アメリカ在住の日本人からみた、アメリカ。
ドイツ出張の帰りの飛行機で、米国アトランタ在住の方の隣になったのですが、色々と興味深いお話しを伺えたのでまとめました。
その方は大学で日本語を教えているそうで、「アメリカから見た日本」と、アメリカという国について色々とお話しをしました。
お互い、9時間のフライトでヒマだったんですよ。
アトランタから見た日本
アトランタはジョージア州の州都で、アメリカの南東に位置します。
つまり東海岸。日本から見ればアメリカの逆っ側です。
アメリカほど広大だと「アメリカ」というひとくくりで考えることはなかなか難しくて、西海岸のカリフォルニアと東海岸のニューヨークでは気候どころではなく、習慣や入ってくる情報も大分違うと聞きます。
そりゃ日本の何個分も距離が離れているんだから、同じ国とは言え同じ感覚にはならないでしょう。
だから、日本から遠い東海岸のアトランタでは、日本の情報なんてそうそう入らないんじゃないか、と思っていました。
ところが日本の情報はほぼ毎日ニュースで流れていて、安倍首相がトランプの就任直後に訪米したニュースなんかはかなりの歓迎ムードを持って報道されていたそうです。
日本は経済大国ではありますが、欧米からは地理的には遠く離れていて、なかなかイメージのされにくい「極東(Far East)の島国」という印象が私にはありましたが、意外に情報は入っているようです。
この方が日本語教師ということもあってか、周囲も日本に好意的な方が多いそうですが、問題だなぁと思ったのはその印象で、「ゲームや漫画、アニメがとても優れている国と認識されているので、日本でそういう仕事がしたいという人もよく教室に来ます」とのこと。
いや、これ自体は悪いことじゃないんですが、ここに自動車もエレクトロニクスも全然出てこないんです。
この日、話をしていてこれらの話題が全く出なかったことは、危機感を感じました。
昔の日本のイメージと言えばソニーとパナソニックでしたし、今でもトヨタはアメリカで十分ビッグブランドとして活躍しているハズです。
それがまったく印象に残っていない。
日本の製造業はまだまだ規模としては大きいですが、先を考えればかなり抜本的な改革を行っていかないと厳しいでしょうね。それは「働き方改革」に始まる中の改革もですし、売り方といった外への改革も必須だと思います。
日本語を学びたいアメリカ人
大学の日本語教室はとても人気で、早く申し込みをしないと取れないほどだそう。
それもあって、日本語を学びに来る人達はみんな真面目だと仰っていました。
授業で使われているテストを見せて貰いましたが、選択肢から漢字を選んで、それを書くなど、なかなか難しい内容。
「みんな真面目なんですね。大学の時の語学は単位のためでしたけど・・・」
と言ったら、
「あ、そういう人はスペイン語を取るんで」
とのこと。まぁ、この辺の取りやすい単位の話はどこの国にもあるようです。
その方が悩んでいたのは、授業で使うツールについて。
実力主義のアメリカらしく、授業も人気のある、しっかりした物でないと評価が下がるそうです。
「例えばフランス語の先生は唄ってるらしいです」
なるほど。唄って成績が上がるのかは分かりませんが。
「今度、和歌を作らせてみようかと思っているんです」と仰っていたので、それならと「遊んで勉強にもなるツール」ということでゲームをいくつか紹介しました。
「ワードバスケット」
「ミソヒトサジ」nabelab00.thebase.in
紹介したのはこの三つ。
個人制作ゲームでは他にもいくつか思いつきはしましたが、購入を考えると流通に乗っている物、通販サイトがあるもので無ければ厳しいかと思い、このチョイスにしました。
個人的には「漢コレ!」とか大好きなんですけどね。
あれ、もう売ってないですよね?
私は海外での販売を考えて、言語依存の大きい、いわゆる「ワード系」と言われるようなゲームは作らないようにしているのですが、今回は逆に日本語に依存したゲームだからこそ、海外で使いたいというお話しです。
何事にも色々な側面があるんだなと感じるエピソードでした。
アメリカでのボードゲームと市場性
過去にアメリカに行った際、アメリカ人にボードゲームの話を振っても誰も知らなかったのですが、この方もやはり全然ご存じありませんでした。
やっぱり米国でのボードゲーム市場はものすごく小さそうです。
あ、でも遊戯王とポケモンカードゲームはご存じでした。向こうの現地の子に「日本に行くなら買ってきて!」とお願いされたことがあるそう。
ではBGGに登録するのは意味が無いのか?
KickSterterに出すのは将来性がないのか?
