ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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市場拡大時に必要な企業

この本を読んだ。 

ボクシングはなぜ合法化されたのか―英国スポーツの近代史

ボクシングはなぜ合法化されたのか―英国スポーツの近代史

 

一歩間違わなくても人が死ぬ、ボクシングという「野蛮」なスポーツが、現代においても何故スポーツとして認められているのか。

主題は刑法とスポーツの関わりだが、その中で「賭博とスポーツ」の視点が面白かった。

古き良き時代が過ぎ、闘鶏や牛追いが「野蛮だ」「治安を乱す」と衰退したが、クリケットや競馬は生き残り、今日に至る。

117th Hurlingham Club Open Championship, Argentina / 117° Abierto de Hurlingham YPF / Σταύρος

では、生き残ったスポーツと、それ以外の違いは?

細かい話も面白いので、詳細は本書を確認頂きたいが、「上位団体があるか」は大事な要素らしい。

近代スポーツの基準とは何か?それは以下のようなものとまとめられている。

  • 社会文化:ルールの緻密化と統括組織の存在
  • 技術文化:施設用具の厳格な標準化(規格化)
  • 精神文化:アマチュアリズムに始まり記録の追求へと至る観念

しかし、実際にこの「近代化」を推進したのは「賭け事」というのが面白い。

実際の規格化の例

例えば闘鶏。

cockfight / vijay_chennupati

  • 鶏の体重を計測して、ほぼ同じ体重同士を戦わせる
  • くちばしにはやすりを掛けて潰す
  • 翼と羽は短く刈り揃える
  • 蹴爪には銀又は鉄の爪を付ける
  • 開始時の規定位置への置き方
  • 審判の任命方法

こういうルールが一つ一つ、決められていたらしい。

たとえばサッカーも、元は収穫祭のお祭り騒ぎの一つだったのだから
ルールも「大通りをみんなで押し合いへし合いしてボールを運び、どっちかに持って行けば勝ち」というおおざっぱなものだった。(下写真。今でもお祭りとして毎年行われている)

The Royal Shrovetide Football at Ashbourne / ninjawil

The Royal Shrovetide Football at Ashbourne / ninjawil

それが賭けになると話が変わってくる。
双方同じ人数、同じ大きさのコートで、同じ大きさのゴールに入れる。
そういう決まり事で公平性を保たないと、賭けが成立しなくなる。
そうしてルールが決まっていった、という流れらしい。
なるほど納得感がある。

Mexico - South Africa Match at Soccer City / Celso Flores

 

金の流れが人の流れを作る

面白いのはそうしたルールの公平化・透明化がゲームの普及に繋がり、金の流れを良くしたということ。
ジェントルマンは良い選手に高い給金を払うが、あるラインから賭け主より「胴元」としての性格も出てくる。
戦うためのホールを作り、宿泊施設を建てて、パブを作る。
イギリスが世界に名だたる球技大国だったのは、ジェントルマンによる「組織化された賭け」が一番発達したから、ということか。

Cock Fighting in 18th century Bristol by John Latimer / brizzle born and bred

 

技術の普及、産業の発展には、沢山の人が関わることが必要で、そのためにはそれを支えるお金が必要になる。

日本では茶道・華道の家元制度がそうだろうし、相撲も興行としてこれだけ成功しなければこれほど長く存続していないのは間違いない。

大阪相撲_20 / variationblogr

逆に、それに従っていない例は日本で言えば「同人」という創作形態だろう。
(もちろん世界にも同様の仕組みはある)
ごく一部のプロ化した人を除き、趣味で制作する、ほとんどの人は赤字だ。(「ペンとサイコロ」も、現時点で二桁万円の赤字です)

そうした創作活動は自由な分、足腰は弱い。
コミックマーケットは長く拡大を続けているが、それだって大きな災害が起これば、あるいは行政が中止を勧告すれば終わってしまいかねないものだ。
創作のレベルも個人でできる手軽さはあるが、個人が片手間でできるレベルでは掛けられる時間にも、裾野の広がりにも限界がある。

東京ビックサイト / goldbook_kanamoto

 

市場の拡大と、やってくるバブル

ドイツのボードゲーム市場は500~600億円ぐらいかな、今だと。

そこには「ボードゲーム大賞」による業界振興など、色々な要因があるだろう。

日本のボドゲ市場はどう見積もっても10億以下。6億ぐらいじゃないかな。

そうなると市場拡大のために「いいゲームを作る」以前に「知って貰う」ことが重要だ。テレビへの露出、作品とのコラボ、大会。

 (「宝石の国」最新刊の特装版は「ラブレター」アレンジ版が付いている)

そうしてどれも進んでいる。

この先ボドゲ市場の拡大は、ある程度は進むだろう。

では市場の拡大がうまく行けばどうなるか。その次に「質」の問題が来る。

市場が拡大すると、質の悪いゲームでも売れる「バブル」が起こる。それをいかに食い止め、質のいいものを供給するか。

アタリはそれに失敗してクソゲーを量産し、アタリショックを起こした。(写真は文字通り「発掘」されたアタリのクソゲーE.T.」)

Atari E.T. Dig: Alamogordo, New Mexico / taylorhatmaker

任天堂は厳しいライセンス管理で質を保ち、成功した。

雨の日はファミコンで遊べる / monoprixgourmet_bis

同人の自由な発想は、逆に言えば「石の多い玉石混淆」だ。

ボドゲの質を保つには、どうしたらいいか。それが企業の役割だろう。

「この企業が出しているなら安心」という看板を背負える企業が、日本に必要なんだと思う。

今の日本のボードゲーム会社は市場が小ささから、そこまでの体力は無いし、逆におもちゃ大手は同人との接点がない。

市場が拡大したときに、その地位にどの会社が飛び込めるか。

自分がおもちゃ会社の大手だったら、今から同人に声を掛ける。リスクは少ない上、将来的なメリットも大きいからだ。

おもちゃ会社の方、今がお買い得ですよ。