪されたなら、一旦見守るぐらいの懐があるコミュニティであってほしいと願うばかりです。

 

業界の「常識」は分かりにくいんじゃないか?

今回の件について、「そんなこと良識として分かるだろう」というコメントもありましたが、逆に「なぜ分からなかったんだろう」と振り返ることは大事だと思います。

 

自分がボードゲームに詳しくなく、例えば「XXをテーマにした商品を作って販売しよう」と思った時にどうするか。ゲームを単に「商品」として考えるなら、「XXデザイントランプ」は一つの手です。
よくよく考えれば、「かるた」「トランプ」「すごろく」など、ゲームに詳しくない方が最初に触れるボードゲーム・カードゲームは、大昔にルールが確立されたもので原作者も分からず、ルールを自由にコピーして販売可能です。

任天堂 マリオトランプ NAP-02 スタンダード

任天堂 マリオトランプ NAP-02 スタンダード

 

 

例えばおもちゃ売り場で様々なデザインだけを変えたトランプが大量に販売されているのを見て、「面白いデザインのゲームを作って売っても良いんだ」と考える人がいてもおかしくありません。
トランプ・かるたはOKで、ドブルはNG、「オセロ」は登録商標など、確かに知らない人には分からない所で、だからこそ念のため確認する専門家が弁理士だった、と想像すれば今回の件は真摯な行動だったとも思えます。
(この点について、はちつぶ様に詳細は伺っていませんし、特定の案件を対象にするつもりはありません。あくまで私の想像です)

Best Othello ベストオセロ

Best Othello ベストオセロ

 

 

ルール作りは大変だ、と叫ぶ

してみると、足りないのは我々ボードゲームを制作している側からの発信と啓蒙ではないでしょうか。

 

ボードゲームのルール作りは、「実は」大変で、それなりにノウハウもあります。
現状ボードゲームを1,000人単位の人が作っていて、また「かるた」「すごろく」であれば誰でも自作できます。
しかし、例えば拙作「BLOCK. BLOCK」は21個のブロックを積み上げる「だけ」のゲームですが、このゲームを他の誰かが思いつくかと言えば、(自分で言いますが)なかなか難しいと思います。

penanddice.webcrow.jp


基本コンセプトである「ブロックを積んで上から見る」までは行けるかもしれません。
しかし、ブロックの選定と色の配置、また置き方のルールは他の人が作れば別の内容になるでしょう。
(私の考えたものが一番優れている、と言いたいわけではありません。そこには個性があるという話です)
また「かるた」「すごろく」にルール説明は不要ですが、自作ゲームでは必須です。
「BLOCK. BLOCK」はイラストを入れながらもペラ1枚で説明が完了しています。「1分でわかる簡単なルール」は、口で言うのは簡単ですが、完全なオリジナルルールで実現するのはなかなか難易度が高いです。
これを実現できたという意味でも、自分にとって「BLOCK. BLOCK」は自信作です。

 

しかしながら、このルールは何度も言うように著作権では保護されません。
これをコピーした商品が中国で量産され、別の名前で販売されていても私は販売店の良心に訴えるしかないわけです。

 

ボードゲームデザイナーの地位を、日本で上げていく

アレックス・ランドルフ氏は偉大なるゲームデザイナーであるとともに、「ボードゲームデザイナー」という概念自体を発明したといわれています。

ja.wikipedia.org

彼はボードゲームに初めてデザイナー名を冠するようにし、ゲーム制作者としての相応の対価を得られる仕組みを作りました。

 

彼のボードゲームが初めて世に出たのが1961年。
今では当たり前のようにゲームデザイナー名をボードゲームに入れますが、それでも日本ではその役割が一般的には知られていません。
つまり、日本でやるべきは「良識が無い」と文句を言うことではなく、「それを常識にしていく」アクションではないでしょうか。
尊敬すべきアレックス・ランドルフ翁から遅れること50余年、日本でもボードゲームがテレビで取り上げられるなど、その露出が上がっては来ましたが、これからは各々のデザイナーが認知され、その働きに相応の評価と対価を得られる仕組みが作られるよう働きかけていくのが、我々のやるべきことではないでしょうか。

 

本件でも、「あれはダメだろう」というコメントは多数ありましたが、この手の剽窃(パクリ)問題は定期的に発生します。その背景には著作権法の問題もありますが、それを許してしまうだけ、まだルールの創作性について、一般の認知が遅れているという事に他ならないと思います。
例えばテレビ・雑誌でボードゲームが紹介される際にデザイナー名の併記を徹底してもらうなど、少しずつでも働きかけることで改善していけばいいなと思います。