地に足の付いた宇宙基地・宇宙エレベーター【解決案】
真面目に宇宙開発を考えると、どうにも暗い話になってしまう。
でも宇宙に、憧れだけでなく、実利を含めて継続性のある「将来性」は無いのか?
きちんと現実へと繋がる夢を何か打ち出せないか。
そんな「夢の技術」の紹介。
この記事の前半はこちらです。
・リンク → 「宇宙、そこは最後のフロンティア」【問題提起】
宇宙エレベーターとは?
宇宙エレベーター、またの名を軌道エレベーターというアイデアがある。
「エレベーター」という名前だけど、仕組みはロープウェイと考える方が分かりやすい。
Space Elevator GEO Station / FlyingSinger
宇宙に打ち上げた基地から一本の紐を垂らす。
その紐をロープウェイのように伝って宇宙に行く。
ロケットを飛ばすより、紐を伝えば簡単に・安く宇宙に行けるんじゃないか?
というとても単純な発想。
発想はシンプルだけど、シンプルだからこそ分かりやすいし、できたら凄い。
どうやって浮いてるの?
宇宙エレベーターの主要部品はふたつ。
- 紐(テザー、という)
- 基地
基地から紐を垂らして、地上に届けばOK。
Space Elevator Indonesia at Night / FlyingSinger
じゃ、その基地はなんで落ちてこないのか?
基地は静止軌道上にいるので落ちてこない。
人工衛星や、月が落ちてこないのと同じ原理。
静止軌道はよくこう説明される。
- 「重力と遠心力の釣り合う点」
- 「落ちる速度が移動速度と一致するから、いつまで経っても地球に近づかない」
この説明で良く例に出されるのが、バケツの水。
バケツに水を入れて、手に持って手を回転させる。
回転が遅いと水が落ちてくるが、十分に回転が速いと遠心力で水が落ちてこなくなる。
centrifugal force - IMGP0415 / chez_sugi
基地もこれと同じ。という説明。
一定の速度になると遠心力で飛ばされる速度と、重力で落ちる速度が同じになる。
その状態ではずっと同じ高度を保てるので、地上から見ると高さが「静止」しているように見える。
だから「静止衛星」。
静止衛星、というと動いていないように感じるが、実際にはものすごい速さで動き続けている。
最初は大変
宇宙エレベーターで大変なのは最初に「基地からロープを垂らす」部分。
基地から普通にロープを垂らすと、ロープ分の重量が地上に落ちていくことになる。
その結果、地球に引っ張られる力が強くなる。要は「落ちる」。
「重力」と「遠心力」が釣り合わないといけないので、一方的に強くなってはいけない。
とすると、対策としては「遠心力を強くする」ことが考えられる。
遠心力を高めるため、地球と反対方向にも同じように紐(+重り)を伸ばす。
これにより重心は軌道上に置いたまま、紐を地上に降ろすことができる。
つまり人工衛星から、地球と反対方向に長い紐を伸ばしていくイメージ。
地上に下ろした紐が届いたら成功。
ただ言うのは簡単だが作るのはものすごく大変。
静止衛星軌道の高さは地上3万6000km。
つまり3万6000kmの紐を作って、空から垂らさなければいけない。
その重さも問題だが、一番の問題は強度。
紐は根本部分では3万6000km分の紐の重さを自分で支えなければいけない。
こんなとんでもない強度を持った素材は今のところ世の中に存在しない。
これが一番の問題。
例えば強い糸、としてイメージしやすい「釣り糸」で考えてみる。
Tugging Away... / Ev0luti0nary
軽くて強い糸、というと例えばザイロンがある。
ザイロン10本撚りの釣り糸の強度は231kg。
これに対してその糸の重さは10500デニール(デニールは糸9000mあたりの重さ) → 1kmあたり 0.38kg
つまりザイロンで宇宙エレベーターを作ろうとすると、
231kg/0.38≒594km
600km弱のところで切れてしまう。
目標の36000kmに対して、たった1.6%!
