ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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企画の三要素「アホ力」「マーケティング力」「技術力」

商品を企画するという仕事は、個人的には一つの専門スキルだと思っている。
あくまで一般論だが、開発寄りの企画は「面白くない」「客を分かっていない」と言われ、
営業寄りの企画は「実現性が無い」と言われることが多い。
要はそのバランスなんだけど、単純にその中間なら良いかというとそうではなく、
むしろ一番保守的な発想をするのは、技術を分かっていないバリバリの営業マンだったりする。


では新しい商品やサービスを企画するときに必要なスキルは何なのか。
個人的には、それには三要素があって、そのブレンドだと思っている。
その三つとはこれ。

  • アホ力(発想力)
  • マーケティング力(営業力)
  • 技術力(開発力)

アホ力:発想力

アホ力は造語だけど、「馬鹿力」だとちょっと違う意味になってしまうので・・・
新しい商品・サービスを考えるときにはブレインストーミング(ブレスト)が有効、という書籍が多いが、
このブレストで重要とされているのが
「自由な発想を出し合い、そのアイデアを否定しないこと」
この「自由な発想」でどれだけ羽ばたけるか、が企画の能力としては重要。

Brain storming at Soma Central - One Market / Global X

周りから見るとその発想の飛躍はアホにしか見えないが、その「いかにアホになれるか」が重要と言える。
そこで「アホになれる力=アホ力(ぢから)」と名付けた。


例えば「新しい自動車」を考える。
「燃費が倍」なら全く新しくない。
電気自動車は10年前ならまだ新しかったが、実用化された現在では目新しさはゼロ。
「自動運転」はアメリカで開発中。
「空を飛ぶ」あたりなら新しい。そもそも自動車か?と言われるぐらいでちょうど良い。
「ベッドになってて、起きたら目的地に着いてる」
「自分が運動した分だけ車が走ってくれる」もう、この辺まで来ると本末転倒。
まぁ、余り良い例では無いが、自由な発想というとこんな感じか。
「自動車とは地面を走る物だ」「自動車とは運転する物だ」「自動車とは・・・」
この「自動車とは」をどこまでリセットできるかが「アホ力」だと言える。

発想力は、訓練だ

一つの物についてどれだけの発想が出来るかは、慣れていない人から見ると「才能」に見える、らしい。
でも、発想力は訓練で伸びる。

  • 町で見かけたお店の売り上げを倍にするにはどうしたら良いか?
  • 手元にある道具の新しい使い方は何があるか?(既存技術の流用)
  • その道具を改良するとしたらどんなアイデアがある?(既存商品の改善)

こんな発想を繰り返していると、「アイデアの引き出し」が増える。
そうすると、「前に考えたアレ、ここで使えないか?」ということが増えてくる。

Find the idea / khalid Albaih

もちろん自分で考えるだけで無く、既存の改善、新商品、新商法などの情報収集でもよい。
あればあった分だけ、どこかで使うことがある。


ポイントは、この発想力の訓練をしている人が意外に少ないということ。
以前「特許を取れば主婦の発明でも大金持ちに」といった話が喧伝されたが、
その話の裏には「考えるぐらいは誰でも出来るでしょ」という思いが見え隠れする。
でも、「パンチがあたれば倒れるから、オレも世界チャンピオンにボクシングで挑戦する」とは誰も言わない。
いくらラッキーパンチと言われようが、ボクサーが一つのパンチを打つまでには、何千・何万の訓練を重ねている。
的確に「アホな発想」をするには、日々不満を見つけてアイデアを出す訓練を続けなければいけない。
例えば自分にとっては、このブログこそがその訓練の場になっている。

マーケティング力:営業力

マーケティングも日本の会社が凄く苦手な領域だと思う。
この商品を出せばどのぐらい売れるのか。
この機能があればいくら上乗せになるのか。
機能だけでは商品は売れない。
商品があり、流通があり、営業がいて、宣伝があって、商品が売れる。
だから、新商品は新商品で独立した存在では無くて、その会社と連動したものになる。
学生のときには「OEM(相手先ブランド商品)」の存在意味がよく分からなかったし、
実際に全く同じ車で、製造はダイハツなのに、トヨタダイハツで販売する車の存在意味が分からなかった。

OEM+ / Chris Tweddle

しかしそれぞれの会社のラインナップと販売戦略の中で、同じ車でも占める意味合いや位置づけが変わり、
それぞれの目的で販売されるということが、今では分かる。


会社は商品だけで成り立っている訳では無いから、
良い商品でも売れないことがあるし、会社のブランドで押し切れてしまうことも多々ある。
つまり「会社の身の丈に合った商品」「顧客の視点に立って」出せれば、その商品はよく売れる。
と言うことは、出すべき商品、売れる商品は会社ごとに異なるということ。
100社あれば100社なりの出すべき商品像が存在するはず、ということになる。

