タクシー業界を再生する、新規事業を考えてしまったかもしれない。
タクシー業界が大変大変というので、いくつか数字を拾ってみた。
業界としては完全な衰退状態で、
平成三年には2.7兆円(!)あった売り上げが、平成二十一年度には1.7兆円へと大幅減。
輸送人員のピークは意外にも昭和45年の42.8億人で、
平成三年には31.7億人、直近の平成二十一年には19.8億人。
酷いのは事業者数で平成三年には7,185社(個人除く)の事業者数が、平成二十一年には13,679社。
一番業界が潤っていたのは平成三年だと思われるので、業界の感覚としては
「ここ二十年で業界が40%縮小してるのに、会社が倍増して完全な過当競争」
Omiya taxi 02t.JPG / midorisyu
ということだろう。
そりゃ大変だ。
業界団体には「全国ハイヤー・タクシー連合会 (全タク連)」があり、いろいろと統計資料を公開してくれている。
それを見ると、タクシー運転手の平均年収は年間278万円。
全産業平均の523万と比較すると圧倒的に低い上、労働時間も長いというのがこの団体の主張。
(ちなみに転職サイトDODAの資料では、全業種平均年収は449万)
もう一つ気になるのは平均年齢。
タクシー運転手の平均年齢は56.8歳と、全業種平均と比較すると10歳以上高い。
統計資料には個人タクシーと含んでいるのか分からないが、
全国に7万人を超える個人タクシーを含んでいるのなら、これは一部数字のトリックを含んでいる可能性がある。
個人タクシーは個人事業主なので、労働基準法は関係ない。
24時間働いても良いし、ほとんど働かずに小遣い稼ぎだけをしていても良い。
平均年齢が異常に高い(実際に統計の詳細では「70歳以上」欄がある)上、
平均年収が低いのは、年金暮らしで小遣い稼ぎの高齢・個人ドライバーを含んでいる可能性がある。
Japan Taxi Break / shibuya246
もちろん若い人でタクシー運転手のなり手が少ないことや、
上にあげたような過当競争で年収が減っているのは事実だろうが。
タクシーを変える事業
東京テレビの「ガイアの夜明け」で、「ANZENタクシー」が取り上げられていた。
こんな面白いサービスを「業界初」でやり続けているとのこと。
- 羽田空港←→都内6,000円均一料金
- お墓参りサポート(お墓参りの送迎とお墓掃除:一時間4,550円、以後30分2,050円)
番組では「お墓参りサポートは二時間半で1万700円。拘束時間で料金を貰う制度は、
タクシー運転手の一時間の平均売り上げ、約3,000円を越える収入を出せて効率が良い」
という結論だった。
タクシーをマーケティング的に救えるか?
マーケティング的に考えてみよう。
タクシー会社がこれだけ衰退している原因は?
業界としては「自由化によって新規参入が増えて過当競争に陥っている。自由化が原因だ」
というのかもしれないが、元々参入障壁に守られていたのが甘えなんだからこれは無視。
過当競争になるのはみんなが横並びの料金体系だから。
実際に統計の数字推移を見ても、顧客数の減少度合いと売り上げの減少度合いが同じ。
つまり、過当競争と言っても単価が下がったのが要因ではなく、乗る人間が減るようになったのが大きい。
参入会社が増えているのだから、盛者数が減っている中で食い合っても過当競争になってジリ貧になる。
つまり、現状を打開する対策としては「今までタクシーを使っていない人に乗って貰う」ことが大切だと言える。
JINS PC カスタム(度付き) / norio.nakayama
※「今までメガネをかけていない人にメガネを」という市場の広げ方で成功している「JINS PC」
ではタクシーの定義は?
