100円ドーナツと言えば、あの会社。
久しぶりのビジネスネタです。
セブンイレブンがドーナツを発売しました。
店頭に並ぶのを見ましたが、個人的にはこの新商品は「悪手」だと思っています。今日はその理由について。
ドーナツと言えば、「ミスタードーナツ」が有名です。
Donuts in showcase / Masanori Shimojo
日本最大のドーナツのお店。(飲茶やってたり「専門店」ではありませんが)
親会社は何故か株式会社ダスキン。
個人的には大好きですが、定価販売している期間の方が少ないんじゃないかという
「100円セール」連発企業でもあります。
ミスタードーナツ・練馬ショップ / nakanishiakihito
その頻度は「月二回」「下手すりゃずっと」だそうです。(2012年)今はどうなんでしょうね。
ミスドの100円セールをしょっちゅう見かけますが、どのくらいの頻度でや... - Yahoo!知恵袋
それに対抗するようなセブンイレブンのドーナツ。
明らかにミスタードーナツを彷彿とさせるラインナップでも話題となりました。
売れるのか?
まず売れるかどうか。そりゃそれなりには売れると思います。
コンビニでレジ周辺に置いているのは「ついで買い」の一品が主。
北海道のセイコーマートのお弁当やミニストップのパフェ等は明確に違いますが、今回は置いておきます。
白桃ピーチパフェ ミニストップ(¥298) / kawanet
今回セブンイレブンがドーナツを出したのは、「コーヒー」の成功を踏まえての事でしょう。大ヒットになったコーヒーは、あっという間に各コンビニを巻き込んだ巨大市場に成長しました。となればコーヒーの「ついで」商品で単価アップを狙うのは自然な戦略です。
プラスになるか?
ただ、これが店舗の利益に繋がるかは疑問です。
<1>店内競合品の存在
「コーヒーのついで」という視点で考ると、すでにお店にはパンやサンドイッチ、軽食がいくらでもあります。
しかも単価は同等以上。
「パンを買おうと思ったけど、ドーナツもありかな」
とドーナツを買った場合、そのパンの売上が無くなるわけです。
そうなると店舗利益は変わらないか、むしろ低下するでしょう。
<2>オペレーションの低下
セブンイレブンのコーヒーの素晴らしい所は「セルフサービス」です。
店員が行うことは紙コップを渡すぐらい。ほとんど時間は取られません。
日本のコンビニ店員はただでさえ多忙です。
レジ打ち・商品補充・清掃・在庫管理・宅配サービス・公共料金振り込み等々。
そういや大学の頃、コンビニでバイトしたなぁ・・・
加えてレジ内の商品も饅頭・おでん・揚げ物・タバコと多岐に渡ります。
ドーナツの問題点は、什器がレジのスペースを取ることと、商品の取り出しに手を取られることです。総菜棚からパンやサンドイッチを取ってきて貰う限りは店員の手を取りません。
つまりドーナツは、パンやサンドイッチよりも明らかに「手間の掛かる商品」です。
コンビニの場合、手が取られるとそれがそのまま売上の低下に繋がります。
手が足りずにレジに人が並ぶと、それを嫌って買わない人が出るなど機会損失に繋がるためです。
素人がパッと思いつくだけでもこんなデメリットがあります。少なくとも「ドーナツが売れる」ことと、「お店が儲かる」は別だということです。
ビックリ感
上では「売れる」と書きましたが、それはセブンイレブンの圧倒的な店舗数と、レジ横という理想的な販売スペースがあればこそです。それがセブンイレブン本部の予測する売上にマッチするかは全く別問題ですし、ニュースになるような売上になるには、圧倒的な+αが必要です。
コーヒーの場合にはその条件が揃っていました。
- <1>価格
100円で本格的なコーヒーが飲める!というインパクト。
安いコーヒーショップなら150円、180円でコーヒーが飲めましたが、
なぜか新聞等の記事では、その価格はスターバックスと比較されました。STARBUCKS COFFEE is everywhere [Yuyuan Shopping Center / Shanghai] / d'n'c
おかげで「安い」という印象をより強く植え付けた部分はある思います。
- <2>音と匂い
セブンのコーヒーが成功した一番の理由は、個人的には「音」だと思っています。
セブンカフェ コーヒーマシーン / yto装置がすぐ客の前にあり、コーヒーを淹れるとまずミルの大きな音がします。これが「本格的」という印象を与えたのではないでしょうか。
普通に考えれば「騒音」ですが、それを敢えて聞かせる演出は見事です。
もちろん湯気や匂いも直感に響く、良い演出です。
ドーナツにビックリはあるか?
