香港ボードゲーム事情・その2:海賊版について
香港のボードゲーム事情を話すにあたって触れなければならないのは「海賊版」。
20数年前には街のあちこちの屋台で普通にドラえもんやドラゴンボールの海賊版が売られていた香港。
私もゲームの海賊版の売られているお店に遊びに行って、「4イン1」のファミコンカセットなんかを漁った記憶があります。
というか、日本から輸入されてくるゲームを売ってたのがそのお店ぐらいだったんじゃないかな。
「ストII」が全盛期だった当時に「ストリートファイター」という4キャラしか居ないファミコンのゲームをやった記憶があるんですが、あれって正式版?海賊版?
まぁ、そういう場所であり、時代であったわけです。
そんな香港もさすがにアカンところは一掃された、と思っていたんですが、色々と変わっているところもあれば、変わっていないところもあると実感した旅でもありました。
ビルの中に入っているプレイスペースで海賊版を扱っているところは無かったんですが、
ショップでは海賊版を扱っているところが・・・
(写真のどれが海賊版か分かるかな・・・?)
聞けば「そもそも海賊版の販売店で始まったお店だ」とのこと。
海賊版から正規版を扱うようになり、全てそれに置き換えようとはしているが、まだまだ海賊版も(たくさん)扱っているとのこと。
「だって海賊版は安いから!みんな高いゲームは買えないんだ!裾野を広げるのには海賊版も必要なんだ!」
というのが言い訳というかタテマエなんですが、とにかく正規品の1/3程度で販売される海賊版はやはりそれなりに売上があるということで、店舗としても一掃はできないとのこと。
ちなみにこの話、Mr. Walkerが小声で話してくれたことで、店長にはまったく話をしていません。
大体こんな正義を振りかざしたところで香港の商売人には効きませんし。私もその辺の感覚は分かりますから。
海賊版の品質
海賊版は総じて正規品に対して値段は1/3程度と大幅に安く、ある程度分かっている人は「これは海賊版」「これは正規品」と区別できるようです。
つまり海賊版は「正規品のフリをして騙して売っている」のではなく、100均でトランプなどが売っているように「安かろう、悪かろうの劣化版」として市場で併存している、ということ。
さすがに買いはしていませんが、紙も薄くペラペラで、すぐにダメになってしまうそう。安く作るために印刷に関わる費用も削っているということですね。
また、そうした背景から海賊版が出るのはカードゲームだけ、とのこと。
タイルやボードといった複雑なコンポーネントのあるゲームは海賊版を作るにはコストが高く、作られる事はないそうです。
海賊版が作られる流れ
では海賊版はどうやって作られるのか。
正規品をコピーして作ると思っていましたが、箱の印刷自体はコピー品質でないものもあり、どこでこんなデータを手に入れたのかよく分かりませんでした。
しかし話を訊くと、この海賊版の印刷会社は正規品のデータを持っているのだそう。
どういう事かというと、一度正規の印刷を頼まれた印刷会社(場合によっては現地代理店?)がその製版データを流用し、勝手に印刷して海賊版として販売しているとの事。
マジか・・・
Mr. Walkerの知る限り、そういう動きを行っているのは今のところ中国業者だけだそうで、だから「中国の業者は信用するな」だそうです。
当然、全部が全部悪いって訳じゃないだろうけど、そりゃ日本からじゃどの業者が大丈夫で、どの業者がまずいかまでは、分からんよなぁ。
普通に印刷を依頼した後、その商品が売れている事を知れば勝手に印刷して安く売り始める。そうした経緯なので、海賊版があるのはそれなりに売れている商品であると共に、「昔の版(バージョン)」であることも特徴だったりします。
海賊版のある世界
残念ながら香港において、海賊版は「あるもの(存在する物)」です。
20年も経ってれば無くなっているかも、と淡い希望もありましたが、残念ながらそうはならず。
おそらくは中国本土に行けば、場所にも依るでしょうが海賊版の勢いはもっと大きいでしょう。
そんな場所でみんなはどう対応しているのか。
例えば作る側としては、「コンポーネントの多いゲーム」を作るのが一つ。
いわゆる「ボード」のあるゲームは海賊版が無く、安心して買えるゲームになるのは上に挙げたとおり。
次に「英語版」。香港の現地バージョンは中国語版ですが、なぜか英語版が併売されています。
これは英語を勉強して話せる人が多い上に「英語で欲しい」というマニアが一定層いるからだそう。でも私は「英語版なら海賊版がないから」という理由もあるのでは?と思っています。
海賊版を掴まないように中国語版を嫌い、統一のために英語版で揃えるようになるのは、ありそうなストーリーだと思うんですがどうでしょうか。
(マニアは何らかの自分ルールで揃えたがるモンじゃないですか?)
