ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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PDCA、回ってる?

社会人になって最初に研修で習う物、というと
PDCAサイクル「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」はかなり上位に来るんじゃないだろうか。
そしてそれだけ重要視されながら、良く問題になるのもこの辺だったりする。
このPDCAPDS)について書かれた本がなかなか面白かった。

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

著者の提唱する「Ph.P手法」についての解説書なんだが、
乱暴に一言でまとめてしまうと
PDCAサイクルでは『P(Plan)』がなってない。Pを5段階に分解し、きちんとやろう」
という話。


この本、感想から言うが、提案する手法自体も面白いが、その上文章が上手い。
この著者がとても頭が良くて、蘊蓄もある。
引き出してくる例が一々面白くて、それだけでも参考になる。
ただ、これだけ頭が切れてロジカルな人が上司だとやりにくいかもなぁ・・・
とか要らんことを心配してしまったり。

It is Logical / topgold

※写真は本文と関係ありません。「ロジカル」といえばこの人。

7つのフェーズとは

自分の理解を深めるためにも、内容を簡単にまとめてみる。
著者の提唱する「Ph.P手法(Phased Planning)」は全7段階、うち5段階がPDCAで言う「P(Plan)」にあたる。
説明したい内容は、目次を見れば分かる。

  • Step.1:「現状」をつかむ
  • Step.2:「原因」を探す
  • Step.3:「目標」を定める
  • Step.4:「手段」を選ぶ
  • Step.5:みんなの「合意」を得る
  • Step.6:手段を「実施」する → D(Do)
  • Step.7:結果と目標を「比較」する → S(See)またはC(Check)

著者曰く、PDCAが上手く回らないのは、Pの切り分けがきちんと出来ていないためだと。
特に「手段」と「目標」の混同が多いこと、目的を「意識していない」場合が多い事を問題している。

「手段」と「目標」の混同

ある「目標」を達成するための「手段」は、多くの場合多層化する。
例えば家電量販店がチラシを撒いて、「来店で粗品プレゼント」というキャンペーンを張るとする。
この場合目標は「売り上げ」だが、そのために「来店数を増やす」という小目標を設けている。
「売り上げ増」という「目標」のための「手段」が、「来店増」なわけだ。
その「来店増」という「目標」のために、「粗品プレゼント」という「手段」を実施する。
こうして、目標を達成するために、多層化して手段を組み立てていくことになる。


言っていることは至極当たり前。
でも、この「手段」と「目的」の混同が多いから、しっかり分けて考えろ、
と強調するためにわざわざ別フェーズとして捉えられている。
本書で挙げられているのは、「全勝することを目標として掲げた野球監督」という例。
「全勝」は実際には実現不可能なので、目標としては適切ではない。
でも「優勝する」という目標に向けたスローガンとしては適切かもしれない。
ただ、この場合は「全勝を掲げる」ということが優勝のための手段であって、
「全勝する」ということが目標ではない事を認識する必要がある。

Slogan of an elementary school "be right, be tough, be cheerful" / matsuyuki

※こういうのも「目標」ではなく「スローガン」と考えた方が良いのかな。


これもまた、文章にするとややこしいが言っていることは当たり前。
だが、自分の身で振り返ると確かに思い当たる節がある。
会社でも途中プロセスの数値目標を掲げることは多いが、それが長年続くと
「プロセス数字を達成することが目標」という状況になる場合がある。
そうすると「プロセス数字を誤魔化すためのテクニック」が横行し、
「プロセスとしてはきちんと出来ているのに、目標が達成できない」という状況になる。
上層部がこの対策に数値目標を積み上げると、現場では誤魔化しのテクニックだけがどんどん発達する。
(実質上、誤魔化しのテクニックでも使わないと達成できないプロセス目標が常態化する)
こんな現場の問題は、上層部の「目標」と、現場の「目標」が一致していないことだ。
「活動量は基準通りやりましたが、売り上げは達成できませんでした。景気が悪いので仕方ありません」
こんなセリフが長期間、みんなから出るような現場は、むしろ仕組みを見直した方が良い。
現場からの遠回しな経営批判だと思った方が良いんだろう。

「意識してないこと」

会社は営利団体だから、利益のためなら何をしても良いのか?
法を遵守する限り何をしても良いはずだが、実際には「そんな稼ぎ方は卑怯だ」「モラルがない」などと言われることがある。

