ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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音楽でメシを食えない時代って、不幸なの?

音楽配信によって、音楽をやる人(作詞家・作曲家・歌手)の収入が激減したなんて話が増えた。
それに対しては色々な意見があるんだが、
とにかく音楽で飯を食っていける人は減っているし、今後も減り続けるんだろう。


なんとかで飯を食えた世代(時代)、という言い方があるが、
芸術でも技術でも、時代が変われば市場性が変わって飯が食えない人が出る。
音楽や絵画なんて歴史として把握できる以前からある芸術だけど、
例えば江戸時代には浮世絵という巨大産業があった。

[Teahouse at Koishikawa the morning after a snowfall] (LOC) / The Library of Congress

浮世絵は絵を描く「絵師」だけでなく、「彫師(ほりし)」「摺師(すりし)」も含めた巨大産業だった。
でも今では浮世絵で飯を食っている人なんて数えるほどしかいない。
でも、絵画自体は衰退していない。
むしろ誰でも気軽に絵を描いて発表できるようになり、絵を描く裾野はもの凄く広がっている。


技術の進歩ってそういうもんで、
今まで高価だったり難しすぎて手が出なかったものが、誰も参加できるようになる。
そうして裾野が広がるとクリエーターの単価が下がるので、
特に今までそれで食っていた人というのは廃業に追い込まれる。
そうして、ごく一部のトップクリエーターを除き、食っていけなくなる。


デラシネマという、往年の銀幕を描いた漫画がスゲーアツくて面白かったんだが、
当時(終戦直後)、「脚本家」はすごい特殊技能だったと書かれている。
デラシネマ(1) (モーニングKC)
脚本を作るノウハウも体系化されていないし、
ワープロの無い時代、作品全体の流れをイメージしながら
原稿用紙に書いていく作業は今よりも書くのがもの凄く大変だったと。
なるほど、物を書くという作業一つ取っても、
パソコンがある時代と昔では難易度が全然違うんだな。
書く難易度も下がっているし、「発表する」という場も、
ネットでこうして素人が簡単に文章を発表できるようになっている。


最近、「じゃりン子チエ」を50巻以上大人買いして、順番に読んでいるんだけど、
これがまぁ、面白い。
じゃりン子チエ (1) (双葉文庫―名作シリーズ)
で、その中で借金取りが出てくるんだが、
彼らが肌身離さず持っているのが「そろばん」。
たかだか30年前、計算には特殊な修練が必要だった訳だ。
ちなみに作中、彼らは延々複利の計算をしている。
「アホゥ、オレなんかもう10回も検算しているわ」
なんて、電卓を使っていれば聞いたこともない言葉だわ。


じゃりン子チエの人物描写は今見ても、本当にもの凄いんだが、
作品自体の技法は、やっぱり古い。
分かりやすいところで言うと、スクリーントーンがない。
描写の視点はずっと水平で、人物の描写も極端に寄ったり引いたりしない。
フラッシュなどの特殊効果がほとんどない。
今どきの漫画と並べると、本当に漫画って進化しているんだと分かる。
書き文字一つだって、頭文字Dの前後でもう世代が変わってるんじゃないか。
あのインパクトって凄かったんだけど。
頭文字D(45) (ヤングマガジンコミックス)
漫画だってデジタル化が進んでいるので、
作業時間の短縮や、立地の離れた人同士での連携作業も取れるようになった。
極端な話、全く絵が描けなくても漫画を作る事だってできる。
コミPo! ~絵を描かなくてもポッとマンガがつくれちゃう!~ [ダウンロード]
(3DCGモデルを並べて漫画を作るソフト)


要は何が言いたいかというと、芸術でも技術でも、あるジャンルでの収益は限界を迎える。
でも、それは決してそのジャンルの衰退とイコールではないと思う。
ある技術が完成すると、そのジャンルで一気に普及して、付加価値がなくなる。
でも、それでそのジャンルのレベルは底上げされていく。
そうして新しいジャンルが作られていけばいいんじゃないか。
自分の好きな「本格SF」というジャンルでは、もうメシは食えなくなっているらしい。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
(第三弾が出る日が来るのだろうか。「廃園の天使」シリーズ、応援しています)
でも出版というジャンル全体で見ればライトノベルの隆盛で作家数だけはとにかく多い。


音楽だってポップス・ロック音楽でメシを食っていくという夢は、もう幻想に近いだろう。
ミスチルやサザンが上手くいったのがバブルだと思って、やりたい人は趣味として
「音楽が好きだからやりたくてやっているんだ!」
で続けりゃいいと思う。
実際、音楽を作る人、演奏する人(歌う人含む)は初音ミク含むDTMソフトの発達と、
YouTubeニコニコ動画という発表する「場」の提供で過去に無いほど増えている。
流れ込む金が少なくなればかけられる時間や人材も減り、
ロックの進化はこれまでの何十年に比べて停滞するのかもしれない。
でも、それに変わるジャンルが出てきてまた進化することで、音楽も生き残っていくんだろうと思う。


要はね、なんかニュース見ててあんまり悲観的になる必要ないんじゃないかと思う訳ですよ。
それは今までの重厚長大なゲームにしても、音楽業界にしても。
ゲームなんてこの30年、40年がうまく発展しすぎただけで、そろそろ次のステージに行く時期だろうと。
それがソーシャルゲーム的な物かもしれないし、リアルなものに融合するのかもしれない。
どちらにせよ、渦中のメーカーの考えるべきは「既存カテゴリからのスムーズな撤退」じゃないのかな。
電機メーカーはDRAMの後テレビ、その後太陽電池に拘りすぎて全滅、という同じ轍を踏んできたけど、
上手くいっている産業が「なんとか業界」ってまとめられる時って、実は結構ピンチだと思うのですよ。

Mega Solar Cell Phone Charger / sjsharktank

「大手家電メーカー」ってのもそうだったし、「大手ゲーム会社」ってのも、自分の業務領域を狭めていないか
考えた方が良いんじゃないかなと。
液晶でもそうだったけど、一番儲かっているときが事業の一番危険な時期だから、撤退のタイミングって本当難しいんだけど。
うまくハマったジャンルほど、撤退を考える必要がありますよと。