ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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培養肉という新しいジャンル

今月の日経サイエンスからもう一話題。

日経サイエンス 2011年 09月号 [雑誌]

日経サイエンス 2011年 09月号 [雑誌]

幹細胞から食肉

牛や豚の細胞を培養して食用の肉を作る「培養肉」の研究があるらしい。
普通この手の話題を紹介するときには「研究が進んでいるらしい」と書くんだが、記事をまとめると
「二十年前から研究されているがどうにも進んでいない」ということらしいので、「研究があるらしい」と記載する。
「培養肉」という言葉だけ聞くとなんともキワモノな臭いがするけど、
話を聞くほど、「これって考え方としてはアリなんじゃ無いか」と思わされる。

Pork Neck and Fatty Pork / avlxyz

※写真はイメージです。念のため

培養肉は倫理的に問題が無い

クローンや遺伝子操作は科学的なリスクを現段階では100%排除できていない。
遺伝子操作された植物が、新しい毒性を持っていたり、既存種に悪い影響を与えないかはどれだけ研究しても「100%大丈夫」とは言えない
ところが培養肉は、生きている動物の細胞を貰って、それを増やしているだけ。
(人間も手術時の移植用皮膚とかはそうやって増やしている)
作るのは筋組織だけなので、それ自身が意識を持ったり・・・という生命倫理も気にしないでいいし、
化学合成のフェイク品では無いので栄養面や合成物質などの不純物の問題もない。


人口が増えている上に、生活水準も向上し、新興国の人達が一気に食肉文化にやってくる。
そうしたときに肉の供給が間に合わないだけで無く、
現段階で20%弱を占める「家畜からの温暖化ガス」が地球環境に深刻な影響を与えるのも間違いない。
そんな時に向けて、この「培養肉」が重要になる、と記事では書かれていて、とても説得力がある。

Charolais heifers at manger / JPC24

問題はやはりコスト

培養肉はまだ研究段階も良いところで、筋細胞を作る(増やす)のも、筋を大きくする(筋肉を付ける)のもまだまだこれから。
記事は「ここが分かった」という技術的な発展の紹介よりも
「何年間はここから資金を貰ったが、それも何年前に打ち切られた」というお金の話に終始している。
つまり資金援助も無く、ほとんど研究が進んでないらしい。
今の段階では、簡単な筋肉のシートを作るだけでも何十万というコストがかかってしまう。

培養肉の目指すところ

この培養肉「まずミンチから、夢はステーキ」というのが技術目標。
肉の置き換えを順に狙っていくという話。
ただ「本当の肉」と置き換わろうとすると、筋肉だけでなく血管の再現など、ぱっと考えただけでも技術課題は多い。
個人的には「培養肉」「培養肉」という新しいジャンルを目指すべきだと思う。


例えば「魚肉ソーセージ」

魚肉ソーセージは「魚肉」でも「ソーセージ」でもなく、「魚肉ソーセージ」という一ジャンルになっている。
培養肉はおそらくシートで作るのが簡単で、多層構造のステーキなどは再現が難しいし、歯ごたえは多分別物になる。
それを似せる努力も大事だが、培養肉なりの個性を生かした料理もできるんじゃ無いか。
かにまかだって「蟹じゃない!」と怒る人はいないし、フェイクはフェイクとして別の生き方もあるはず。
そうすれば市場に受け入れられやすいと思う。


実はハイレベルなフェイク、代替え品が市場にたくさんある日本の食品市場。
「アルコール、糖分、脂肪すべて0%のビール」

ってなんの「汁」だよ、って思うんだけど。
培養肉も本気でやれば日本初で面白いことになる気がする。
近大がすげぇ頑張ってくれるか、味の素とかキリンとかがやってくれないかなぁ。