これについては面白い言葉を頂きました。
「アメリカは国じゃなくて、市場です」
アメリカという国の市場規模が小さくても、ボードゲームを、例えばKickSterterで出す事にはもの凄く意味がありますよ、とのこと。
これ自体は私も同意見だったのですが、住んでいる方からすれば、なるほどと思うバックグラウンドがありました。
アメリカには金持ちがいる
KickSterterはアメリカ発祥ですし、高額な案件もたくさん成功しています。
そこには「アメリカの寄付文化が大きい」という意見を多数見かけますが、アメリカに住んでいての意見としては、その「文化」の意味がちょっと違うそうです。
「アメリカには、凄い金持ちも、凄い貧乏な人もいます。日本に住んでいたら想像もできないぐらいの。そういう人が、税金対策で寄付をするんです。KickSterterもその一つで、支援だけでなく、自分の税金対策でもあります」
なるほど。でも、ボードゲームはさすがに趣味だから、寄付にはならないんじゃないでしょうか。
「『悪い税理士』なら、どんなお金でも寄付にしてしまいます。お金持ちならそういう税理士とも繋がりがあるから、実際の所、こじつけさえ出来るならなんでも寄付になるんです」
つまり文化というより、大金持ちがいるという国の性質と、税法が寄付を促進しているとのこと。
私もクラウドファンディングを二回実施して分かりましたが、クラウドファンディングの寄付総額を上げるのは人数だけでは難しく、大口の寄付があるかどうかが決めると言っても間違いではありません。
そうした大口の寄付をポンと行う大金持ちの存在が、寄付文化を下支えしているということだそうです。
アメリカに出せば世界に届く
これはイギリス人のJon Power始め複数の人にも言われましたが、アメリカのサイトで紹介するということは、イコール世界に紹介される、ということです。
実際にBGGへは世界中の人が書き込んでいますし、KickSterterに出資した日本の方もたくさんいるかと思います。
日本のクラウドファンディングでは基本的にそのターゲットは日本人だけ。
この時点で規模が何十倍も違ってしまいます。
ターゲットとする数が多ければどこかでバズる可能性もあり、最終的なヒットの可能性はより高くなります。
つまり、アメリカへの紹介はアメリカ単独ではなく、アメリカをスタートとした市場として捉えるべき、というのがこの方の意見です。
ビザより簡単?な永住権
ところでKickSterterへの登録には米国住所が必要です。
「IKI」や「YOKOHAMA」がKickSterterで大成功されましたが、
Logy GamesさんもKickSterterを常連のように利用されてゲームを作られています。
しかし、KickSterterは米国在住じゃないと、プロジェクトは実施出来ないんですよね。
これで諦めていたんですが、「永住権取っちゃえば?」と言われたのにはビックリしました。
アメリカは技術のある人には永住権を積極的に認めていて、例えば「寿司職人」とかなら永住権が取れるそうです。なにもオリンピック選手や研究職員じゃなくてもいいんですね。
だから、永住権を取って、年に一回アメリカに行けば、おそらくプロジェクトを実施出来るだろうとのこと。(居住証明のため、一年間アメリカに足を踏み入れない場合、永住権は消滅する)難易度だけで言えば、下手すれば就労ビザより簡単かも、というお話しです。
問題は、その取得のためには弁護士費用やらなにやら含めて「100万円ぐらい必要かなぁ」いや~、それ普通にペイしませんわ。
とはいえ、そんな選択肢もあるよ、という意見はなかなか新鮮でした。
つうかLogy Gamesさん、サンディエゴ在住ってなってるけど、やっぱり向こうにスタッフがいらっしゃるって事なんだろうなぁ。
40個もゲームを作られている先人とは桁が違いますが、色々な選択肢を知識として持っておくことは損ではありません。色々と勉強になるお話しでした。
日本は国ですが、アメリカは国であり市場(あるいは世界市場への窓)である。
そう考えると多少無理してでもアメリカ市場に乗り込みたいという意見に正当性があると私も認識するようになりました。
ボードゲームという市場では流通コストが高すぎてなかなか難しいのですが、アメリカに代理店を建てて、日本の個人制作ゲームを次々KickSterterのプロジェクトに出したりBGG Storeに送ったりするのって仕事になるんじゃないかな、とも思いました。
誰か、そんな仕事やってくれませんかね?(丸投げ)
※ちなみに私はBGG Storeで一度だけ販売をお願いしましたが、輸送費で利益が消し飛んだため、それ以降お願いしていません。やっぱりボードゲームの流通はコストが厳しすぎる。