ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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電子書籍VS紙

・リンク → 紙と電子書籍、同じ値段ならどっちを買う?
BLOGOSで議論への意見投稿を要望された。
こんな機能があるんだ。
Abyssinian Maroさん、ありがとうございます。
BLOGOSのコメント(最大500文字)ではとても収まらないので、この記事で私なりの電子書籍への意見とさせていただきます。


Amazonでは既に電子書籍の販売数が本の販売数を上回る時代、
電子書籍の話題をようやく日本で聞くようになった。
・リンク → 米アマゾン電子書籍売上 ハードカバーを超える:Garbagenews.com
思えばSONY電子書籍リーダーを見たのは今は無き大阪心斎橋のSONY STORE。
AIBOが隣にあった気がする・・・というと時代も伺われようという物。

まずは結論。電子書籍と本の関係

個人の感傷を抜きに、冷静にビジネスとして将来像を考えると電子書籍はかなりの紙媒体を駆逐すると思う。
紙の書籍が完全に消滅することはないが、電子書籍と本の力関係によって、本の姿も多少ならず変わるだろう。


ただ、BLOGOSの議論については「同じ値段なら」という前提条件がおかしい。
同じ価格なら感情論と技術論との戦いになるが、ビジネスなのでそこに価格競争力という軸が必須になる。
この点で圧倒的な力を持つのが電子書籍なので、「最強の武器を仕舞って一騎打ちさせる」というこの議論には
感情論以上の話が出来ないため、直接の回答は意味が無いと考えるし、控えさせて頂く。

歴史に学ぶ、2つの事例

電子書籍の話を考える際に、比較になるのは
写真から電子データ(カメラからデジカメ)への流れと、CDからMP3への流れだと思う。
カメラとデジカメの関係はそのままリアルの紙媒体と電子データの関係で、
CDとMP3は「性能がよいから生き残るわけではない」という例として参考にできる。

デジカメ全盛時代の写真

デジカメ全盛の現在、コダックの話を取り上げるまでもなく銀塩写真は衰退している。

Kodak films / boolve

では、デジカメのデータはみんなどうしているのか?
これについては例えばこんな調査があった。
・リンク → デジカメについての調査リポート−女性のあした研究所
対象が「ネットを利用する主婦」という偏った層なので、それを勘案する必要があるが、
「印刷する」という回答は50%を切っていて、そもそも印刷しない層が半数
男性のほうが印刷しないだろうから、全体としては印刷の割合は更に低いだろう。
古いデータだが、2002年の調査では、デジカメユーザーは撮像画像の8%程しか印刷していないというデータがある。
この枚数は、銀塩写真のユーザーの20%程度。
プリンタメーカーが自分たちの危機感を持って出した数字なので、結構信用して良いと思う。
・リンク → 大手カメラ・プリンタメーカー6社がデジカメの新プリント規格「DPS」を策定
当時でその数字なので、スマートフォンなどの撮影が増えている昨今では更に印刷する割合は減少しているだろう。


写真は画面で見るより発色もキレイだし、再生機器も必要ない。

Childhood pictures / martinak15

またデータと違ってデータの破損による消失の危険もない。
「場所を取る」「印刷が面倒」「コピーできない」「高い」という不便はあっても、
写真は絶対に電子データよりも性能は高い。
でも、みんな印刷しない。
上記のどのデメリットを重視するかは人によって差があるだろう。
ただ、事実として写真の印刷枚数は減少している。
それぞれのメリット・デメリットは本と電子書籍の関係とほぼ同じなので、この事実は一つの参考になる。

音質が悪いのに、聴く理由

iPodがヒットする前にも、多数のMP3プレーヤーがあった。

Transcend MP3プレーヤー T.sonic MP330 8GB TS8GMP330

Transcend MP3プレーヤー T.sonic MP330 8GB TS8GMP330

しかし、SONYなど大手はそれほど注力していなかった。
著作権の問題ではない。
CD-ROMでもMDでも、データの複製は既に可能で、レンタルCDは日本でも大きな市場があった。
MP3に注力しない理由は、既得権益の防衛」「低音質への嫌悪感」だったのではないか。


