ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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悪の組織が、滅びる瞬間まで自信満々な訳

悪の組織が滅びるときの決めゼリフはいくつかあるが、
「私が死んでも第二、第三の魔王が現れるだろう」とか、
「悪は永遠に滅びぬ」は結構定番だと思う。
悪の組織論、第六回は負けるときのこの悪の組織のトップのセリフについて考察する。

ill never die / Felipe Skroski

今までの悪の組織論シリーズはこちら。
・リンク → 悪の組織は、なぜ懲りずに正義の味方に負け続けるのか−わかりやすさを、コーディネート
・リンク → 悪の組織を傾けているのは科学者じゃないか?−わかりやすさを、コーディネート
・リンク → 悪の組織は失敗した幹部をどう処置すべきか−わかりやすさを、コーディネート
・リンク → 悪の組織の目標はなぜ「世界征服」なのか−わかりやすさを、コーディネート
・リンク → 僕が『イーッ!』以外の発言権を得た日のこと−わかりやすさを、コーディネート

悪の組織が滅びるとき

悪の組織が滅びるときは、事業で言えば事業の撤退、企業で言えば倒産するときだろうか。


悪の組織は大体が成功を体験する前にあっさり潰されるが、
その開発力や技術力、大きな構想には目をみはる物が多い。
となると、イメージとして近いのはやはりベンチャー企業だろう。
良いアイデアと商品を持ち話題になったが、キャズムを越えられずに散ったスタートアップ企業。
悪の組織はそんな企業を彷彿とさせる。

Crossing the chasm / lucamascaro

悪の組織は、「早すぎた失敗」?

事業や商品でもそうだが、「時代の早すぎた商品・事業」というのがある。
Appleの初代タブレット「Newton」は良くその代表にされるが、

iphone splash screen, sunlight / oskay

それなりに売れたSharpW-Zero3だって、今考えれば完全にスマートフォンの走りと言える。

Willcom W-ZERO3[es] / yoppy

事業でもそうで、一度失敗した事業が何年か経って成功する事例はたくさんある。


悪の組織があれだけの人物を集め、資金を投入できているからには
それなりの勝算があってのことなのだろう。
単純にトップに陶酔している幹部から、裏の裏まで知っているような参謀まで、
様々な人物が付いてきているからには、そのすべての構成員を納得させられる材料が
組織に備わっているからといえる。

もちろん失敗するからにはそれなりの理由があるからで、
性能だけでなく売り方や物流構造・会社の仕組みなどいろいろな物が組み合わさって成功につながる。
ただ、ここではその中心となるコンセプト部分についての話と捉えてもらいたい。

なぜ「悪は滅びぬ!」と言い切れるのか

悪の組織の言う「悪」は、事業ならそのコンセプト、企業ならその理念だろう。

社訓!! / shinji_w

つまり「復活する」と言っても、彼自身やその組織がそのまま復活するのではなく、
同様の理念を持った新たなトップと組織が、何年か経ってまた出現するということと言える。


多くの場合、悪の組織は完全に追い詰められて壊滅する。
当然、トップはその場で倒れるので、自分では再起を狙えないと考えて良い。
この時、再起するためのバックアップを考えているかいないかで、このセリフに
二通りの解釈を考えられると思う。

その1:あらかじめバックアップを考えている場合

最期の瞬間に自分の後進を世に放ったピッコロ大魔王や、
二人の子供を残せた源義朝のように、悪の組織が「自分のいなくなった後」を考えていたらどうだろう。

ドラゴンボール―完全版 (11) (ジャンプ・コミックス)

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自分がいなくなったときのことを考えていたなら、自信を持って
「第二・第三の魔王が・・・」
というセリフにも納得できるだろう。


こう考える根拠はいくつかある。
大体が、悪の組織の「秘密のアジト」が一つだけ、ということ自体が考えにくい。
秘密にするなら、余程その秘匿性に自信がある場合でなければ、
分散するか、バックアップを作っておくだろう。

秘密のアジトに「自爆スイッチ」がある理由

そして決定的な根拠は「自爆スイッチ」の存在。
悪の組織には、緊急時にアジトを丸ごと破壊する「自爆スイッチ」がよく用意されている。

自爆ボタンモバイル ブラック

自爆ボタンモバイル ブラック

これ、このアジトだけしかないと考えると、その存在意義がない。
例えば軍隊では、機密機器には「破壊責任者」が存在する。
これは、緊急時に「責任を持って秘密が漏れないように破壊する担当」ということ。
つまり、自爆・自壊には「秘密を守る」という目的がある。


そう、「自爆スイッチ」のあるアジトにトップを追い詰めて、
それで最終回を迎える時点で、実は正義の味方の負けなのだ。

その2:バックアップを残せずにやられてしまう場合

もちろん、周辺施設もすべて潰され、追い詰められてやられる悪の組織の方が多いだろう。
そして何の財産も後進も残せずに滅んでしまう。
そんなときでも「必ず復活する」と断言する、この根拠は何だろう。


それは、彼らの理念に対する強烈な自信じゃないだろうか。
悪の組織のトップは、その「世界征服」などの理念に強い自信を持っている。
そして、それを信じる多くの部下と、十分な経済力を持ち、
理想の実現に向けては開発・侵攻を同時並行で行う組織力がある。
彼らが滅んでも、その理念と組織を見て、後を追う物が必ず出るだろう。
それぐらい、彼らはその理念を信じている。

自分の仕事に、自信を持っていますか?

自分の背中を見ずに、「誰かが付いてくるはず」「何年後かには成功するはず」
と言い切れるのは、それだけの信念と自信が無いと出来ないことだと思う。


ガリレオ・ガリレイは、地動説を唱えたために教会から審問を受けることになった。

Galileo / tonynetone

今でこそ「科学の父」と言われるが、異端審問を受けるあたり、異端視されていたと思われる。
(実際には宗教的な論争と言うより、教会内の政治的な裁判とも言われているらしい)


考え方や評価なんて、時代や背景によって変わる。
その中で、自分のアイデアや考え方が正しいと言い切れるのかどうか。
その最も極端な例が、悪の組織のこのセリフに集約されているんじゃないだろうか。
「自分でなくても、この考えに共感してくれる後進がどこかにいるはずだ!」
自分の事業が外圧により失敗してもなお、これを言い切れる。
一つの新しい事業を興すのに、これぐらいの信念と自信を持って進む。
これって、大事なことだし、それで実力もあるなら、そりゃ構成員達は組織に付いていくよな、と思う。
振り返って、自分の仕事にそれほどの自信を持っているかどうか。
悪の組織の、このトップの態度は、自分の仕事を振り返って、なかなか考えさせられるところがあるのではないか。


まぁ、最後は負けるんですけどね。