日本のクラウドファウンディングの可能性
ネット上での論争は好きではないので、基本的に参加しない。
ただ今回は、数少ない当事者として声を開けさせて頂く。
元記事はこちら。
ひだりの灰色 自分が支援するならこんなクラウドファンディング
Bright Bike on Kickstarter / mandiberg
クラウドファウンディングについて書かれた投稿は少ないし、実際に出資した人となれば日本ではまだまだ少ない。
その意味で、当事者からの意見は貴重で、「こんなプロジェクトなら出資したい」という声はこれからクラウドファウンディングを考える方にも参考になる。
ただ、今回「これは反論せざるを得ない」と感じたのはこの点。
3.国内クラウドファンディングサイトを使っていない
ひだりさんは国内のクラウドファウンディングサイトを使っている時点で、無条件に出資対象から外す、とされている。
今現在、その国内クラウドファウンディングで出資している身として、これには反論せざるを得ない。
カードゲーム「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」製品化プロジェクト
自分のプロジェクトへの出資が欲しい気持ちは当然あるが、国内のクラウドファウンディングを盛り上げたいという思いもあるからだ。
その理由として元締めへの手数料が馬鹿にならないからです。
おそらく最も国内クラウドファンディングで有名なサイトはCAMPFIREですが、集まったお金の2割は手数料としてとられます。国内製作の(同人)ボードゲームでゲームマーケットの販売価格で儲けを多くの割合積めている人たちってほとんどいないと思われます。そこに2割を手数料で取られて販売価格に影響がないとは僕には考えられません。
クラウドファウンディングサイトの使い勝手、信頼度。
ユーザーとしてそういった物を比較されるのは重要だし、自由だと思う。
その上で「このサイトは使いにくい」「嫌いだ」そういう意見は合って良いと思うし、あって当然だ。
実際、「サイトに個人情報やクレジットの登録をしたくないので、支援できない」という友人もいた。
そういう意見は分かるし、それで支援できなければ諦めるしかない。
Visa Credit Card / Images_of_Money
だが、「2割を手数料で取られて販売価格に影響がないとは僕には考えられません。」というのはユーザーが開発側の懐事情を勝手に推察しての判断だ。
これは首を傾げざるを得ない。
高いから、物が悪いから、ですらない。
「こんな仕組みで儲かるはずがない」
と頭から決めつけているだけだ。
2割は高い?安い?
感情論で話をしても仕方無いので、数字で話をする。
例えば自分のプロジェクト。
目標額は30万円。
つまりギリギリで達成すれば30万×0.2=6万円を運営側に取られる事になる。
さて、これは高いか安いか。
では実際、他の手段で拡販、あるいは出資を募ったとしよう。
ここでひだりさんは「KickSterter」を挙げられている。
Bright Bike on Kickstarter / mandiberg
KickSterterは日本からの出資を認めていないので、米国代理店、あるいは法人などを経由しなければならない。
- 米国代理店等への経費
- 翻訳費用
これらをいくらで手配できるだろうか。
KickSterterも無料ではなく、1割の手数料を取られる。
つまり差額は3万円。
この準備を個人が3万円でできるなら良いが、パッと考えても難しい。
また、お金の話から外れるが、KickSterterは英語onlyだ。
多くの日本人は、わざわざ英語サイトの中を探して出資を検討しないだろう。
その時点で「日本でボードゲームをもっと知って欲しい」という趣旨と外れる。
あくまで日本で、日本語をベースに拡販を行うことが今回のプロジェクトで一つ重要なことだと考えていたのだ。
では自サイトなどの拡販はどうか?
実際にやおよろズさんはそうして拡販中だ。
しかしこの人数とプロジェクト規模でなければ、この実現は難しい。
おなじボードゲームのクラウドファウンディングとしてはぜひ達成して欲しいが、そこに至るには彼女らなりの綿密な計算と、泥臭い営業活動がある。
サイト構築、イベント開催、各自のキャラクターを生かした情報発信、Podcast出演等々。
やおよろズの青春中二病ナイト! - 大阪ヒミツキチオブスクラップ
サイト構築一つにしても手が掛かる。
ブログを作るだけではなく、予約受付システム、下手をすれば金銭授受の仕組みが必要になる。
これを考えれば、CAMPFIREに支払う6万には、十分意味があると思う。
(もちろんもっと手数料が安く魅力的なサイトがあれば、そちらを使っただろうけども)
原価って何か
物を作って、売るのに、物の原価だけでは話はできない。それなら会社には「製造部」だけはあれば良いことになってしまう。
実際には研究・開発・製造という一連の流れがあって製造し、それを物流部門が管理し、営業が売る。
当然そのバックには指示系統を出す経営陣がいて、庶務を処理する経理・総務などのいわゆる間接部門がいる。
個人・同人でも同じで、売るためにはこの全ての業務を行わなければいけない。
(そこに費用を載せるかはともかく)
同人の場合、製造原価の他には「営業」「会計」「物流」等で発生するコストは、プロジェクトの総額が小さいだけに、結構シャレにならない。
委託販売だって結局手数料は取られるのだがら、大きく記事を出して貰って拡販できるクラウドファウンディングにおいて、支払う費用は決して無駄だとは考えていない。
