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「火星の人(オデッセイ)」がとんでもなく面白かった

マットデイモン好きとしては「オデッセイ」は見たくて溜まらなかった映画で、その内容ももう、文句なしの名作でした。(ちょっと前の話になりますが)

 

で、SF好きとしてはやっぱり原作も興味があったので、「火星の人」を読んでみたんですが、これがもう、面白いのなんの。

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

 
火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)

 

人様に自慢できるほど色々読んでいるわけではありませんが、個人的には過去ナンバーワンのSF作品です。

 

ストーリーは非常にシンプルで、火星探査ミッションで上陸した6人のクルーのうちの一人、「マーク・ワトニー」が主人公。

ミッションは上陸後たった6日で嵐のため急遽中断。

激しい嵐の中でクルーは緊急避難するものの、退避途中に事故で死んだと思われていたワトニーが、なんと一命を取り留めていた。でも、既に脱出艇は飛び去ってしまっていた。

・・・というお話。

 

正直な所、あえて言わせて貰うとストーリーはSFとしてはごくごく平凡です。

徹底的な科学考証も、ハードSFとしては素晴らしいけど、逆に言えばそれだけ。

この作品は映画も原作も素晴らしいんですが、その価値を文句なしに高めているのは主人公、ワトニーのキャラクターです。

ここ二、三日、ぼくはご機嫌で水をつくっていた。すいすいと進んでいた(わかるかな?”すいすい”) (上巻p63)

作品のかなりの部分はワトニーの「ログ(日誌)」の形式で進みます。

科学知識豊富なNASAの宇宙飛行士が、読んで貰うことを前提に書いてある報告書という形式になっていて、ある意味「読まれることはないかもしれない」というお気楽な報告形態が、どう見たって絶望的な事実を笑えるレポートにしてしまう。

だって30日しか滞在を前提にしていないミッションですよ?地球上なら食物と水を探せば良いけど、火星上では水も空気も食料もないわけです。しかも周囲から探しようも無い。さあ、どうする。

しかも太陽電池の発電能力やなにやらの関係で、やるべき事は多いのに一日の大半が待ち時間になっていたりする。この辺のリアルな状況設定が、「なんで生死がかかっている状態で呑気に報告書なんか上げているのか」という根拠になるわけです。

この辺、同じ極限状態を描いた「アポロ13」と比較するとその違いが際立ちます。

あちらはリアルはリアルですが、史実というリアルすぎるお話のせいで下手なギャグを入れる余裕がありません。だからこそ、「靴下で窓を拭く」があれだけギャグとして目を引いたわけですけど。

 (「火星の人」でも色々ネタにされてます)

アポロ13 (吹替版)

アポロ13 (吹替版)

 

 

色々な小説を読んできても、ここまでページをめくるごとに笑って、泣いて、ハラハラする作品には出会ったことがなかった。

色々な意見があるでしょうが、この「火星の人」。改めて私の中では過去最高の一作、です。

 

「火星の人」と「シン・ゴジラ

で、今更なんですがこの作品を読んで、「なんか、シン・ゴジラに似てるな」と感じました。

 

シン・ゴジラは(これも今更ですが)ゴジラの作品というより「ゴジラと戦う官僚」の話で、その徹底的な考証(現実:リアル)で描かれた官僚・政治家・自衛隊・等々が、圧倒的な虚構であるゴジラと戦う、というお話。

対して「火星の人」は、火星の自然という圧倒的な力に立ち向かう、宇宙飛行士のお話。宇宙飛行士個人の工夫があれやこれやあるとはいえ、実際にはそのバックアップに様々な人が動いています。様々なサプライ品を作る人、それを報道する人、ワトニーの行動を衛星から監視する人、軌道計算する人、等々、等々。

両作品はそうした周囲の人を次々巻き込みながら大きくなっていく様も似ています。

また、圧倒的な情報量を限られた枠で見せるために非常にハイコンテクストな造りである所も似ています。

 

ただ、決定的に違うのは、「シン・ゴジラ」がヒーロー不在であること。「火星の人」も登場人物皆がいなければあの完結は迎えられていないとはいえ、やはり「マーク・ワトニー物語」であることは間違いない事実です。

そして「火星探査メンバーに選ばれたNASAの宇宙飛行士」といえば、これはアメリカでは間違いなくヒーローのアイコンです。

 

この辺は日本とアメリカの違いなのかな、とも思いましたが穿ちすぎですかね。日本でもほとんどの作品にヒーローがいるんだから、シン・ゴジラが特殊なだけか。

どうもシン・ゴジラに続いてあまりに衝撃的な面白さだったので、色々考えすぎているかもしれません。

 

読むための知識

「火星の人」はもちろん何の知識もなくても楽しめる作品ですが、ハードSFである以上、科学知識があればあるだけより深く楽しめますし、作者がアメリカ人である以上アメリカの風俗を知っていれば、より楽しめるのは間違いありません。

例えば火星で「ツイン・ピークス」と言われてえもいわれぬ感動を覚えるかどうか。

この辺は科学知識というか天文オタク・NASAオタク知識の領域に入るでしょう。

もちろんスタートレックスターウォーズの知識は当然。

そういえばちょっと前の作品では、スタートレックといえば「キャプテンカークのように」というセリフがありましたが、最近の映画じゃ「スコッティのように」「バルカン人のように」「クリンゴン人が来たら・・・」とか、船長出てこないですね。まぁ、本人が年取っていろいろやらかしちゃったからなぁ。

ちなみに私はTNGから入ったのでキャプテンと言えばピカード艦長ですけどね。

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 (分からない人置いてけぼりの話題)

 

そんなこんなで「火星の人」、映画も原作もすごくオススメ。

訳も素晴らしいです。小野田和子さんか。存じ上げなかったけど、この方の翻訳を探してみようと思わせるぐらい。

ところでこの「火星の人」という邦題、現代の「The Martian」を頑張って訳されたんでしょうが、もうちょっと雰囲気が出せないかな、と思わないでもなかったり。

(映画タイトルの「オデッセイ」よりは何百倍もいいと思います)

まぁ、「火星人」だとタコ生物になっちゃいますからね、難しいところ。

う~ん、「火星住まい」「火星暮らし」とか?いくら何でも軽いな。

うん、訳って難しい。