ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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SHARPが悪かったのは権限の問題じゃ無い。

Sharpの株価がどん底で、鴻海(Foxconn)とは提携どころか買収では?
という話が取りざたされるにつれ、
「だからシャープはダメなんだ」
「いや、そもそも日本の家電メーカがダメなんだ」

SHARP / Steve Snodgrass

という論調が当たり前のように出てくる。
こちらの記事は特段シャープにターゲットを当てていないが、「日本の家電メーカ」という括りの記事。
・リンク → なぜ日本の伝統的メーカーは「エラい人のキーワードでモノつくる構造」を早くやめられないのか
・リンク → 自動車はできるのに、家電はなぜできないか?
・リンク → 日本の「えらい人」は日経新聞を捨ててSF小説を読んでください−デマこいてんじゃねえ!
結構な数の大手電機メーカにも、自動車メーカにも、その開発部署にも、生産現場にもお邪魔したこともある人間としては
賛成できる部分も、できない部分もあるんだが、沈んでいる相手は叩き放題という雰囲気はちょっとイヤだなぁ。


というか、気になるのは話の論点。
「日本メーカーになぜスティーブ・ジョブスが生まれないのか」とか「日本がSamsungに勝てない理由」
みたいな分析があるけど、Sharpが沈んだのはむしろ韓国に韓国・台湾勢に対抗して巨大投資を行ったから。
亀山第二までは(当時)成功していたので、「次は境工場だ!」となったときには、
「ついに日本にもこんな挑戦的な投資の出来る会社がいた!」
好意的に書いたビジネス誌を結構見かけた気がするんだけど。

とりあえず現状を整理しよう

まず現在のシャープの状況を分かりやすくまとめたのがこちら。
・リンク → シャープの現状は桃太郎電鉄に例えるとわかりやすい : 市況かぶ全力2階建
しゃーぷ   社長
 えきしょう工場    5000億 -20%
 たいようでんち工場  1200億 -10%
●エアコン工場      400億  10%
 コピーき工場      200億  5%
 プラクラ工場      100億  3%
 本社ビル        400億  0%
桃太郎電鉄20周年 ハドソン・ザ・ベスト
なにこれ、わかりやすい。
悔しいなぁ、ここまで見事に説明されると。


つまり悪いのは液晶・太陽電池事業なわけで、他部門は(多少なりとも)利益を出せている。
問題は「液晶・太陽電池が極端にでかい」「元々の利益率が低い」という二点。
日本のメーカーの利益率が低いのは元々だが、特に汎用的な白物家電などで利益を出すのは難しい。
ソニーの金融、重電系のインフラなど、安定した利益を出す事業があれば良いが、シャープにはそれも無い。
シャープはの売り上げは2011年まで順調に伸びて3兆円を突破。

CES 2012 - Sharp / Pop Culture Geek

しかし日本の総合家電メーカー10社中ではこれでようやく7位。
会社の規模に対して極端な一本足打法になっていた。
・リンク → 総合電機メーカー10社の平均年収と業績推移


シャープの以前の中核工場である亀山工場は
第一工場が2003年、第二工場が2006年に製造を開始している。
2003年度の売り上げはちょうど2兆円
そこから売り上げを8年で1.5倍にしたんだから、それ自体は凄い。

みんなが言うところの「良い商品」があればシャープは大丈夫だったのか?

Appleは上手くいっているのに」
サムスンに負けた」
という論調では「シャープがサムスン並みの判断が出来ればこうならなかった」
見たいな雰囲気が透けて見えるときがあるんだが、
シャープが「液晶一本足打法」となっていく2003年当時、
果たして「良い製品」があったとしてシャープはこうならなかったんだろうか。


テレビは世界的に過当競争になった。

SHARP-108inchMonitor / LGEPR

当初は「規模の競争」となり、急激な低価格化が進む中で
「世界No.1にならなければ生き残れない」と言われ、日本・韓国・台湾での液晶大規模化競争が起こった。
ではその結果、世界No.1の会社だけが生き残ったのか?
実際は「世界No.1でも赤字」という訳の分からない世界。
(2011年のサムスン電子のLCD部門は、6.66億ドルの経常赤字
もちろん今後は分からない。
分からないが、とにかく業界全体が赤字転落して、体力の無い会社は否応なく潰れる世界になった。


こう考えると、シャープが悪かったのは商品云々では無く、会社としての戦略であったと言える。
この意味で、シャープとの比較に自動車会社を持ってくるのは論拠からしておかしい。
自動車会社は自動車しか作らない。
その意味では、経営判断のブレ幅が家電に比べて大分小さいと言える。
そりゃ軽かピックアップトラックかという話はあるが、
「自動車業界全社が赤字」という状況はまぁ、考えられないだろう。
液晶ではそれが起きた。

シャープという会社についての個人的な感想

シャープには知り合いも勤めているし、あちこちの工場にお邪魔させて頂いている。
その中で印象的だったのは亀山第二工場。
堺工場がまだ出来る前、最先端工場ともてはやされていたが、電車で行くにはえらく苦労した。