それに比べてドーナツはどうか。
「100円」を聞いたときに「なんだ、ミスドと同じか」と思わなかったでしょうか。
同じ商品が、同じ価格で、専門店とコンビニで売っていた場合、どちらで買いますか?
もっと具体的に考えてみましょう。
セブンイレブンとミスタードーナツが隣り合わせだったら、どちらでドーナツを買いますか?
ミスタードーナツは例の如く、「ドーナツ100円!」と大きく貼り出しています。
私なら間違いなくミスタードーナツに行きます。
おいしいし。種類もたくさんあるし。
これがスターバックスだったら?
スターバックスとセブンイレブンが隣り合わせだったら、どちらでコーヒーを買いますか?
私はセブンイレブンで買います。
安いし。
あくまで私の一例ですが、これがドーナツとコーヒーの違いだと思います。
商品の値段はその「絶対価値」では決まりません。
競合に対して一番良いものを選ぶのだから、価格は「相対的」に決まる物です。
例えば牛丼や回転寿司は競争が激しいから、異常に安いです。
カレーやラーメンは味で差別化しているので、そこまで価格競争になっていません。今回のドーナツは、その意味でも失敗に思えます。「100円ドーナツ」を売りにする競合に突っ込む必要があったのか。
例えばベーグル、プレッツェルのように「数百円が当たり前」というものは他にもあります。語弊を恐れずに言えば、どれも原価にそれほど差は無いでしょう。しかし競合も高価なため、市場を維持しているわけです。
「ベーグル100円!」ならもっとインパクトがなかったでしょうか。
例えば日本最大のベーグル専門店、「ベーグル&ベーグル」なら、プレーンなベーグルでも160円。こういうところに攻め込みゃいいのに。
「ベーグルの事を知らない人が多いから売れない」なんてマーケティング結果でもあったのでしょうか。(実際あったのかも)
でもセブンイレブンが本気で販促すれば、新しい商品を浸透させることも可能です。
実際、一地方の習慣だった恵方巻きを全国区にしたのは、コンビニの力が大きいし、もっと古い話で言えば、お茶もおにぎりも「外で買う物」という認識はみんな無かった訳ですし。
新サービス案
そんなわけで私は「セブンイレブンのドーナツ」は失敗だと思います。大体、これ以上レジを狭くしてどうするよ。
コンビニでこれ以上棚を置ける場所はレジ横ぐらいという考え方も、なんだか机上で考えた感じがします。大体他の商品もあっただろうに、何故よりによってドーナツ、という感覚も免れません。
どうせやるならもっと発想から変えたら面白いのに、と思います。
批判だけだと面白くないので、最後に一つ提案してみます。
例えば・・・「私書箱サービス」とか。
コンビニの周りにコインロッカーを置いて、注文した荷物を店員がそこに入れておくサービス。
コインロッカー Coin Locker / Pietro Zuco
ネットかお店(端末注文)で注文して店舗で受け取る、「お店で受け取り」「宅配サービス」の中間です。
Amazon・楽天など通販と競合するけど、荷物受け取りができない単身者を狙います。
店員を介さないので気軽なのがメリット。
趣味のもの、女性なら下着の受け取りなども店員に会わずに済ませられます。
受け取りにはあらかじめ登録したICカード(Suica等)を使います。
「コンビニの中に場所がない」なら、コンビニの周りならどうかと思ったんですが、どうでしょうか。
コインロッカーをポツンと置いたら破壊されるかもしれませんが、二十四時間営業店舗の横なら防犯上も最低限の対策にはなるでしょう。
荷物を店外に置くことになるのでストックヤードも圧迫しません。
手が空いたときに作業できるので店員にも優しいし、店が混んでいてもすぐ受け取れます。
都心部では空きスペースがなく難しいでしょうが、駐車場スペースが広い郊外なら大丈夫でしょう。
- メリット
通販商品は単価が高い(利益額が大きい)
店員・店内への圧迫が小さい(上乗せになる)
流通網にも影響がない
- デメリット
新規什器が必要になる
屋外なので荒天に際しての防水性などが疑問
- 懸念点
サービスが好調でロッカーが満杯ならどうするのか
長期間取りに来ない場合の取り扱い
もしかしてもう実際にそういうサービスあるのかな。知らないけど。
あ、コーヒー全く関係ないわ、これ。