ボードゲームのデザインの基礎の基礎:5 複雑さ
ボードゲームやカードゲームといったゲームは自分が勝ちに行くようにアクションしますが、勝利に対するアクションが一つしか無いとタダのすごろくになります。
基本システムはこれだけで、このアクション自体に「賭け」や「ブラフ」を入れると「キャントストップ」や「チャオチャオ」になります。これでも十分ゲームになる、どころかどちらも名作中の名作です。
「勝利に向かう」という基本の軸に対して、いくつかの他の指針を混ぜ込むことでゲーム性を挙げる事例も多くあります。例えば「勝利の基準を複数設ける」「相手を妨害する」などなど。このアクションが「相手を妨害しつつ、自分も勝利に向かう」といった動きが出来るとより良いですよね。
複雑なゲームの注意点
どちらのゲームが良い・悪いと言うつもりはありませんし、色々なゲームがあるのは良いことです。
ただ、これもテストプレイや最近ゲームを作り始めた方のゲームで多いのが「パラメータが多い」「アクションフェイズが多い上に、それが明示されていない」というものです。
この辺、TCG(トレーディング カードゲーム)プレイヤー出身のゲームデザイナーさんに多いという印象です。
既存のゲームやシステムを分析し、自分なりに作り替えるのはゲーム作りの方法としては基本中の基本で、どんどんやるべきです。
ただ、その基となる知識が偏っていると、自分にとっては当たり前でも、他の人にとっては非常識である場合もあります。
TCGは特殊な世界
TCGの特徴をいくつか挙げてみましょう。
ここでは公式で画像をたくさん公開されている「遊戯王」から画像を参照します。
(画像は公式サイトへのリンクで紹介しています)
TCGは主に「カード」と「プレイマット」で構成されます。
■カード(画像はモンスターカード)
■プレイフィールドの説明(プレイマット)
TCGゲーマーはルールを覚えているので、マットなんか無くても遊べます。
しかし、自分の作ったゲームを遊んでもらう時はどうでしょう?みんなルールを知らないので、「この場所はこの効果で、このカードを置く」といった説明は必須です。
自分でゲームを作るときは、「複数の場所に置く、あるいは置き方によって効果があるなら、位置を指示するボードもあった方が良い」と意識しましょう。
これも、「制作者が自分でルールを説明している限りは発覚しない」問題なので、制作者がルールだけ渡して遊んで貰うことが重要という一例です。
自作ゲームを作る際の注意なのですが、TCGは言ってみれば「わざとルールを複雑化させる」仕組みです。こういうと弊害がありますが、TCGは自分のゲームの領域でプレイヤーを囲い込むのが目的です。このため新シリーズのカードを出し続けなければいけませんし、そのたびに何かしら新しい要素を付け加える必要があります。だから、いくらシンプルに作ったゲームでも、時代を経るとどうしても複雑化する傾向にあります。
例えばこちらは現在時点で最新のMtG(マジック:ザ・ギャザリング)のルールは以下になります。さて、もしこのルールを「今」「個人が」リリースしたらどうでしょうか?
「こんな複雑なルールを読んでられるか!」と誰も遊んでくれないと思います。
MtGのルールやシステムは現時点で間違いなく世界最高峰でしょう。それでも、それが受け居られているのはしっかりとしたプレイヤーコミュニティや公式サポートなどの蓄積があってこそ、です。「良い物だから受け入れてもらえる」ではなく、「自分の作り方、PRの仕方で受け入れてもらえる物でないと、土俵にも上がれない」ということは、厳然たる事実として受け入れる必要があります。
TCGをベースにカードゲーム・ボードゲームを作ることは問題ないですが、こうしたTCGならではの特性をしっかり踏まえて作らないと、やたらと複雑なゲームになってしまいがちである、とだけここでは述べておきます。
人間はそんなにたくさん処理できない
これはTCGに限らず、全般的によくある話なのですが、やることが多くなると人間は忘れます。
シミュレーション系のゲームがPCゲームに早めに移行が進んだのは、やはりその複雑な処理部分をパソコンに任せられるからでしょう。
ではボードゲーム作りではどう処理するべきか。
これも正解はありませんが、良くない例はいくつでも挙げられます。
作っていてバランス調整のためにこっちを+1、あっちを-2と例外処理を追加していくとどうしても複雑になっていくもの。
間違えないように指針を作る
複雑な処理を分かりやすくする例として、TCG出身の方がよくやるのは「フェイズを設ける」という対策です。
「準備フェイズ」「対戦フェイズ」「処理フェイズ」のように一連の動作を段階に分けて、一つ一つ確認することで抜け漏れを防ぎます。
私、この辺苦手なんでTCG出身の方は上手いこと作るな-、と感心してばかりです。
ポイントは重たいフェイズをあまりたくさん設けないこと。
「あれ?今何やってたっけ?」とならないよう、「このカードがここにあるから何フェイズのはずだ」と分かるような工夫があるとより親切です。
アクションを纏める
それぞれのアクションが「本当に必要か?」と考えることは重要です。
テレビゲームならいくつのパラメータを増やしても大丈夫ですし、むしろその複雑さがゲームに奥行きを持たせます。
しかし、例えばモンスターハンターの攻撃アクションを正確に再現すると、
武器の強さ×摩耗度×武器の打撃位置-防御力×攻撃部位=ダメージ
なんてことになり、とても計算していられません。
不要なアクションはなるべく纏め、プレイヤーの動きを減らすのは重要です。
例えば「スタートプレイヤーマーカー」って、細々動く処理を入れられると渡すの忘れません?(私だけ?)
ゲームのスタート時はともかく、ああいう「マーカーを渡すだけ」みたいな処理はなるべく減らす方が間違いが無くて良いと思います。
とりあえず書きたかったことはこれで一旦終了。
米光さんからはこんなコメントを頂きましたが、私も苦手なんですよ、マニュアル。
マニュアルのわかりやすい書き方を、ぜひ!
— 米光一成「はぁって言うゲーム」 (@yonemitsu) September 9, 2018
・・・ってか「基礎の基礎」だっつってんのに米光さんも読んで頂いているとか。
こちらがむしろ講座に参加させて欲しいぐらいですって。
さて、これからは気が向いたら更新します。(つまりはいつも通り)