こちらだって最低限のシミュレーションはやった上でクラウドファウンディングに出しているわけで、それを「こんな手数料で碌な物が作れるはずがない」と頭ごなしに否定されてはカチンと来ることはご理解頂きたい。
反省と対策
思った通りには行かないもので、製品化プロジェクトは2/3の日程が済んだところで現在進捗は35%。(8/27日現在)
なかなか厳しい。
現時点での反省点は三点。これはこれからクラウドファウンディングを考える方の参考になるかと思うのでまとめておく。
説明不足
これはひだりさんのご指摘の通りで、最初に用意した資料は満足ではなかった。
ルール・イラスト・動画と立て続けに追加しているが、最初からこれが揃っていれば良かったというのは反省点。
また、ゲームなのにプレイできる場所がない。
これは難しいところで、バラまけるほど数があれば最初からクラウドファウンディングなど要らないわけで、どこまで対応するかは難しいところ。
今回、ご厚意を頂いて関東・関西でそれぞれ一カ所づつゲームを置いて頂いけることになった。
東京:ボードゲームカフェ渋谷
京都:Gion Loop Salon | 祇園 ループ サロン
「クラウド」ファウンディングという名前の通り、草の根のご支援でプロジェクトが成り立っていると、強く感じる。ご提供頂いているお二方には本当に感謝するしかない。
※「ボードゲームカフェ渋谷」には8月29日(金)に訪問、ゲームをお預けする予定
ボードゲーム市場の大きさの読み間違い
ボードゲームは日本でマイナーだと思っていたが、正直な所、プロジェクトを始めるまでこんなに小さいと思っていなかった。
これは結構大きな失敗。
また、ボードゲームは「プレイする人」と「買う人」の人数に差がある。
なぜなら、グループ内の一人でも持っていればゲームができるから。
売る側に立ってみると、これは辛い。
友人が気に入ってくれても、「コイツが買うならオレは要らないか」となるから、なかなか数に繋がらない。
そういう意味で、ボードゲームはものすごく「健全」な市場だと思う。
一度買えば「ゲームを続けたければ金を出せ」と言われることもないし、「みんなが持ってるから買わないと一緒に遊べない」という同調圧力も起きない。
いや、売る側からしたら厳しい市場なんだけど。
ドイツでのボードゲーム市場は何百億とあるが、これは各家庭が来客を招くために購入しているということらしい。日本もそうなれば面白いが、なかなか難しそうだ。
クラウドファウンディングの小ささ
もう一つ、読み間違ったのはクラウドファウンディングの小ささ。
ひだりさんの紹介されている記事内では「KickSterterではサイト内を周遊している人がいるから、目を引く記事があれば売れる」といった事が書かれていたが、日本はそうじゃない。
出資頂いた方の履歴を見ると、色々なジャンルに出資されている方は少ない。ボードゲームばかりに出資、あるいはこのプロジェクトが初めてという方がほとんどだ。
クラウドファウンディングに出すことで、ボードゲームの告知に繋がったと書いたが、実際の出資という段階になると、元々ボードゲームをやる人に限られている印象がある。
この辺、出資の裾野が広いアメリカとはかなり感覚が違うと思われる。
「クラウドファウンディングではこうしろ!」という記事は多いが、それはアメリカの事情について書かれている物が多い。日本とアメリカはバックグラウンドが違うということは、気にした方が良いと思う。
例えば動画。
KickSterterでは「動画があると全然インパクトが違う」とあるし、今回その定石に則って2分10秒の紹介動画を作ったが、閲覧数はページ訪問数の1/10を軽く下回る。
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」紹介動画 - YouTube
友人も「動画は面倒だから見ない」と言っていたし、日本では2分の動画でも厳しいのかなと感じだ。
日本ならCMサイズ、せいぜい30秒でまとめないと、紹介動画はなかなか見て貰えないのではないか。
逆に「プレイ動画」「実況動画」は、12分以上という時間にも関わらず、サイト訪問数からの閲覧件数は多い。
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」プレイ・解説動画 ‐ ニコニコ動画:GINZA
特にゲームにおいては、内容の分かるプレイ動画の方が求められているのだろう。
「実況動画」が既に一つのジャンルとして成り立っている、という背景も大きい。これに関しては、もっと長くても良さそう。
クラウドファウンディングのリスク
クラウドファウンディングはプロジェクトが失敗(未達成)の場合、出資者(≒先行予約者)とプロジェクトの間に金銭的なやりとりは発生しない。
このため「リスクの低い手法」と言われているが、低いだけでゼロでは無い。
9月14日(日)には「大阪ボドゲフリマ」に参加させて頂くが、これだって参加費用もあれば、出展のための部材、チラシやフライヤーの印刷費用だって発生する。
それがどうという話をしたいわけではなくて、物を作るからにはトータルで考える必要があり、一カ所のコストや製造原価だけで判断できる物ではないということ。
(ちなみに大阪ボドゲフリマの参加金額は安い。費用が掛かるのはこちらの準備の問題)
素人仕事で完成度の低い物は散見されるかも知れないけれど、これでもできる限りは考えて、頑張っている。
日本のクラウドファウンディングというだけで敬遠せず、プレゼンと物で判断して欲しいなと思う次第。