ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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2050年、宇宙(そら)へ。エレベーターで。

2050年、エレベーターで宇宙へ。

Space Elevator GEO Station / FlyingSinger


大林組が自社広報誌で「2050年に宇宙エレベーターを建設する」
と構想を立ち上げていた。
・リンク → 広報誌『季刊大林』53号(特集:タワー)を発行|プレスリリース|株式会社大林組
素晴らしい!


宇宙エレベーターについては以前にも取り上げたが、本気で力を入れるべき事業だと思う。
・リンク → 「宇宙、そこは最後のフロンティア」【問題提起】
・リンク → 地に足の付いた宇宙基地・宇宙エレベーター【解決案】

一兆円あったら、何に使う?

宝くじを買うときには誰でも、少しは「一億円当たったら、なにする?」と考えると思う。

宝くじ / タカハシケンタロウ

ではその想像を少し(?)膨らませて、「一兆円あったら、何する?」と考えてみる。


日本の誇るH-IIAロケットの開発費用が約1500億円、打ち上げ費用が85〜120億円
東京スカイツリーの建築費450億円、総事業費650億円
六本木ヒルズの総事業費が2700億円
原発の建設費用が3000億円程度(建築のみ。維持管理や廃棄費用含まず)。
建築関係はもっと規模が大きくて、
明石海峡大橋 : 建設費 約5000億円
瀬戸大橋 : 総事業費 1兆1338億円
東京湾アクアライン : 総事業費 約1兆4409億円
関西国際空港 : 建設費 1兆5000億円(大規模埋め立てのため)

Kansai International Airport (KIX/RJBB) / Hyougushi

こう考えると、一兆円ってとんでもない数字だけど、なんとかイメージできる数字とも言える。


で、なぜ一兆円かというと、上のリンクでも書いているが、
宇宙エレベーターの建設費用がおおよそ一兆円だと言われているから。
一兆円あったら、原発を二つ三つ建てるか、ヒルズをもう二つ三つ建てるか、橋を作るか、
それとも宇宙エレベーターを作るか、どれが大事だと思いますか?という思考実験。

Space Elevator Indonesia at Night / FlyingSinger

大林組宇宙エレベーター計画

宇宙エレベーターを作るには、そのエレベーターの軸となる「綱(テザー)」が必要になる。
そして、一番の課題はその強度を満たす綱が存在しないこと。

High resolution carbon nanotube / ghutchis


建築工法も、テザーの材質も徐々に研究が進んでいるが、大林組では
実際に作ったらどんな問題が起こるかを考えて地上施設の設計を検討しているらしい。
例えば、地上施設の固定。
宇宙エレベーターは地上36,000km静止衛星軌道上に作られた宇宙ステーションから、上下に綱を出した構造になる。
つまり地上施設は、上から「吊られているだけ」の構造になる。
このため地上で一点に固定させることは難しく、風などの影響で簡単に地上施設は10km単位で動いてしまうとのこと。


大林組はこの対策を検討し、まず2025年から地上施設であるアース・ポートの建設に着工し、
2050年に静止軌道上のステーションの供用を開始予定としている
夢が広がるなぁ。

宇宙エレベーターは何の役に立つのか

宇宙エレベーターは珍しさが売りではなく、一番は静止軌道
つまりは無重力空間(正確には「無重量」)に安く物を持っていけることが一番のメリットになる。

/ Marcin Wichary

※写真は飛行機の落下を利用して無重量を体験できるサービス


「エレベーター」と言っても、高度36,000kmまで向かうには、時速200kmで7.5日かかる。
現状、ロケットでこの高さまで打ち上げるにはいくら必要か。
例えば最新のH-IIB(H-2B)ロケットの静止軌道への打ち上げ能力は8t(8,000kg)
打ち上げ費用は多少前後するが110億円とすると、1kgあたりの打ち上げ費用は137.5万円
(宇宙エレベータ協会HPでは「H2Aで105万円」と試算)
これに対して、宇宙エレベーターではその輸送費用が5,000円〜10,000円とされる。
(宇宙エレベータ協会試算)
これだけ安くなると色々な可能性が考えられる。


例えば、化学・金属・薬品
重力がない(正確には「非常に弱い」)ので、物体が均一に混ざる。

Melting pot / I.Gouss

この結果、地上では作る事が難しい薬品や合金が作れる。
今の費用では実験レベルでしか合成できないが、費用が劇的に下がれば
高額なものなら量産レベルで作れる可能性が出てくる。


次に、宇宙への前進基地として。
大林組のリリースでは月面基地への前哨基地として宇宙ステーションを使用するとされている。
重力のほとんど無い、宇宙ステーションから発進できるのなら、
より遠方への探索もより安価に実現できるようになる。


