ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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温暖化で困るのは、温暖化で騒いでいる人達

「温暖化温暖化って騒いでるけど、本当に温暖化したらお前の生活は何か変わるの?」

Global Warming. The Earth became the newest Waterworld. / Cherrylynx

そう言われて、どこまで説明できますか?


先日紹介したこの本、「いちいち事例が面白い」と書いたが例えばこんな事例を挙げている。

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

まずその周辺の小見出しを列挙してみる。
地球温暖化は本当に全員共通の問題か?】(p97)
サハラ砂漠やシベリアに住む人の「環境」は良くなる】(p99)
【自分たちにとっての「環境」の善し悪しを考えよう】(p101)
【「自分は現状を完全には把握できていないだろう」という認識を常に持て】(p102)
小見出しで主旨ぐらいは汲み取れるだろうか。


この本はビジネス書なので、「それが良い・悪いは主観だ」という事が主旨。
「地球はこのままでは温暖化する」というのは「事実」だが、
「温暖化は悪いこと」というのは「主観」でしかない、という事を解説し、
「感情的に考えずに利害を冷静に判断しろ」という事を結論として述べている。
それにしてもここまで冷静に地球温暖化なんてたいしたことないじゃん」論を展開する人は久しぶりに見た。

科学的にみた温暖化

科学雑誌を定期購読しているし、地球温暖化の話については、多分詳しい方だと思う。
(もちろん専門で調査している等ではないので、あくまで一般人として)

日経 サイエンス 2012年 04月号 [雑誌]

日経 サイエンス 2012年 04月号 [雑誌]


科学雑誌から見る、学術的な温暖化のスタンスは、大体こんなところだろうか。

  • 温暖化は進行している
    • たまに「まだ温暖化を否定している人」を論理的に潰す記事が出る
  • 地球としては寒冷化に向かっている
    • 温暖化とどうバランスするかはまだ人により意見が違うみたい
  • 温暖化が進むこと自体は悪ではない
  • 「急激な温暖化」は多数の生物種を死滅させる
  • 「温暖化」というが全域が暑くなるわけじゃなく、降水量も増える地域も減る地域もある


ということで「温暖化=悪」というのは、学術的にはちょっと違う。
まず、科学に「善悪」は無い
そこで、善悪の基準から考える必要がある。
温暖化で「悪いこと」の基準として取り上げられるのはこういったもの。

  • 生活できなくなる、あるいは生活水準の低下する地域が出る(生活域の水没・環境の悪化)
  • 食料の生産量が減少する可能性がある
  • 生物種が減少する
そもそも今は氷河期?

人類の歴史の中では、「暑くなりすぎて大変だった」という時期より、
「長い期間寒かった」ために問題になった時期の方が多い。
農耕が発生したり、戦乱が起きたりするのは寒冷期による食糧難という側面も多分にあったらしい。


大体が現在(第四紀完新世)という時代がちょっと長めの「間氷期」と考えた方が良い。

Q4.第四紀とはどんな時代なの?
A.寒冷化と人類が進化した時代です.
日本地質学会 - 地球史 Q&A

現在の地球の気候は長期的に変動していて、「氷期(「氷河期」ではなく、正式にはこう言う)」と「間氷期」を繰り返している。
「氷河期なんて化石の時代」という認識は思いっきり甘くて、前の氷期が終わったのはせいぜい1万年程度。
もう人類は武器も使えば、毛皮を着込んで北極圏を歩いていた。

Woolly Rhinoceros Hunt - Horniman Museum, London. / Jim Linwood

海水面が安定しているのはここ2000年程度と言われる。(その前は現在より海水面が3〜5mほど高かったらしい)


温暖化による海面上昇なんて、地球の気候変動による海面上昇に比べれば全然たいしたことは無い。
だから「温暖化で氷期を打ち消すほど温かくなれば、生活しやすいしちょうど良いじゃん」という意見が、
真面目な学術論文でもあるし、実際にそういう地域は少なからずある。

