ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム・3Dプリント作品・3DCG制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

ボードゲームを作る人向けの本の話

ボードゲームの裾野は広がっていますが、個人でも作れるからか、制作者の増え方も凄い勢いです。
とはいえ漫画や小説、デジタルのゲームに比べれはその数は何桁も小さく、参考になる資料は今でもほとんどありません。

 

そんなわけで個人的なゲームマーケットの楽しみ方の一つは、「ゲームの作り方」の本を探すこと。
今回購入したのはスパ帝国さんの「ルールデザインノート ゲームメカニクスの生成と分類」と、ゆおさん(こっち屋)の「正気度ヌルから始めるゲーム製作」でした。

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「ルールデザインノート ゲームメカニクスの生成と分類」(スパ帝国)

こちらはボードゲームを作ろうとしている人なら一度目を通しておいて良い本ではないでしょうか。
プレイ時間1時間を超えて、かつ将棋や囲碁のような古典的アブストラクトでないゲームを作る場合、
数字や理論をベースにした設計が必要になる、ということがよく分かる一冊です。
逆にボードゲームに詳しくない方には全く面白く無いどころか、意味が分からない一冊。
まぁ、そんな人は手にも取らないでしょう。

 

このクラスのゲームは手探りで作ると発散していつまで経っても収束しないので、ゲーム作りにも「効率」と「理論」が必要になるということでしょう。文中でも「歩留まり」が重要なキーワードになっていて、この言葉の裏にどれだけのゲーム案を検討され、捨ててきたのかが透けて見えます。

 

イデア出しには「捨て案」をたくさん出すことが大事、とは私も過去に言っていますが、この本では効果的に案を出すために、実際にマトリクスを作ってずらーっとゲームの元ネタを出していきます。
その数なんと2^6=64種類。
それらを一つ一つ確認し、既存の物やゲームとして成り立たない物を削っていきます。
そしてその中から一つを抽出し、実際にその要素での仮のゲーム案を作るという所までやっています。
これは凄い。
分析からの構築、というマーケティングの王道のような作り方です。

 

では実際にこれを元に私も作るか?というと、私は同じようにはやりません。
それはゲームのサイズや方向性が違うから。
スパ帝国さんのやり方は、特に一時間超の戦略的なゲームでは効率的でしょうが、「ペンとサイコロ」のゲームは30分~1時間を目標とし、ゲームシステムからではなく、「どんな遊び方か」からゲームに落としています。作る順序というかベクトルが正反対なんですね。
どちらが良いとか正しいではなく、コンセプトとターゲットの違いなのですが、そうした点も含めて、「なるほど、この場合はこうするのか」と私は非常に参考になりました。
「数学的に組み立てる」とは言ってもどんな順序でどんな数字をどう組み立てる、という具体的なところってなかなか出てこないんですよね。それが出ているのは貴重です。

 

なお、電子版が購入可能とのことですので、気になった方のためにリンクを紹介しておきます。

gumroad.com

 

「正気度ヌルから始めるゲーム製作」(こっち屋)

前作「正気度ゼロから始めるゲーム制作」も気になっていたのですが、話を訊くと「初めてゲームを作ろうとしている方向け」というお話だったのでこちらだけ購入。
印刷やソフトなど、基本的なところからゲームの作り方を知りたいという方は前作をどうぞ。

yuofc2.blog72.fc2.com

得意なところ、不得意なところを認識して、苦手なところは外注化する。
海外パブリッシャーとも積極的にライセンス契約して海外展開する。
この辺のやり方が全く同じなのは意外でした。
今まで何度もお話しさせて頂いていますが、スタイルが同じという印象は薄かったので。

 

ゲーム制作者的に圧巻なのは巻末の出版履歴。
「何部作って原価率何%」がいちいち細かく列挙されていて、「え、ここまでぶっちゃけます?」と素直に驚きました。
「なぜ失敗したか」を反省するのは大事ですが、それを公開しちゃいますかと。
その意味でも、一作・二作を作ってみて、「次はどうしようか」と色々考えている制作者は読むと色々勉強になると思います。
先人の失敗ほどの勉強素材は他にありません。
(一作も作ったことがないと、読んでもイメージが付かないかも)

