ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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壊れる商品を企画する

買って5日で壊れる商品は不良品だが、500年持つ商品では会社が潰れる。
本当に良い物を作り続ける会社は良い会社だが、
高い成長と利益率を叩き出し、ビジネス誌から「優良企業」といわれる会社には、
上手に「壊れる仕組み」を盛り込むことで利益を増やしている例もある。

壊れる仕組み

例えば駅の改札。
昔は人が見ていた改札も、今ではほとんどが自動改札になっている。

Shinjuku Station / Dick Thomas Johnson

自動改札も、切符から電子マネーに切替が進んでいるが、
メンテナンス面から見ると、鉄道会社にとって電子マネーが圧倒的に有利になる。


切符や定期を機械的に読み込むのは技術的にはかなり面倒くさい。
切符の枚数・表裏・向きを判別し、内容を読み取りOK/NGを判定する。
こういった物を運ぶ「搬送系」は複雑で、ややこしいメンテナンスが必要になる。
駅員が自動改札機を開けて切符を取り出している様子は、誰しもが見たことがあるだろう。


ところがメーカーから見ると、こういった面倒くさいシステムは、複雑な分「おいしい」
機械部分は複雑な分、単価も高くできるし、メンテナンスで部品が必要になれば交換部品も売れる。
クリップを突っ込んで壊されたら、それはメーカー責任ではないので自動的に新品の交換部品が売れる。
最終的には電子マネーの波に押しやられるとしても、メーカーとしてはギリギリまで抵抗して
おいしい部分を残そうとするだろう。
(ただし、おいしい事業を引きずって新しい波に乗り遅れると、コダックのようになる)

Kodak Ektachrome Panther 1600 / ill_talebano

それって卑怯じゃない?

普通はこういった「壊れる仕組み」は消費者に非難され、時代の流れで淘汰されていく。
だから今更改めて言う話でもないのだけど、
圧倒的強者が、壊れる仕組みをうまく組み込むと、「買わざるを得ない状況」が作られる。
ビジネスの現場にいて、企画する側からすると「上手いなぁ」と思うんだが、
一消費者視点で考えるとさすがに卑怯じゃないか?と思う事例もある。

事例1:iPhone

ミヤビックス OverLay Brilliant for iPhone 4S / 4 高光沢液晶保護シートOBIPOHN4
有名な話だが、iPhoneは電池の交換ができない。
携帯電話の充電池は、普通に使うと寿命が一年弱。
iPhoneは、購入後一年で「買い換え」か「電池交換」が必ず発生する「時限爆弾」を内蔵した商品と言える。
もしApple「サポート時期終了のため電池交換不可」とか言えば、自動的に買い換え需要が発生する。
圧倒的なシェアと独自性を持つAppleだからこそ取れる「卑怯な戦略」と言える。


しかもこの「メーカーに送れば電池交換が出来る」にも儲ける仕組みがある。
日本の携帯電話では普通、電池は自由に取り外せるので、電池だけを購入すれば良い。
iPhoneはメーカーが電池交換するので、「修理費用」を同時に請求できるので、より利益を上乗せできる。
上手いなぁ。

事例2:多枚刃カミソリ

カミソリの刃の枚数はなぜか年々増えている。
カイレザー 5枚替刃 6Pジレット フュージョン5+1 替刃8個入
カミソリのビジネスモデルはジレットモデル」と言われていて、刃の交換需要で成り立っている。
ジレットモデルについては以前も書いた。
・リンク → 未来の消耗品ビジネス案・0:消耗品ビジネス「ジレットモデル」の復習
・リンク → 未来の消耗品ビジネス案・1:洗剤・シャンプー
・リンク → 未来の消耗品ビジネス案・2:本当のできたて料理を家庭で手軽に、を実現する
簡単に言うと、刃がどんどん刃こぼれして交換してくれる方が儲かる。
しかしメーカーとして簡単に刃こぼれする刃を作っては、競合に負けてしまう。
そこで考えた。
もしかしたら、多枚刃カミソリって、壊れるための仕組みなんじゃないだろうか。


同じ故障率(カミソリなら刃こぼれ率)の物を複数使い、
どれかが交換したら使えない場合、その部品の数が多いほど故障率は上がる。
例えば刃を一週間使って刃こぼれする確率が10%だとする。
1枚なら刃こぼれ率は10%だが、5枚刃なら約40%にまで上昇する。

故障率はかけ算で決まる。
故障率 10% → 故障しない率 90%
5つの「故障しない率」 90%^5 = 59%(故障率は 41%

刃の原価は安く、多段にしても大きくコストには響かないだろう。
つまり「刃を多くするほどいい」という主張をカミソリのメーカーが行い、多枚刃を進めるほど
交換頻度が上がり、メーカーが儲かることになるんじゃないだろうか。

別に何でも非難したい訳じゃないです

カミソリの話は仮説だが、メーカーとして「品質を向上させる(寿命を延ばす)」「利益を伸ばす」
を両立させる手法だと考えると、多枚刃は見事な解決策だと思う。
逆に消費者視点で言うと、メーカーの言っている内容が本当か見極める必要があるとも言える。
その商品・戦略が意図している物が何かを考え、それが卑怯と思えば「買わない」選択を取ることが重要。
まぁ、こんな事は今に始まった話ではないが。


卑怯かそうでないかはあくまで加減の問題になる。
儲ける手段をメーカーが考えるのは大事だし、理想を追い求めて会社を潰しても仕方ない。
その意味では付加価値の高い商品を提供できる企業が優れているのは当然の事実。
ただ昔と比べて、会社の仕組みや商品の作り方・メリットまで情報を簡単に取れる時代になっている。
フェアトレードなんて言葉が出てくる時代、
自分の納得できる商品・戦略を提供している会社・商品を選んでも良いんじゃないですか、という話。

Fair Trade / lilivanili