要は加減の問題

100%手放しで温暖化が良い、という話はさすがに少ないが、逆に100%温暖化が悪い、という話でもない。
ただ「温暖化の速度が速すぎて問題」という意見は多くて、それに対する反論も少ない。


わかりやすい例としては、「植物の移動速度」がよく取り上げられる。
寒い地域で、針葉樹林も生えないエリアをツンドラと言うが、温暖化が進むとこの地域にも針葉樹が生息できるようになる。

Tundra landscape / TimWilson

ところが、植物の移動速度は遅い。
特に生育に時間がかかる針葉樹では、北進速度が年間1.5km(松など)〜0.3km(樅など)と言われる。
これに対して、現在の温暖化による生息域の移動が年間2〜3km。
つまり、温暖化に植物がついて行けていない。
結果として生息域が狭くなっていて、場合によってはそれが元で絶滅する種が出てくる。
動物は当然もっと速く移動できるが、植物に依存する種も多いので、森が死ねば死んでしまう動物も出てくる。
この件についてはこちらの方が、ブログで詳細に解説されている。
・リンク → タッチャンの散歩 - Yahoo!ブログ

困るのは「地球」じゃない、「自分の生活」だ。

実際に温暖化が進むと砂漠は勝手に緑化するが、現在の温暖なエリアは砂漠化する。
要は、今生活しやすいエリアほど、温暖化により生活しにくくなる。
今生活しやすいエリアとは?簡単に言うと、主に先進国がある地域。
つまり、温暖化で一番騒いでいて、一番困るのは環境意識の高いヨーロッパだ。
これがこの本での結論。

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

いや、まぁ実際にそうだと思うよ。

「温暖化」対策なら簡単だ。

本当に「地球温暖化」だけが問題なら、実は対策はそれほど難しくない。
観測史上でも、地球が急激に寒冷化した例を二つ知っている。
一つはフィリピンのピナトゥボ山(ピナツボ山、Mt. Pinatubo)の噴火、もう一つは湾岸戦争での油田からの煙。

Aerosol Eruptions / NASA Goddard Photo and Video

要は、巨大な雲がずっとあると、地上は寒冷化する。
「じゃあ、どんどん油田に火を付けて、煙を出せばいいんだ!」
と思うのなら、それは当然大きな間違い。
温暖化はそれ自体が問題ではなく、それによる生活への影響が本当の問題。
桜島や黄砂の例を取り上げるまでもなく、厚い雲が続くと植物が育たなくて食料の供給も難しくなるし、
湾岸戦争では周辺国の大気汚染も深刻な問題になった。
結局は人類が「今のような豊かな生活を、今後も続けていきたい」というのが地球温暖化対策」といえる。


身も蓋もない言い方をすると、温暖化がいくら進んでも、それ以上の災害を地球規模では何度も経験している。
温暖化で、人類の枠を越えて問題になるのは「生物種の減少」だが、
これだって過去数回の絶滅に比べれば割合としてはたいしたことは無い。
(ただし生物種の減少速度は、地球の歴史上最悪のペース)

「あしたのために」

つまりは、「明日の生活のために、温暖化はちょっと抑えましょうよ」というのが事実だと思う。
で、そういった方が良いと思う。
温暖化は、そんな悪くない。
でも、余りに急激な温暖化は、みんなにとって明らかに悪い。

Desert / Moyan_Brenn (I'm Back)

だから、温暖化のペースを抑えましょう。
そうしないと、本当に食料がなくなりますよ。
温暖化についての、個人的な意見はそんなところ。
だから、温暖化対策自体には反対しない。


温暖化の話は、未だデータが足りず分かっていない部分の方が多い。
だから、「これで解決」と言ってしまうシンプルな話は疑ってかかった方が良い。
みんなが自分で考えることが大切ですよね、という当たり前の話がオチになるのかな。
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・リンク → 日経サイエンス
この本が唯一、と言うわけではないが、いくつか読んだ中では結構好き。
(もう一つ好きだった雑誌は休刊してしまった)
日本でも、もっと科学好きが増えてくれれば良いなと思うので、今日はむしろそちらのご紹介。