この対策として、ある香港のパブリッシャーは「英/中国語版」をリリースする事で版の数を減らしているそうです。私の場合は版を分ける余裕が無くて日/英/中でいつもゲームを作っていますが、結果としてはこれが香港には合ったスタイルだったようです。
そう、香港でもマニアは海賊版を毛嫌いしています。
ゲームをきちんと高い正規品で買うだけでなく、例えばKickStarter限定のBigBox(全部入りパック)が結構な値段で販売されていたりします。
この棚は全部正規品とのこと。「No Photo」は香港ではタテマエだけ。
香港や中国のこうしたマーケットを指して「何でもあり」と形容される事がありますが、こうした最安から最高までが同じ所で並ぶのが香港のカオスなところです。
そんな香港人が買う際に気にするものの一つが「重さ」。
海賊版は安く薄い紙で印刷するので、やたら軽い箱は「これ、海賊版じゃないの?」と嫌がられるとの事。
だから「ラブレター」は香港じゃあんまり出ていないそうです。
「高い金出して正規品を買ったら、カードが20枚しか入ってないんだぜ?」
う~ん、日本流のミニマルデザインは香港じゃ難しそうな感じです。
そういや、オインク作品もあまり見かけなかったかな?「小早川」が新商品ラインナップに並んでいたんでゼロでは無いみたいですが。
ゲームの良い・悪いじゃなく、好き・嫌いはゲーム性だけじゃなくデザインなどでも色々あるので、こと香港に関してはこう、というぐらいに捉えて頂ければ幸いです。
香港・中国との付き合い方
香港と中国は実質的には別の国とはいえ、こうして海賊版の話をしなければならない国という意味では市場的には近いのかなと思います。
日本はもちろん、ドイツ・アメリカ・台湾では少なくとも海賊版について話に上がった事はありませんでした。
少なくとも自分で出荷関係までやることは難しいでしょうから、中華圏へ展開するには現地の代理店などと連携する事が必要だと思います。
この際にどれだけ信頼できる相手を探せるか、いかに相手との信頼を気付いていくかがポイントになり、それはこのブログで素人が書ける範囲を超えています。
私は香港の展開にはMr. Walkerを、台湾へは当初のみ直接送付を行い、それ以降はEmperor S4 様に「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」のライセンス契約を行った事からそれ以外は手を引いています。
中国への展開は同じくEmperor S4様が挑戦するということなので、そちらに任せる事にしています。こうした、自分にとって信頼できるパートナーを見つけられるかが個人制作者にとっては重要でしょうが、それに決まった方式はないでしょう。
「だから中国には出荷したくないし話もしたくない」
という判断は、それはそれでアリかと思います。
中国といえば必ず話題に上がるのが「三国殺」。
香港でもその人気は強く、色々な拡張を見かけました。
プレイスペースでは三国殺と、その元ネタであると言われる「BANG!」が並んでいるあたりもまさに香港という感じでカオス。
これ、台湾だと盗作の疑いがあるためか、全く見かけなかったんですよね。
そして盗作と言われる三国殺のさらに海賊版が並んでいたり・・・
この辺にも色々まとめたブログがありましたが、本気でパクりに来られると面倒、というかどうしようも無い国ではありますね。
子供の頃は無邪気にニセ物や海賊版を見ていましたが、「第二の故郷」がこうした状況から抜け出せていないのは、個人的には悲しい限りではあります。
【同じ穴のムジナ】中国企業が他社のパクリに文句を言えない理由=「三国殺」裁判の和解から読む―中国 : 中国・新興国・海外ニュース&コラム | KINBRICKS NOW(キンブリックス・ナウ)
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