イカと林檎
「Splatoon(スプラトゥーン)」が話題です。
当たり前のように書きましたが、任天堂の据え置きゲーム機、Wii Uの新作ゲームです。
「据え置きゲームは死んだ」と散々言われていた中での、任天堂の新作が世界を席巻する。
素晴らしいし、凄い。
私はまだWii Uも買えていませんが、今までテレビゲームを話題にも挙げなかった人たちが突然「スプラトゥーン」とか「イカ」とか言い始めるのを見ると、なぜか以前の光景を思い出しました。
それは「iPhone」の発売前後。
Steve Jobs Speaks At WWDC07 / acaben
スティーブ・ジョブズによるiPod、iPhone発売による復活劇は見事でした。
あのあと日本では「なぜ日本でAppleが、Jobsが生まれないのか」的な記事が面白いように濫造されました。(下の本は伝記マンガ)
いや、過去形じゃないな。いまでも書かれまくってますね。
iPodは何が凄い、iPhoneは何が凄い。
個別の話を挙げるとキリがありませんが、JobsのiPhoneは何が凄かったのか。
「電話ができる」「アプリが使える」「タッチパネル」「高画素カメラ搭載」等々
プレゼンを見ると高機能・高性能に見えますし、実際その時点での最新の部品や技術を使っています。
ではそのスペックは他社が追従できないのか?
そんなことはありません。
当時でも「カメラはうちの方が高精度だ」「アプリはこれだけ用意している」「電話の音声はこっちの方がクリアだ」等々、いくらでも反論がありました。
でも、Appleが売れた。
私はアンチApple派ですが、妻はiPhone派(Apple信者ではない)なので、iPhoneもAndroidも使ったことがあります。
そこで感じるのは、Appleの「気持ちよさ」です。
非常に細かいところのレスポンスが、しっくり来る。
今ではAndroidも遜色なく使えるようになった感がありますが、当時はその差がすごく大きかったと記憶しています。押して何秒で動きがどうなる、スワイプしたときのレスポンスはこう、震えるタイミングで動作が分かる。
そうした細かいところの完成度、アプリの安定性やレスポンス。
「デジタル機器がここまで直感的になる」
そうした徹底的なこだわりと、突き詰めたチューニングがAppleの、というかSteve Jobsという人の凄さだったのでしょう。
任天堂の例のイカ
翻って任天堂。
公開された「社長が訊く(開発秘話)」では初期からの苦悩、デザインの変遷が語られています。
スプラトゥーンが話題になったのは、「面白そう」は言わずもがな、「音楽もいい」「気持ちいい」「可愛い」とゲーム性以外の声も聞かれます。
ゲーム発売に触発されて「XXで再現してみた」というゲームや動画も作られているあたり、そのインパクトが伺えます。
逆に言えば、基本的なアイデアは、技術があれば数日でできるようなものです。
では、何が凄いのか。
初期のデザインでは「豆腐」、その後は「イカ人間」ですが、この辺のデザインではここまで話題にならなかったでしょう。(リンク先に初期デザインがあります)
いくら任天堂の新規タイトルで、ゲームが面白くても。
社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』|Wii U|Nintendo
やはりここは、細かいところまで張り巡らされた「完成度」が大事なのでしょう。
プレイヤーのデザイン、ゲームのチューニング、ステージのデザイン・作り込み。
プレイしていなくても、動画を見れば「インクを塗っている」という「実感」が得られるぐらい、インクのハネなど直感的なゲームデザインにこだわったことが感じられます。
(たとえばインクの撥ね方一つ取っても、「リアルな」撥ね方というより、アニメ的で「直感的」であることの方に重心が置かれているとか)
大人の本気
iPhoneとスプラトゥーン、自分には非常に似た匂いがします。
アイデア自体よりも、おそらくはそれに触れた人に完成度で感動を生む商品。
逆に言えば細かなチューニングや完成度に価値を感じない人を「アンチ」にしやすい特性も似ていると思います。
そしてこの二社、どちらも製品数が少ないメーカでもあります。
Appleは言わずもがな。
Apple Inc Logo / DigitalRalph
任天堂も「新作に関しては14年ぶり」と言っています。
もちろん毎年タイトルは出していますが、他社に比べれば、「家庭用ゲーム」に特化し、ソフト製作本数は少ないでしょう。
大手なのに商品数が少ない。
それはつまり、リソースを一つの製品に対して大量につぎ込めるということです。
そんな「大人の本気」が、十分なチューニングをかけた完成度の高い製品を生み、ユーザはスペックよりも「体験」にお金を払う格好になる。
こんなメーカは他にもいくつか思いつきます。
掃除機ならダイソン、センサならキーエンス。
どちらも同業他社に比べて「商品数が少ない」「高価格・高付加価値」という戦略も同じです。(というか戦略としてそうならざるを得ない)
このスタイルは軌道に乗れば強いのですが、一本足打法のリスクも常に負っています。
実際、Appleも任天堂も過去に大きく凹んだ経験があります。
もちろん新規市場を開拓するのもアリです。
「GoPro」はこの典型でしょう。
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ただこうした過去の経緯を思い出す限り、任天堂のこの先数年の急回復は間違いないと勝手に想像しています。
第二のApple、第二の任天堂
経済誌では夏頃に任天堂記事が踊り、年末には「ヒット商品」としてスプラトゥーンが取り上げられ、その前後には「第二の任天堂はどこか?」といった記事が組まれるでしょう。
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しかしこうした「感性」にまで訴えるヒット商品には、それを支える巨大な資本が必要です。
任天堂も「ファミリーコンピュータ」まで大小様々なヒットと、失敗を繰り返しました。
「Enchant moon」には期待しましたが、最近はとんと話を聞きません。
キングジムの「ポメラ」などのデジタルガジェットは大好きですが、あれも少人数・短期間の開発を重視していますし、なによりキングジムは安価・大量・他品種の会社なのであれ以上のインパクトを世に与えるのは難しいでしょう。
では今ある大きな会社で、そういった可能性のある会社は?
例えば三洋電機が松下電器に吸収された際に切り出された「株式会社ザクティ」。
独自形状で高い人気を誇った「Xacti」は生産中止になり、今では自社商品を持たず、受託開発の専門会社になっています。
「いつかビデオカメラで見返してやる」という思いはどこよりも強いのではないでしょうか。
GoProを各社が追いかける中、全社の力を結集して面白い物を作れば、と考えています。
あとは「JINS」。眼鏡屋はどこも次を探していますが、元々がデザイン重視な会社なところに、「ガジェット」という新風を吹き込んだあたりに注目。ただ低価格路線から大きな業態の変更ができるかは疑問、という感じ。
直感的PV!
「直感的」「気持ちいい」といえば、安室奈美恵の新曲PVも凄い。
安室奈美恵 / 「Golden Touch」 (from New Album「_genic ...
「画面の真ん中に指を置いたままで見て下さい」という一曲。
本当、騙されたと思って、指を置いて見ましょう。マジで。
「分かってるけど、気持ちいい」ってのはこういうことなんだなという、教科書のような一曲。
安室奈美恵という歌手を知らないうちの娘(小二)が、喜んでリピートしてますから。
それにしても「京都の花札会社」から「世界のゲーム会社」になった任天堂は、改めて考えても本当に凄い。
あと、はやくWii U買ってスプラトゥーンしたい。