 

どうだろーなー、年間の粗利がうちと同じぐらいじゃないかなー。

 

違うのはこっち屋さんがカードをメインにやられているのに対して、「ペンとサイコロ」はコンポーネントが多いことでしょうか。
実際、海外から声が掛かりやすいのは出版しやすいカードなんでしょうね。
分かっちゃいるんですが。
カードという限られた資源でゲームを作ると、制作者の腕がモロに出ます。
ゆおさん(こっち屋)ぐらいのセンスがあればカードで世界に勝負できるかもしれないけど、私はキツいですわ。


ゲームの作り方、また更新しましょうか

ちなみにこのブログでも、継続して流入が多いのが「ゲームの作り方」の記事。

roy.hatenablog.com


大分前の記事で、大したことも書いていないと思うんですが、それでも見に来る方が多いのは、それだけ今でも参考にできる情報が少ないという事なんでしょう。
大体、今はあの当時とは試作のやり方も全然変わっていますし。

 

久しぶりに書いてみるかと思わないでもないんですが、作る課程の資料をガンガン捨ててしまうタイプなので、なかなか出せる物が無いんですよね。
この他の書籍としてはSaashi&Saashiさんの「創造的な習慣~アナログ ゲームデザイナーはいかにしてクリエイトするのか」が第三集まで出されているので、私みたいな弱小制作者の戯れ言よりはそちらの方が余程役に立つかと思います。

note.mu

こちらはゲーム制作の理論というより考え方や文字通り「習慣」がメインかな?
いずれも2名のトップクリエイターに対してのインタビューになっており、結構なボリュームがあります。

 

私は本業のマーケター視点でボードゲームも作っているので、市場の分析やターゲットの明確化がメインで、ゲーム作りに関わる所が短くなりそう。
それでも「こんな事が知りたい」があればお気軽にコメントください。(経験上、こう書いてもコメントは付かない)

 

なんにせよ、こうした作り方や考え方の本を読むと、「制作者の数だけスタイルがある」と言って良いかと思います。
できあがった物は同じ「ボードゲーム」「カードゲーム」ですが、何を考えて、何を目指して作ったかの方向性からみんな全然違う。
この辺は二次創作や「頒布」という考え方など、ある程度のバックグラウンドを共有して始まった同人誌界隈とは違うのではないでしょうか。儲けを気にしない人もいれば、利益を出そうとする人もいて、どちらが良い・悪いではない。ゲームマーケットではR-18は禁止されていますが、二次創作もダメというわけではない。(やられている方もいらっしゃいます)

 

私の場合は「たくさんの人に遊んでもらいたい」が基本的なスタンスです。
だから「利益を出す」と「海外展開」が基本戦略になります。
利益があるから3Dプリンタやタイル抜き、イラストの外注とクオリティ向上に投資できています。
「卓上ヘボコン 対戦キット」は、数年前にはとても作れませんでした。

penanddice.webcrow.jp


このため「同人/頒布」ではなく「個人制作/販売」と言っています。
海外展開を見込んでいるので、当初から英訳(途中からは中国語訳も)を付けています。「和風」でスタートしたのも海外展開を狙っていたため。このためワードバスケットのような日本語に依存したワードゲームは今のところ作る予定はありません。(遊ぶのは大好きです)
例えば拙作「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」は、ライセンス販売のおかげで台湾内の売り上げ数が2017年だけで2,000個以上。先日のゲームマーケットでも「台湾のデザイナーだと思ってました!」と言われましたが、台湾内ではあちこちで売られているそうです。

penanddice.webcrow.jp


それだけたくさんの人に喜んでもらえているということで、今のところ狙ったとおりに進んでいるというところでしょうか。

他の方がどういう思いで、どういう所に気を遣ってゲームを作られているのか。
そういえば改めて聞いてみたいものです。