ドリランド Doriland / Zengame

※写真と本文は関係ありません。関係ありませんって。
ただ、法令を遵守している限りは何をやっても本来良いはずだ。
また、改善を行ったつもりが、元々持っていた良い部分を壊すことになり、結果として「改悪」になることもある。


どちらの例も、「目的」を意識し切れていなかったことが問題だと筆者は指摘する。
「モラルがない」ことを気にせず事業を進めるのなら良いが、
それが問題になるなら「世間の常識の範囲内を越えてはならない」という「目標」を設定しない事が悪い。
また、「改悪」は、現状の「良い点」を認識していないために起こる。
まずは現状を認識し、その「良い点を維持しつつ改善する」という「目標」をあらかじめ設定しなければいけない。
適切に目標を設定すれば、副作用は生じないと筆者は断言する。


例えば自分のブログで考えてみる。
ブログを書くからには、PVを伸ばしたい(目標)。これはブロガーなら共通の思いだと思う。
PVを稼ぎたいなら、ダミーのアカウントではてなブックマークを付けまくったり、
アダルト情報を発信したり、2chまとめ情報を載せるなど色々な方法がある。

はてブ: 空の情報バー / hail2u

でもそれをしない理由は何か。
このブログの「目的」はアダルト情報の発信ではないし、
「自分が卑怯と思うことはしない」という「基準(目的)」に則り、ダミーアカウントも使わない。
「自分で考えた情報を付加価値として配信する」という「目的」があるので、コピペブログにもしない。
そういった「やるべきこと」「やってはならないこと」という「目的」が明確なら、
それに従って取る手段も明確であり、結果は「目的を達成したか」で測られるので
「目的は達成したが、××という問題(副作用)があった」というのはあり得ないと。なるほど。


「やってはならないこと」という目的をあらかじめ明確にしましょうというのは面白い。
あらかじめ「こっちに行ってはいけない」という基準が明確であるほど、手段の選択が適切になる。
ちょっと話がずれるかもしれないが、すき家が何故、警察から再三の指導を受けても防犯対策をしなかったのか?

すき家末広町 / sun_summer

それは従業員の安全や地域の治安よりも、会社の利益にプライオリティを置いているから、ということだろう。
良い、悪いではなく会社の方針の問題だ。
会社としてそういう優先順位を設けているのだから、警察や地域住民が防犯をして貰いたいなら
「警告」や「批判」ではなく、利益に影響が出るような「罰金」「営業停止」「不買運動をしなければ意味が無い。
営利団体であるすき家ゼンショー)がルールに則って利益を上げている限りは、それを「ずるい」というのはおかしい。
(この件にしろ、和民の件にしろルールを守っているかが既に問題なんだけど・・・今回の趣旨ではないので触れないでおきます)

シンプルだから、深い

上にも書いたが、この本で言っていることはシンプルで、
結論と、良くある間違い、弊害を実例を挙げて書くスタイルになっている。


だから面白いし、読んだだけで分かる気になってしまう。
今回の記事もなるべく自分で考えて実例を挙げるようにしたが、
これを読んでどう生かすかが大事なんだなと思わされる、なかなかに良い本だった。


新入社員はさすがに厳しいかもしれないが、組織で数年以上働いている人には誰でも役に立てられる本だと思う。
そして、実例がなかなかに面白いので、読み物として普通に面白い。
ちなみに本書の言い方を取り上げると「公務員からテロリストまで(p47〜48)」役に立つと。
個人的にはその言い方ってむしろ狭くないか?と思うんだが、著者の言いたいことは
「信条に関係なく、どんな立場でもマネジメントという本質は同じだ」ということらしい。
それには賛成です。


なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

なぜ、日本人はマネジメントが苦手なのか

手放しで賛美もアレなので、一言付け加えておくと、この本の「日本人は」という言い方には少し不満。
欧米賛歌、という訳ではないが言葉の端々に「日本人のここがダメ」という言い方がある。
個人的には著者が言うほど「日本人だからダメだ」とは思わないけど。
文部省の課長だったそうで、分析とか周囲の調整とかで苦労されたのかもしれないけど。
ただ評価基準についての考え方がちゃんとしていないのが国民性、という部分は賛成かな。