自作ゲームの黒歴史:第一章
手探りでゲームを作り始めたのだから、もちろん最初の造りは悪かった。
でも参考になる情報が見つからないなら、こんな黒歴史も役に立つことがあるかも知れない。そんな葛藤を抱えつつ、作ったゲームとその反省点を挙げてみる。
分かる人から見れば「お前、そんな事も分からなかったのか?」というレベルのこともあるだろうけど、「うわぁ、こいつバカだなぁ」と生暖かい目で見守っていただければ幸い。
第一弾:ボードゲーム「こちら市役所、正義の味方課」
記念すべき始めて自作したボードゲーム。
「こちら市役所、正義の味方課」。
ゲーム全景
「悪の組織対正義の味方ってゲームを作りたいんです」
という妻の友人の言葉を聞き、「自分ならこうするかな」と作ってみたのがその動機。いや、まさかそこからここまでゲーム作りにハマるとは。
悪の組織1名 VS 正義の味方3名に別れて闘う、というオーソドックスな対戦もの。人数調整はできてないので4人専用。そこは初めてだから仕方ない。
全体で4回のフェーズがあり、最終フェーズで勝った人が勝ち、というもの。第三フェーズまでは第四フェーズに向けた「巨大ロボ」の獲得を目指す前哨戦。
良かったところ
何より、とりあえず完成させて、遊んでみたこと。
もしこれが構想だけとか、最初の試作だけで終わってたら、その後のゲーム作りに続かなかったと思う。
まず作り、遊んでみて、問題点を修正する。
「ゲームはテストプレイの数を増やすほど完成度が上がる」と聞いたけど、実際にやってみてその意味が分かった。
ゲーム作りに興味を持ったら、どんな形でもいいから作ってみるのがいい。そして、家族・友人を巻き込んで遊んでみる。(もちろんそれまでに自分が納得するまで確認する)
そうすれば問題点が見えてくる。
プレイ風景。協力いただいた友人各位に感謝
例えばこのゲームは二度ほど作り直している。修正したのは駒の動き、見た目に分かりやすいデザイン、ゲームバランスを調整するためのルールの追加、プレイヤーが状況を把握しやすくするための点数パネルの追加等々。要は目に入る部分はほとんど作り直している。
チップのデザイン(左:初期、右:改良後)色、デザイン、数値を修正
一人でやっていても問題点は分かりにくいし、プレイスタイルの違う人がどんなアクションを取るか見られることも、たくさんの人にテストプレイして貰うときのメリット。そうして問題点が明確になれば修正点も分かるので、ゲームの完成度も上げられる。
悪かったところ
初めてのゲームなので問題点は色々あるが、その一番は「完全情報ゲームである」ということ。
完全情報ゲームとは全てのコマやカードの情報がプレイヤー全員にあらかじめ公開されているゲーム、ということ。囲碁や将棋なんかがこれに当たる。
正義の味方と悪の組織が戦う(しかも正義の味方同士で派閥争いがある)というコンセプト自体ははそれほど悪くなかったと思う。でも使用する駒があらかじめ全て公開されていて、ランダム性が無い。これがゲームシステムとしては致命的だった。
ゲームには難易度やゲーム時間、テンポや戦略性など色んな軸があるが、その中でも「ランダム性」は重要、というのをこのゲームで学んだ。
ランダム性が無い「完全情報ゲーム」は、要は何手先まででも読めるということ。こうなると読みが強い方が勝つので、物凄く頭を使う。そして疲れる割に爽快感がない。将棋が「テンポ良く爽快」っていう印象はないでしょう?そういうこと。
完全情報ゲームなのに爽快感のある「オセロ」がどれだけ素晴らしいか。作る側になって始めて理解できた。
ゲーム作りを諦める瞬間
自分の作ったゲームは可愛いし、何とかして改良してやりたい。
そうしたこだわりは大事だが、固執するのも良くない。
執着と諦め。企画をやっていると日々感じることだが、このバランスをどう取るかはゲームを作る上でも重要になる。この見極めを行うには、どんなものでも線引きを明確にすれば良い。
ボードゲームの場合は恐らく「コンセプト」と「ゲームシステム」が間違っていないか(そのゲームに合っているか)、ということ。