意外に作れば安いかも
宇宙エレベーターは「夢物語」と思われていたが、二つのニュースをきっかけに
「ここさえ出来れば実現できるんじゃないか?」
と挑戦する人を引きつけている。
強いケーブル素材の発見
CNT(カーボンナノチューブ)という素材がある。
Ice nanotube inside the carbon nanotube / vitroid
1991年に日本で発見(正確には「再発見」)された新素材だが、簡単に言うと炭素がチューブ状になった素材。
炭素というと木炭・石炭や鉛筆の黒鉛なので、原価はタダみたいなモンだが、
その炭素原子の並びがちょっと変わるだけで特性は大きく変わる。
分かりやすいところでいうと、鉛筆の芯(黒鉛)とダイヤモンドは同じ炭素。
原子の並びが変わるだけでこんなに違うモノになる。
さて、そのCNT、何が凄いかというと「軽くて強い」。
同じ重さで比較すると鉄の100倍以上。
計算すると、なんと宇宙エレベーターに必要とされる強度を持てる事が分かった!
CNTは1996年には早くも量産化、2007年には必要強度の1/3の強さを持ったものが量産されている。
もう少しだ!
ちゃんと考えた結論
宇宙エレベーターは原理が簡単なので、誰でもイメージできる。
ところがちゃんと作ろうと考えると色々な課題が出てくる。
では物理や宇宙工学をきちんと踏まえて、本当にできるのか?
実はNASAがこの件に関して研究をしている。
NASAが2000年にエドワード博士という人に依頼して調査した結果では、
「十分な軽さと強さを持つ材料が開発されれば、宇宙エレベータは建設可能である」
となった。
理論が破綻していないのなら、やればできるのかもしれない。
これも宇宙エレベーターの開発を後押しする事になった。
NASAをはじめ、世界では「宇宙エレベーター大会」という大会が開催されている。
Adrian's space elevator climber / Chris Radcliff
これは来る宇宙エレベーターの開発・実用時に向けて、紐の上り下りをするエレベーター部分の性能を競う大会。
日本ではJSEA 一般社団法人 宇宙エレベーター協会というところが主催している。
・リンク → JSEA 一般社団法人 宇宙エレベーター協会
で、おいくら?
ではその建設コストは?
一説では1兆円程度と言われる。
一兆、という数字を他と比較してみた。
適当に、実際の「物」がある物と比較するとこんな感じ。
というか瀬戸大橋高!
決して安くはないが、一兆円という数字はあながち
「手の届かない夢物語」ではないことがイメージできると思う。
というか、本州から四国に行く連絡橋と、宇宙に行く架け橋が同じ値段とは・・・
意外に近い気がしてこない?
一度作ってしまえば、その後の宇宙への輸送コストは劇的に下がる。
ロケットでは1kg100万円する物が、1kgあたり5000円〜1万円ぐらいになる。
(ファーストクラスで太平洋横断ぐらいの金額)
将来に向けた、大規模な公共投資と考えれば、決して無茶な数字ではない。
まずは知って欲しい
宇宙エレベーターや、以前に取り上げた宇宙太陽光発電。
宇宙について語ると「夢物語」と言われるがあるが、そんなことはない。
宇宙には危険もあるが、無重量空間を生かして新しい素材開発の可能性などもある。
宇宙のことを知るのはSFやアニメ、映画が最初という事が多い。
まずは技術的にも、決して夢物語でないことを知って貰いたかった。
物語の中の宇宙エレベーター
宇宙エレベーターの概念は1960年頃に発表されているらしいが、
有名になったきっかけはやはりSF小説。
「2001年宇宙の旅」の作者としても有名な アーサー・C・クラーク が作中で何度も宇宙エレベーターを扱っている。
2001 a space odyssey 1974 / oddsock
これをきっかけに宇宙エレベーターはSF好きの間では有名になった。
また、個人的にはマンガ「銃夢」も挙げておきたい。
ネタバレになるが銃夢の物語の中核をなす部分に宇宙エレベーターが出てくる。
壮大なストーリーの伏線に宇宙エレベーターを持ってくるあたりは、作品の科学オタク的な要素と相まって
見事なオチになっている。
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