最後に、個人的にはこれをやって欲しいのだが、
宇宙で設備を建造する費用が安く出来る
既に静止軌道上には多数の人工衛星があるが、この建設費用が安くなれば
本気で宇宙太陽光発電を考えることが出来る。
宇宙で発電して、地上に送電する、究極の再生エネルギーだ。
これについても以前書いているが、今後50年、100年を考えるなら
原子力をどうこうするのではなく、こういう本質的に新しい発電に注力して欲しいなと思う。
・リンク → 宇宙太陽光という解決法−わかりやすさを、コーディネート

Stanford Wheel in Orbiter / FlyingSinger

2050年の事業に対する不安

この話で一点気になる点があるとすると、その事業化が2050年ということ。
現実的に考えればまだテザーの材料すら開発されていないわけで、
今の段階でスタートするのは事業としては危険極まりない。
しかも巨大な地上施設を建設するには今から動いても10年以上先の着工になるということで、
大林組としての建設ストーリーは決してのんびりした計画ではないが、やはりもっとスピード感が欲しい。


震災以降、原子力から脱却し新しいエネルギーや仕組みを作りたいという機運は高まっていると思う。
その中で、国や政治家こそが、このタイミングを利用してもっと野心的な計画を立てて欲しい。
それこそ米百俵の精神だ。
国家の暴走は時にオーバーテクノロジーじゃないかという無茶な開発を行う。
世界大戦の際の各国の兵器もそうだし、
宇宙開発時のアポロ計画なんて、当時でも、今考えても無茶以外の何物でも無い。
1961年、大統領が「60年代中に人類を月に送る」とぶち上げた。ファミコンの発売の20年以上前)
そして本当に1969年7月、技術者は計算尺で軌道計算して人を月に送り込んだ。

Apollo moon landing transcript textorized / maxf

もちろん計算機はあったが、例えばアポロ13号の事故では軌道修正計算はほぼすべて手計算。
CADは開発当初で、ほとんどの設計は手書きだったろう。
宇宙船内には分厚い紙のマニュアルとスイッチで埋め尽くされていた。(これは安全上の理由もある)
軌道投入に使用されたサターンV型ロケットは現在においても史上最大。

United State Space and Rocket Center, Huntsville / douggarner08

サターンVが大きいのは、別に技術が古くて小型化できなかったわけではなく、
着陸船、司令・機械船合わせてなんと45tにも及ぶ重量を月まで運ぶという巨大な推進力のロケットが
有史以来サターンVを置いて他いないという理由による。
ちなみにスペースシャトルの最大積載量は、低軌道(〜1400km)で25t弱静止軌道36,000km)で3.8t
月までの距離は 384,400km
文字通り桁が違う。
この桁違いの距離に、スペースシャトルの最大積載量の10倍以上の司令船を運んだと言うと、
多少はサターンVのとんでも無さが伝わるだろうか。

How does it compare? / Bernt Rostad

ちなみにこのサターンVは使い捨てで合計13機発射(発射用では15機が製造)されている。
国の威信をかけた開発競争の凄まじさが分かる。

国家に正しい「狂気」を

ただ、ある意味この「狂気」宇宙エレベーターで発揮してくれたら良いのに、と個人的には思う。
無茶な計画、例えば「2018年には着工、2025年には完成」とかの計画だ。(数字は適当に入れた)
この計画に対抗して乗ってくる国は今なら中国とサウジアラビア・ドバイ等だろうか。
とにかく国家の威信をかけた闘いになれば、常識やビジネスの範疇を超えた技術や金が投入されて、
それまでの基準ではあり得ないスピードで話が進むと思う。


アポロ計画は宇宙ステーション建設→月進出という手順をすっ飛ばして、
とにかく一発のロケットで月まで人を運ばざるを得ないスケジュールを組むことになった。
だがその結果、様々な素材や新技術が開発されて裾野産業の拡大に繋がったことは事実。
インターネットもDARPAの技術から始まっているあたり、このかけた力を適正に配分できれば、
その後の国家的な発展の基礎にもなる。
なにより、宇宙エレベーターはそれ自体が利益に繋がると言う意味で宇宙開発競争や軍拡競争とは異なる。


自分の好きな分野の話なので熱くなってしまったが、本当に国が威信をかけて、
本気でやる価値のあるものだと思うんだが、どうだろうか。
一企業がどれだけ頑張っても、調整や法律に引きずられる上に、自社の利益の範囲内でやらなければいけない。
その法律をとっぱらった無茶が出来るのが国の良さなので、こんな大規模な案件でこそ国家としてサポートして貰いたいのに。