このゲームでは「正義VS悪」という「対決」をゲーム内に持ってくるのが発案者である妻の友人がやりたかったこと。つまりこれがコンセプト。チーム戦のボードゲームというのがそもそも少ないが、1対3というのは聞いたことが無い。この作りでは当然人数の少ない側が圧倒的に不利になる。そこをこねくり回したものの、小難しくなるばかりで爽快感はどんどん薄れて行ってしまった。
こうなると多少ゲームの設定をいじったところでどうしようも無い。幸い、ボードゲームは作るのにそれほど時間は掛からない。このゲームは没にして、次に行くことにした。
今見直せば色々やりようもある気がするけど。
反省点:ランダム性について
上にも挙げたランダム性というもの。ボードゲームではランダムを発生させるのにいくつかの方法がある。
サイコロ
言わずと知れた王道のランダム生成機。ボードゲームでは十面とか二十面ではなく、普通の六面ダイスを使うことが多い。
ただ、1~6までというのは結構バラツキが大きいので、ゲームバランスを考えると扱いが難しい。そこでゲームの内容に応じて色々な特殊なサイコロが使われる。
例えば目が1~3、-1~5、±1と0、などなど。
「ゴブリン株式会社」のサイコロ。1~5と「ハズレ」になっている。
ゲームによってはもちろんカスタムすることもあるけれど、ボードゲームが盛んな欧米では、かなり特殊な物も既製品で用意されている。ゲームを作ってみたい人は覗いてみても面白いと思う。ある程度数をまとめられるなら、送料含めても日本でカスタムするより安いはず。(もちろん全部英語)
Game components, game bits, game pieces | Game components
日本でカスタムしないとダメというサイコロの例。12面が旧暦の月名
「攻撃1/1/2/2/3、一面は エネルギー回復」とか特殊な六面になるとカスタムになる。とにかく1/6単位に収斂できるなら、サイコロは非常に使い勝手が良いアイテム。
カード
もう一つ、古くから使われるランダム生成の方法。例えばジョーカーの無いトランプから一枚を引くと、
- 数字→1/13
- マーク→1/4
- 数字か絵札か→10/13、3/13
というランダムが作れる。それぞれに数字では無くアクションや効果を割り振れば、好きな頻度で効果を発生できる。ただ、作ると意外に結構な枚数を用意する必要がある。コストも手間も掛かるのは要注意。
カードは小さく、厚くすればチップ(トークン)になる。
裏向きのチップを一枚ずつめくってランダムに配置する、というゲームは名作「カルカソンヌ」「キングダム」を始めたくさんあり、これが非常にメジャーな方法で使い勝手が良いことが分かる。ただし配って使うには持ちにくいので注意。
カルカソンヌのチップ。裏向きのチップをめくり、配置する。
- 出版社/メーカー: カルカソンヌ
- メディア: おもちゃ&ホビー
- 購入: 84人 クリック: 2,300回
- この商品を含むブログ (35件) を見る
- 出版社/メーカー: アークライト
- 発売日: 2012/04/28
- メディア: おもちゃ&ホビー
- 購入: 2人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
ランダム性を生むカードやサイコロの設計はボードゲームのキモになる。
レベルアップやステージごとに敵や武器の調整を行いやすいテレビゲームと違い、ボードゲームでは最初から最後まで同じカードやサイコロを使うものが多い(明確にフェーズを分けるゲームもある)。どのカードも最初から使えて、かつ理不尽でないバランスにする。かといって最初から最後までゲームのバランスが固定していると、ゲームに盛り上がりが出ない。ランダム性と盛り上がり。
このバランスこそがボードゲーム設計の面白いところで、自分はそれを分かってなかったことを、このゲームは教えてくれた。