ゲーム作りの中の「ちゃぶ台返し」(新作ゲームの作り方分析)
自分の場合、ゲームを作る時には何らかの「テーマ」があります。
「テーマ」というと世界観とかストーリーとかそんなイメージがありますが、
私の場合はどちらかというとゲームシステムに寄ったもの。
作っているのがテレビゲームではなくアナログゲームで、
このデジタル全盛の時代にわざわざ紙でゲームを作るわけです。
だからこそ、「アナログだからこそ楽しいもの」と考えています。
過去の作品でいえば、
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」のテーマは「テーブルからはみ出さんばかりに鳥が増えていく恐怖」。
「陰陽賽」はシンプルに「ダイスゲーム」、
「コロポックル 見~つけた!」は「子供が楽しいゲーム」、
「かいちん」は「隠れて進む」。
こうしたテーマを下敷きに、それを最大限に生かすゲームを順に考えました。
理論と感性
ゲームを作るには確率計算を主として、計算などの数学が大事です。
しかしそうした計算をしっかり当てはめたゲームを作ると、これがまぁ、面白くないわけです。
理詰めでまずはしっかり作り、不要なものをそぎ落としてから、今度は、そのできあがったバランスをギリギリまで崩す。
「マリオの生みの親」こと任天堂の宮本茂さんの言葉を借りると「ちゃぶ台返し」ですね。
私の場合はそうしたゲームの作り方が多いです。
ゲームをそぎ落として作ることで、ゲームはシンプルになり、分かりやすいものになります。
しかしそれでは単調になるので、派手な動きを設けてメリハリを与えるわけです。
これが逆ならバラバラのものに無理矢理バランスを当てはめることになるので、ちぐはぐでわかりにくい上に面白みがない、という微妙な物になるでしょう。
新作「百怪夜行」を制作しています
ということで現在制作中の新作について。
今回はゲームを作る前にイラストを制作頂ける方との調整ができていました。
ということでテーマは
- この人に妖怪を描いて欲しい
- 妖怪を描いてもらうなら、それがたくさん見えるゲーム
という二点。
最初はトランプ占いのようにカードをたくさん並べて、それを取っていくゲームを作りました。
試作品によるテストプレイ風景
しかし「最初から見えているカードを取ってもドキドキ感がない」ということで没。
見えているカードはごく少数にして、手札で徐々に役を作るゲームにしました。
改良した試作品のテスト写真
これなら役を公開するところでズラッとカードが並ぶので、見せる快感が生まれます。
こうしてカードを取って上がるという、スピード勝負のゲームができました。
「絵を見せる」が目的ならこれでも十分なのですが、「何か足りない」と思いつつ、ゲーム会でテストさせて頂いたところ、実際には思った以上にプレイ時間が短いことがわかりました。
「こ れ だ !」
私のようにシンプルなルールに後から変更を加える場合は、「どこ」を変更するかが重要です。
遊んでいる人が最も不満を持つ部分を見極めるわけです。
「陰陽賽」「かいちん」では「ゲーム中一回だけ使える『必殺技』」を追加して調整しました。これは「終盤にどうしようもなくなる」という不満への対処です。
コツコツと、ガチガチに組み立てるゲームであればあるほど、後半の逆転は難しくなります。
とはいえ一発逆転が簡単にできてしまうとゲームのバランスが崩れる。
このバランスを「一回だけの必殺技」で調整したわけです。
使用タイミングに制限はないので序盤に使っても良いのですが、ルール上最初に使うと損なので、必然的に終盤に必殺技が入り乱れる乱打戦になります。
ゲーム時間が短いなら、何度もやればいい
今回はゲーム時間が短いので、「何回も遊ぶ」をルールに組み込むことにしました。
そして勝利条件を、「勝ち」「負け」から、「勝ち点」に変更しました。
つまり「安い手で何回も上がる」と「高い手で一発逆転」をプレイヤーの選択肢として選べるように追加したわけです。
このような「勝利条件を複数用意する」はゲーム設計でよく使われる手法です。
同じ目的(例えば勝ち点)の稼ぎ方をいくつか用意する手法と、全く違う勝利条件を用意して、「いずれかを達成すれば勝利」という方法があります。
今回の改善では前者を採用しました。
後者の事例では「世界の七不思議:デュエル(7 Wonder Duel)」などがあります。
このゲームでは点数を稼ぐ他に、軍事勝利するとその時点でゲームを終了できます。点数そっちのけで軍事強化が、戦術としてあり得る訳です。
また、ゲーム時間を短くするのはギャンブルゲームではよく使われる手法です。
ギャンブルは性質上、運の要素が強くなければいけません。
(「強い人が勝つ」ではギャンブルにならない)
しかし確率計算や掛け金の調整、ブラフなどで、何度も繰り返すと強い弱いが出ます。
このため短時間のプレイを何度も繰り返すようになっており、またその勝ち点には大きなバラツキが付くようになっています。
麻雀の役も同じように大きな強弱がありますが、同じ手法のゲームとしては麻雀は例外的に1ゲームが長いです。
私のゲームの作り方
私の作るゲームはボードゲームの中ではシンプルな部類に入るかと思います。
手番でできることはせいぜい2~3種類、1ラウンドは10~15分、数ラウンドを行ってもかかる時間は30~45分程度です。
もっと複雑なゲームや、逆にアイデア勝負の大喜利系と言われるゲームでは、ゲームの作り方も、バランスの調整方法も全く変わってくることでしょう。
狭いボードゲームの業界でも、そのスタイルや遊び方、目指す方向性や様々です
私の場合はこの「ゲームバランスを崩す調整」があるとゲームはほぼ完成、という自分なりの作り方がようやく見えてきました。
自分のなかでは、ゲームを作る楽しさは、この考える部分にあります。
- テーマを決めてネタを出す
- そのネタをコツコツと組み上げる
- 組み上げた物を崩しつつ調整する
それぞれに何とも言えないカタルシスがあります。
そしてゲームを作り上げてリリースすれば、(うまくいけば)それを楽しんで頂くこともできます。
それに至る苦労を考えれば、決してお勧めできる趣味ではありませんが、ゲーム作りの楽しさを知っていただければと思い、記事にまとめてみました。
さて、そんな新作「百怪夜行(ひゃっけやぎょう)」ですが、近々詳細をお伝えできるかと思います。
その節には皆様よろしくお願いいたします。