Kameyama Station, Mie / Kzaral


亀山工場は技術流出を防ぐため、社員でも業務によって入室箇所が厳しく管理され、
「情報管理もしっかりした工場」と当時喧伝されていた。
ただ、その工場で働いていらっしゃった方が
「うちは大阪の町工場やからねぇ」
と言っていた言葉は今でも心に残っている。
(よく考えたら発祥は東京だったと思うが、それはまぁ置いとこう)
「こういう情報管理は合わんのよ」
といった言葉が続いていたかと思う。
働いている方からすると、亀山第二は立派な工場だが、その工場の管理方法に社員がついて行っていないと。
どういうことなんだろう。その時はよく分からなかった。


その後太陽電池が注目され始め、堺工場の話が出た頃お邪魔したのが奈良の「葛城工場」。
太陽電池が注目された頃の葛城工場と言えば、「世界最大の太陽電池工場」だった。

Solar Cell / mueritz

ドイツのQ-Cellの名前が日本でも囁かれるようになり、
「世界最大の工場」の名前にドキドキしながら訪問した記憶がある。
工場の第一印象は「これが世界一?」だった。
工場の規模としては中堅どころ。
要は当時、「世界の太陽電池なんてそんな規模」だったということ。
入門手続きなどの管理体制も亀山と全然違う。
「あ、こっちがシャープの本来の姿なんだ」と凄く実感したのを憶えている。


そして思ったのが、「堺はやばいかもしれない」ということ。
経営判断がどうとか色々あるが、どんな会社にも社風がある。
社風を変えるのは凄く大変だし、社風に合わない事業は長く成功するのが難しい。
亀山第二で話をしたときの違和感はこれだったんだな、というのが分かった。
亀山第二での成功モデルは、シャープの本来持っている良さと合ってなかったんじゃないか。
それなら、社風を変えるか、事業を変えなければいけない。
もちろん社風を変える会社もある。
でも葛城を見る限りシャープのスタイルは世界の最先端で最速の開発を行う方式になっていない。
そりゃそうだ。
世界で最初に電卓に太陽電池を搭載したのがシャープ。

Calculator / Images_of_Money

これが1976年
そこから30年、じっくり事業を暖めて育てて来た会社だ。
世界で注目されているからって、とにかく価格を下げて、
生産性を最重要視するように変えろと言われても、社員一人一人が急に変わるのは難しいだろう。

シャープさん頑張って下さい

自分は経営の分析家ではないし、ここで書いた内容は一人二人の意見を吸い上げているだけなので
偏っているであろうことは否定しない。完全に主観で話をしている。
ただ、シャープという会社がここまでの苦境に陥ったのは、
折角育てた液晶と太陽電池という、自社が強みを持つ、小さな事業が
突然世界の真ん中に引っ張り出されたという「不幸」のせいだろう。


技術的には他社に優位性もあり、しかも一番長くその事業を知っている。
でも、圧倒的な資金力を持った会社が力業を仕掛けてきた。

Samsung TV / DeclanTM

サムスン電子の売り上げで当時6.5兆円相当と倍。グループ全体ならもっと大きい)
勝てば大きく成長できる可能性もある。どうするか?
そんなときに運命をかけて投資した、それ自体は責められるべきことでは無いと思う。


では問題が無かったのか、というと、その解決策も「うちは大阪の町工場だから」という言葉にあると思う。
シャープの特徴は良くも悪くも独自性、自前主義じゃないだろうか。
他社との連携や供給関係なんかは、過去上手くいかないことが多い。
大体があれだけ海外生産を推す声もある中で堺(国内)に工場を作っている。
その辺の気質が、町工場風ということなのかな。
この特性を生かして中堅メーカーであり続けるか、体質を変えて大手を目指すか。
上のブログで言う権限委譲がどうこうの前に、会社の根っこである方針を決めるのが一番じゃ無いか。
今はどうも、今の体質のまま大手に立ち向かおうとしている気がする。
個人的には「中小企業気質の一兆円企業」という構造にスリム化して、
面白い事業は分社化していきゃ面白いと思うけど、一度大きくなったらそういうのは難しいのかな。


太陽電池や液晶だけで無く、ヘルシオ」「Zaurus」「ビューカム」「プラズマクラスター

SHARP ウォーターオーブン ヘルシオ 18Lタイプ レッド系 AX-CX2-R

SHARP ウォーターオーブン ヘルシオ 18Lタイプ レッド系 AX-CX2-R

SHARP 車載用プラズマクラスターイオン発生機 ブラック系 IG-DC15-B

SHARP 車載用プラズマクラスターイオン発生機 ブラック系 IG-DC15-B

シャープの独自性のある商品はたくさんあるんだから、「日本の電機メーカーなんだから面白い物は出来ない」
という指摘が当てはまるわけが無いだろう。
ただ、大きさを目指すなら「ヘルシオ」のような規模の商品になかなか注力できないだろうし、
Zaurus」なんてリスクばっかり高い商品はそもそも出せないだろう。
こういう良さを生かせる仕組み作りと、「液晶を捨てる潔さ」「他社と連携するスキル(社内風土)」
など、変えなければいけない部分はもちろんあるとは思う。
逆に言うと液晶は捨てても良いから、この部分だけ格好が付けばなんとかなる会社だと思うんだよね。
ということで世間に批判が多くなってきたので、持ち前の天邪鬼精神と判官贔屓
シャープ寄りの「私なりのシャープ観」を書いてみた。
シャープさん、なんとか頑張って下さい。