CD(WAV形式)とMP3では、MP3のほうが原理的には音質が悪い。

I love my music ! / shankar, shiv

そのため「MP3で音質が悪い物をわざわざ聞く必要はない」という意見があった。
しかし実際にiPodによりMP3が簡単に聞けるようになると、
CDやMDよりたくさんの音楽データを小さい媒体で持ち運べるMP3プレーヤーが市場を席巻した。


iPodについてはデザインやiTunesというソフト販売システムの存在などマーケティング的にも
分析するべき事がたくさんあるが、MP3形式という保存形式に論点を絞ると、乱暴だがこう言える。
「他のメリットによって、既存のスタンダードより音質の悪い形式が市場を席巻した」

本はどうなるのかあ

電子書籍を嫌う人の意見は紙の質感や「めくり」、見やすさや保存性など
「本は電子書籍より優れている」
というもの。

Spanish dictionary pages up into the air / Horia Varlan

それは事実だし、本当に良い紙の本は、永久に電子書籍に取って代わられることはない。
だが、それが電子書籍は普及しない」とイコールではない

電子書籍は普及する

電子書籍は圧倒的に低コストで、保存場所を取らないというメリットがある。
簡単な例で考えてみる。
ある商品があり、コストと品質が比例するとする。
多くの場合、そのカテゴリは「高くて高品質」「安くて簡易版」といった数種類に収斂される。
車でも、化粧品でも、なんでもいい。
枝葉を省けば、軽自動車→普通自動車→高級車という大きなカテゴリ分けができる。

ところが中程度の品質のものが圧倒的な低価格で作れるとどうなるだろう。
そのカテゴリが低価格品を駆逐するのはもちろんだが、その上位も喰ってしまう場合がある。

低価格化によりコストパフォーマンス(価格あたりの価値)の基準が破壊され、
今までと同等の価格では「高い」と消費者が感じてしまうためだ。
MP3、デジカメ、電子書籍などの「デジタル化」は正にこれにあたる。
こうなると既存品はこだわりや懐古主義、マニアといった狭いターゲットを狙う商品になり、
「良い物だから売れる」という状態にはならない。

紙の二極化

電子書籍は紙に比べて圧倒的な低価格で供給できるし、
「一冊」という単位にこだわらずに自由に分割して提供できる。
現在は紙の価格を維持するために、電子書籍も本と同じ程度の価格で販売されているが、
遠からず低価格で販売を始め、それにより本の販売数は減少していくだろう。


この時に紙の本はどうなるか。
工業製品の市場が減少すると、今までの価格が維持できなくなる。
これは生産量が減ることで、製造コストが高くなるためだ。
このため、特に売れ筋領域の価格維持が難しくなり、電子書籍との価格差がより拡大する。
こうなると本はハイエンド品か、マニア向けというニッチな生き残り策を目指さざるを得なくなる。

本が衰退するのは個人的な感情としては寂しいが、
文字通りデジタルネイティブの娘を見ていると、
「紙だから」「データだから」という観念自体が自分たちの子供の世代にはないのかなとも思う。


ところでこの「紙」についての新規事業案を、別途テキストとして作成した。
先日話題になった「Gumroad」と、その日本語クローンの「Ameroad」で実験的にアップしてみたので、
興味を持って頂いた方はダウンロード頂ければ幸い。
・リンク → Gumroad−紙媒体としての「本」の生き残り策(テキスト)
・リンク → 紙媒体としての「本」の生き残り策(テキスト)Ameroad
内容に付加価値があると言うより、実験です。
(一定金額にならないと換金できないので、実質そこまで行かないと思うし・・・)