ボードゲームのデザインの基礎の基礎:4 勝利点
ボードゲーマーにとっては日常用語の「勝利点(VP:Victory Point)」ですが、この言葉自体が一般的じゃないですよね。
要はゲームにおいて「これをしたら勝ち」という基準です。
将棋なら王将を取れば勝ち、オセロなら自分の色が多ければ勝ちですが、ボードゲームの場合は「終了条件を満たした際に点数を精算して、多い人が勝ち」「特定の条件を満たした人が勝ち」など色々な終わり方・勝ち方があります。
勝敗のために評価する点数が多く、何十点となる場合は得点チップや得点トラックを用意することが多いです。(モノポリーでは紙幣でしたね)
私も「卓上ヘボコン 対戦キット」では得点トラックを用意しました。
下写真では中央のロボットが並んでいますが、この対戦用のボードの周囲に数字が並んでいます。ここにチップを置くことで、点数をカウントするのが「得点トラック」です。
ちなみに開発中の写真がこちら。ルールも今と全然違いますが、得点トラックが個人ボードの上にあるというのも違いの一つです。
得点トラックを個人ボードに置くと「得点を管理して伸ばす」という意識が出ますし、全員で一つにまとめると「抜きつ抜かれつ」の、人と比較する印象が強くなります。
「まとめると一カ所で済むから製造原価が下がる」というコスト面の他に、得点の示し方一つでプレイする印象も変わるという一例です。
「卓上ヘボコン 対戦キット」においては、対戦する状態を可視化したかったため、最終的に得点トラックは共有の物、としました。
では、勝利点が一桁の場合はどうでしょうか。
例えば拙作「百怪夜行」の勝利条件は、「最初に10点を取ったプレイヤー」です。
その点数を確認するため、先日も取り上げた得点用の「蝋燭カード」を入れています。
蝋燭カードには現在の得点の位置にチップを置くことで、点数を表示します。
(この赤いチップが炎を表すのは結構好評でした)
とあるゲームでは、同じように「先に7点を取ったプレイヤーが勝利」というルールでしたが、その得点を表示するものは無く、各プレイヤーが覚えておくしかありませんでした。
プレイに集中していると、どうしても「あれ、今何点だっけ?」と自分の点数を忘れることもあるかと思いますし、人の点数まで覚えておくのは大変で、トラブルの原因になりがちです。このため複数のラウンドがあり、一度に得られる点数が一定しないと混乱を招きやすいゲームの場合、得点を表示する仕組みは必要かと思います。
一番シンプルな方法はカードだけを使う方法。
タンサンファブリークさんのがイラストを描かれたバージョンの「FABFIB(ファブフィブ)」では、2枚のカードを重ねることで点数を表示します。
下写真の一番上がスタート時の12点の状態、そこから点数が減るごとに死神カードを左に移動し、最終的に0点になると死亡です。(写真一番下)
ちなみにルールブック(写真右)もすべてカードというカードづくしの構成です。
これをまとめると、5~12点あたりの勝利点では、ボードを使う以外に、カードを使っても勝利点を表示出来ることが分かりますし、何らかの表示があるほうが親切だと言えます。
ではもっと少ない場合は?
一回勝てばゲームが終了する場合、表示は必要ありません。(将棋など)
しかし2~3回勝利したらゲームが終了する、という場合はどうでしょう。
拙作では「陰陽賽」がそれで、2回勝利したプレイヤーが最終的な勝利者です。
これを表示するため、勝利点を示すチップを同梱しました。
下写真の中央右と左に見切れているピンク色のチップがそれです。
1~2個程度ならそれを表示する方法は色々あります。
カードの表裏で判断するゲームも多くありますし、上記のようにチップやトークンで示しても良いでしょう。
面白いのは「コヨーテ」で、一枚のカードの「表」「裏」「カード無し」の3つの状態で残りライフを表示しています。(つまりカード1枚で残りライフを3段階表示)
ライフは「身代わり人形」で、「カード無し」状態は「身代わり人形が無くなったから、次にダメージを受けるのは自分自身」という説明がなされています。
ただ、多人数で次々脱落していくゲームシステム上、カード無し(残りライフ1)のプレイヤーと、脱落済みのプレイヤーを区別する表示が無く、間違えやすいのは事実です。
オリジナルのゲームをカードでデザインしたためとは言え、ちょっと無理が出ているかな、というのが正直な感想ではあります。
(オリジナルでは鉢巻きにダメージトークンを付けて表示していました。これがまた屈辱的で良い)
最終的に何が良いかはゲームの雰囲気や取り回しのしやすさなどで決めてください。
ところで上に挙げた拙作の陰陽賽では、勝利チップは全部で「5個」入れています。
2回勝利したら良いので、4人プレイで全員が一勝する状況を考えて4個、そこから2勝目を挙げるプレイヤーが出たらゲームが終了するので、その時のために+1個、という計算です。
しかしこの5個目のチップ、出た瞬間にゲームが終了するので、このチップがゲーム中で必要な時間は実質的に「ゼロ」です。
この「理論的には存在しない時間のためのチップ」という何とも哲学的なチップを入れるべきかどうか、これは設計段階で悩んだところです。
しかし、「勝利して2個目のチップを受け取るという儀式のため」に、最終的に5個目の入れることにしました。
実際にはプレイした方のツイートなどで勝利した方の所に2個目のチップを置いて写真を撮られているケースもあり、入れて良かったと思います。
私はボードゲームは一種の「ごっこ遊び(ロールプレイ)」だと思っているのですが、ゲームに勝利したという余韻と儀式をより強化するフレーバー(雰囲気)のためのツールとして、この小さな一つのチップが役に立っているのではないか、と思うわけです。
こうした部品一つ、カード一つ、デザイン一つの「意味」を考えることが、一つ一つ自分の「身」になると思います。
例えば私は「卓上ヘボコン 対戦キット」を作る中で、ポリオミノ(テトリスのような、四角形を組み合わせたブロック)のことを調べて、ゲームで使うにはどういう組み合わせや数が良いかを考えました。
日本の個人制作デザイナーでこの経験がある人はなかなか少ないと思いますので、これは結構な特殊スキルじゃないかと思っています。
しかし、逆にコインや得点をたくさんやりとりするゲームを作った事が無いので、得点チップの適切な数量なんかはわかりません。
他の制作者とお話ししていても、「XXなゲームを作っています」と特定のゲームシステムに特化した制作者の方は、こうした特定のジャンルのノウハウを突き詰めているのだろうと思います。
「海外の有名なゲームでこういうカードの組み合わせだから」とそのまま持ってきたんじゃ無いか?と思われるようなカードやタイル構成のゲームを見かけることも、正直なところ少なからずあるのですが、一つ一つ「ちゃんと」考えたら、おそらくそのまま同じになることは少ないはずです。また逆にこうして自分で考えたノウハウを蓄積していくと、「あ、あの人のゲームだ」と分かるぐらい、デザイナーの「癖」が出て来ます。
もっとそうした「個性」のある作品に出会いたいなと思う次第です。
さて、次回はどうしようかな・・・