ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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父に我が家を破壊された顛末記

隣家に住んでいる父に、我が家の外壁を破壊されました。
こんな感じ。

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あと樋も。

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と言っても、ハンマーを持った父が我が家に殴りかかったわけではなく、
裏山の木が大きくなりすぎて危ない危ないと言っていたら、
木に登って自ら切ったはいいものの、倒れる方向を制御しきれずに重さ数百キロの木がベランダに当たった、というのが事の顛末。
まぁ、父親にも怪我が無く、この程度の被害で済んで本当に良かったという感じ。

ちなみに切った木はこんな感じ。重量は分からないけど300kgは軽く超えるはず。

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裏山は私有地ですが、地権者も手を入れるつもりが無く荒れ放題。
アクセスが悪く大きな重機が入れられないし、周囲は家に囲まれていて難易後が高く、
業者の見積もりは一本50万円。

そりゃ払えないわと諦めていましたが、木は当然生長する。

地権者には「勝手に入って木を切っても良い」と許可をもらい、枝打ち(それでも何十キロ)はしていましたが、いい加減なんとかしようと父親ががんばった結果が、これ。

木を切るという「仕事」

木を切るといってもロープをあちこちに張り、切るまでの準備で四時間かかったそう。
いくら元気とはいえ、いままで事務仕事何十年の人間が定年後によくやるわ。
高所作業はやめてくれと母親共々辞めるよう説得していましたが、話を聞いているうちに、ちょっと違うことが分かってきました。

 

最初はその「50万がもったいない」という動機に対して、
「50万だろうが100万だろうが、命の方が大事だろう」
と話をしていましたが、
実際に家に被害が出たのは使ったロープが切れたためで、登る準備やロープ掛けはきちんとできていました。(最後に手伝ったのでいろいろ見させてもらった)

そこで、「それにしてもよくこれだけ出来たね」とねぎらったところ、
YouTubeで木の登り方の動画を調べるといろいろな方法がある。簡単な道具でヒョイヒョイ登る動画があるが、やってみると腕の筋力に頼る方法で、若くないと出来ない」
「木を切る中でロープの結び方はずいぶん詳しくなった」
カラビナ、なんて名前も知らなかったが、ピンからキリまでいろいろある。『登山用』とうたっているものでも、体重を掛けたら歪むようなものもあった」
「最初はバイク用のヘルメットを使っていたが、心配した母親が軽いヘルメットを買ってくれた」
最高血圧が20も下がって健康になった(140→120)」
と熱く語ること語ること。

 

私は嫁に「ファザコン」と言われるぐらい父親とよく話をしますが、多いのはビジネスの話。
海外工場を切り盛りしていただけあって生産や原価の話はお互い大好きです。
でも、父親はずっと趣味らしい趣味がありませんでした。
海外赴任中はよくゴルフをしていましたが、あれも趣味と言うより
「それしかやることがないから」
という側面が強く、日本に戻ってきてからはやっていません。(時代もあるんでしょうが、「酒・ゴルフ・女」ぐらいしか選択肢がなかった感じ)

Golf / guidancefs


退職後は「趣味を見つけなければ」と書道や絵画にも挑戦しましたがこれも続かず。
今はNPOで企業支援をしていますが、やっていることは仕事と変わりません。
人のことを言えた義理ではありませんが、この人は本当に働くのが好きなんだなと思っていました。

 

その父親が熱く語っている。ああ、そうか。

「お父さん、もう木を無理に切らなくてもいいから、木登りという趣味ができて良かったね」
そこでの両親の、一瞬の理解できない顔はなかなかの物でした。
「趣味?」
父親は木登りやロープ張りというスキルを高める事が楽しくなっているわけです。

私はそれを「趣味」と表現しました。

ただ、父親は「木登り」「ロープがけ」「木こり」は趣味ではないと思っていたから、今まで専用の装備をなるべく買わず、「あるものでちょっとやっているだけだから」「必要だからやっているから」というスタンスを守っていました。

父親なりの言い訳だったわけです。

 

木を切るという「趣味」 

我が家は引っ越し回数が軽く二桁を超える転勤族で、海外にも長く暮らしていました。

その意味ではいろいろな人の生活スタイルや民族風習にも触れてきたほうだと思います。
そして母親は昔から移り気で、裁縫・お茶・琴・グルーガンでの小物の数々・いくつかのおかんアートと趣味にはいろいろ手を出してきました。
それでも「木登りという趣味」に気づけなかった・
これが自分にはむしろ意外でした。

六十の手習いではありますが、父親が楽しんでいるのなら、これからはしっかりと装備を揃えて楽しんでもらえればいいと思います。

不謹慎で誤解を招きかねない言い方をしますが、父親が「木を切らなければ」という義務感で木を切っていて木から落ちて亡くなったらやりきれませんが、趣味で木に登っていて亡くなるなら、ある意味本望なんじゃないかと。そう思うぐらい父親の木登りに対する捉え方が変わりました。

それって登山と同じだと思うんです。

大台ヶ原山 / arataman

登山やダイビングが趣味の方は、多かれ少なかれ趣味に命を預けている、と思います。

その可能性を最低限にするべく準備して、訓練して趣味に向かいますが、その結果亡くなってもその方にとってはそれは本望なのじゃないかと。(そういえば山歩きも「八十八カ所巡り」とか「言い訳」がありますね)

 

妻が私をファザコンだというのを否定するつもりはありません。

父親が趣味を見つけて楽しんでいるのなら、息子として温かく見守りたいと考えています。

私の「ボードゲーム製作」もとことんマイナーな趣味ですが、私や父親のようなマイナーな趣味が否定されることなく、言い訳不要で各人が楽しめる世の中ならいいなと思います。