「専用の乗用車に乗って、目的地まで行ってもらい、お金を払う」
これが一連の流れ。
ANZENタクシーの「墓参りサポート」はこの枠を越えたサービスをすることで新しい付加価値を目指している。
もちろんそれも一つの方法だが、この基本の枠内でも出来ることはたくさんある。
もう一つのサービスである「空港までの定額制」は、タクシーとしての基本的なサービスの枠内で出来る。
この「定額制」タクシーをもっと広げて考えることは出来ないだろうか。
例えば「時間制タクシー」は観光用で既に実用化されている。
Envirnomentally Friendly Taxi / stevenharris
「定額制タクシー」は、「駅から団地までの移動用タクシー」といった限定用途で一部採用されている。
これを一歩進めて「定額制で安いタクシー」があれば、タクシーの利用者はもっと増えるんじゃないか?
定額制で安くする手段としては、例えば「乗り合い」がある。
「乗り合いタクシー」は過疎地での足として一部実用化されているが、全体としてはほとんど普及していないといって良い。
これがもっと普及しないだろうか。
「乗り合い・定額タクシー」事業案
例えば「XX駅を中心に、市内は定額、300円」というタクシー。
ちょっとした外出に、駅までの徒歩が大変ということが結構ある。
外出の帰りに、家まで歩くのが大変だからタクシーに乗りたいということがある。
そういうちょっとした「足」に気軽に使える金額のタクシー。
安さを実現するために、タクシーは「相乗り」。
その分、顧客には不便さを少し要求する。
例えば、何人か揃うまで待って貰う。
自分の家に一直線に向かうのではなく、乗った人の家の場所に合わせて順番に移動する。
タクシーの「疲れない」という便利さを生かすために、「早い」というメリットは少し犠牲にする。
(女性で「他の人に家の場所まで知られたくないから最後に降ろして」なんてのもあるのかな)
毎回支払うのは面倒だというのなら「定期券」を発行すれば、より気軽に乗ってもらえる。
うどん定期券 / nubobo
タクシーチケットはあるが、定期を月5,000円ぐらいで購入できれば、より気軽にタクシーに乗れる。
そうして乗車率を高め、タクシーが「いつでも走り回っている」状態になれば、
街中で走っているタクシーをいつでも止めて乗れて、より気軽な足になるという好循環が起きる。
この点、「空車」「賃走」しかない現在のタクシーに比べ、
客を乗せていても新たな客を乗せられる乗り合いでこそ、定期発行のメリットがある。
本当に成り立つのか?そんな事業は必要か?
本当にそれで成り立つのか?
タクシーの平均的な一時間あたりの売り上げは約3,000円らしい。(出典は上記テレビ番組)
客単価300円なら、3,000円は「10人」。
一時間を10人で割れば、6分に一回は人を乗降させなければいけない。
う〜ん、平均でこの数字とすると、結構数をこなさないと難しいのか?
まぁ、完全定額は難しいとしても、市内のエリアを何段階かに分けて、2〜3プライスぐらいで、なるべくシンプルにすればできないものか。
このネタ、「買い物難民」対策にならないかと思っている。
お年寄りの家に買い物を届ける「ネットスーパー」や「御用聞き」ビジネスが
伸びているという話があるが、もちろんお年寄りだって出かけたいし、買い物したいだろう。
Old Woman's Walk, Plaza Corredera, Cordoba / mcohen.chromiste
そういうときの「足」だって、今後は市場が増えていくはず。
そして、お年寄りが活動的になるほど市場も活性化するし、結果的に医療費だって削減できるだろう。
「安いタクシー」は、本当は日本の将来を支える大事な事業だと思うんだが、
「過当競争だ〜」と愚痴を言っているタクシー会社の皆様に於かれましては、是非ご検討頂きたい。
50歳過ぎるまではもったいなくて歩いていた距離が、今では歩くのが辛いというお年寄りはたくさんいる。
頑張って運動がてら買い物に行こうとしていたうちの祖母を、
行きの数百mだけ送ってあげたときに、「あ、これも必要な事業だな」と結構本気で思った。
・・・というかこんなのはタクシー業界からしたらとっくに考えていたネタなのかな。
「こういう理由でそれは無理なんだ」という話は是非聞きたいところ。