マーケティング戦略は、売れない営業になってやれ

中小企業で営業が数名ならともかく、数十名以上で営業するなら
個々人の営業力だけでなく、営業戦略が結果を左右する。


これは前職でも言われていたんだが、新しすぎる商品は売れない
安いし、高機能。
簡単だし、そのコンセプトも過去に例が無い。
先方の技術陣に話をしても、とても気に入ってもらえる。
でも、売れない。
そんなことが、ままある。
企画担当者本人が営業に行けば、売れる。
でも、コンセプトが新しい商品では、それが全ての顧客に理解されるのが難しい。
よく新商品では「時代の半歩先を狙え」と言われる。
先に行かない商品は存在価値がないし、一歩先に行くと理解されない。
その微妙な案配がキモだと。
ある意味、時代の「一歩先」の商品の方が、考えるのは簡単だと言える。
実際、この前発売した商品がそんな感じ。
凄く良い商品だと思うんだが、理解されない。
この手の商品は、買ったお客様からの評価はすこぶる高いので、メーカもその要因を解析しにくい。


もう一つ、前職で言われたのは「失敗した商品の方が、学ぶことは多い」ということ。
確かに、この商品の失敗は多くのことを学ばせてくれた。

技術力:開発力

なまじ開発で、その商品やそのジャンルに詳しい知識を持っていると、
「そこで何ができるか」を発想の原点にしてしまう。
それでは、新しい発想にならない。
日本の携帯電話がガラパゴス化まっしぐらだった時期を思い出すとよく分かる。
新商品と言えば「着信音が8和音に」「画面がこんな綺麗に」「以前の商品より0.1mm薄い」

Major quake hits Japan - The terrestrial digital broadcasting service for cellphone. / MJ/TR (´・ω・)

どれも技術面で想定通りの機能アップで、意外性が無かった。
これなんかは、技術力を前面に出した新商品の典型と言える。

発想の進め方

では実際の新商品企画を進めるときにはどんな流れで進めれば良いか。
新商品を考えるなら、まず自由な発想が不可欠。
だから、企画を行う際には「アホ力」だけで発想する。
出てきたアイデアの中で、まず売れるかどうかを考える。
ここで必要なのは「マーケティング力」
そうしてふるいに残ったアイデアに対して「技術力」で開発の可能性を考える。
これをとにかくぐるぐると何回も回す。

Creamy center = sketch of business plan / juhansonin


企画がスペシャリストだと思うのは、一つはこの「アホ力」を訓練していること、
もう一つは「アホ力」→「マーケティング力」→「技術力」というサイクルを早く、何回も回せること、
この二点だと思う。
三つの「力」は一人でやる必要は無い。
それぞれに詳しい人がいて、聞けば分かるならどんどん活用したら良い。
ただ、それぞれに対しての最低限の造詣は必須。
「自分は営業だから、技術的なことはそっちで考えて」「私は開発だから、お客さんの事は知らないよ」では
いつまでたっても企画はできない。

角が取れたコンセプト

当初のコンセプトからすっ転んでいる場合はともかく、コンセプト時点では面白いのに
商品になるとモサっとしてどうしようも無くなっていることが良くある。
いかに「アホ」な、良いアイデアがあっても、
「市場はこうだから」という適当なマーケティングで仕様を曲げられ、
「こんなもん技術的にできない」という開発陣の意見で丸くなったんだろうと推測される。


そもそものコンセプトの問題ももちろんある。
悪いコンセプトとしては最近のパナソニックスマホ連動」
NA-VX8200L-W パナソニック ドラム式洗濯乾燥機Panasonic スチームオーブンレンジ NE-R3500-RK
良いコンセプトとしては最近ではSONYHMDが思いつく。
[asin:B009JW8YY4:image]
SONYはどうかなぁ、半歩先より、もうちょっと進みすぎている感はあるが・・・

AppleのiTouchとかも「物理キーを極限まで無くす」というコンセプトを
そのまま商品化したのは企画としてはすばらしい。
Apple iPod touch 32GB ブラック&スレート MD723J/A  <第5世代>
正に「半歩先」のこれ以上無い成功例だと思う。


以上、自分なりの企画の能力を分解して、まとめてみた。
基本的には、自分用のメモとしてまとめたものです。
新しいアイデアを考える仕事をしている方の、何かしら参考になれば幸い。
あなたの三つの能力配分はどんなバランスか、
あるいは今考えているアイデアの三つのパラメータのバランスはどうか、考えると良いかも。
ちなみに今開発を進めているのは、個人的にはもの凄く良い商品。
業界に新風を巻き起こす!と思っているが、冷静に考えると相変わらずちょっと先に進みすぎかも。
次こそは売れて欲しいんだけどなぁ・・、この先に進みすぎ感は自分の個性と言えば個性なんだが・・・
まだまだ半人前です。