ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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新ディスプレイ考・2:新しいディスプレイの形

現在の大型テレビ市場が価格破壊で総崩れになっている現状を昨日は書いた。
・リンク → 新ディスプレイ考・1:今のテレビ業界の惨状
では、新しいディスプレイの形とは何か。
個人的は、それは「立体テレビ」だと思う。

3Dテレビはダメなんじゃないの?

3Dテレビは失敗だと昨日言ったばかりでは?と思うだろうが、
今の3Dテレビは「三次元の表示」ではない。二次元の絵に、奥行きを持たせているだけだ。
だから「3D」と言いつつ見る方向や位置、メガネなど色々な制限がある。
「本当に三次元に見える」ということは、つまり「そこにあるように見える」ということだろう。
それには本当に奥行きのある立体で表示して、斜めから見ればきちんと斜めが見える物で無ければいけない。


今の3Dテレビでは、はっきり言うと具体的なメリットがない。
最初はびっくりするけど、「だからなんなの?」というのが3Dテレビの正直な感想だった。
似たような感想の人、多いんじゃないかな。
初めてテレビを見たときの感動、初めてカラー映像を見たときの感動はそんなモンじゃなかったと思う。

モノクロネガ 14 / Yasuhiko Ito

「正にそこにあるように」
これはテレビの原点で、三次元で見られるテレビというなら、それを目指さなければならない。

立体テレビは生活の何を変えるのか

立体を立体のまま見られれば、生活の何が変わるだろう。
たとえば「お店に行かなくても、ネットでより安心して買えるようになる」
ネットショップやカタログ通販では、どれだけ写真を拡大しても分からない部分がある。
三次元のテレビで立体的に見られれば、大きさ感もわかり、今より安心して買うことができる。
例えばこれって、生活を変える一環にならないか。


もちろん皮の質感のような触り心地、靴の履き心地、枕の柔らかさなどは分からない。
実際の物を見ないで、100%通販にできるわけはない。
あくまで三次元で見られるなら、現在の不満が、一部でも解消する手段になれるのじゃないかということ。
通販の中心が紙からネットへと切り替わっている、その延長線上にあると考えれば良いと思う。


テレビによって、簡単に訪問できない遠くの情報をみんなが手に入れられるようになった。
立体テレビは、それが「どんなものか」をよりリアルに知ることが出来る。
これって、何かワクワクする使い方が出てこないだろうか。

ではどんなディスプレイか

市販されている奥行きを出すだけの3Dテレビではなく、
現行の技術で、本当に立体を表示できるディスプレイ方式はいくつかある。
どれも解像度や装置の大きさ、特に価格面がネックになっている。
これから挙げる技術も、ほぼ同じ発想の技術開発がされているのを知っている。


今回このネタを書いたのは、今このタイミングだから市販できるアイデアとして面白いと思ったから。
細かい実現可能性は詰めていないので、「そういうのが出来たら面白いよねぇ」程度で捉えて頂けたら幸い。

多層式三次元ディスプレイ

今ではこんな方式にも特許が出ているのだろうか。
平面を、たくさん重ねると立体に見える。
ならば、とにかくたくさん液晶を重ねれば三次元表示が出来ないか?
そんな単純なディスプレイがあったらどうだろう。


実はハーフミラーを使用した二面・三面の立体視装置は以前から開発されているが、
装置が大きくなること等からなかなか実用化されていない。

・リンク → 前後2面のLCDを積層したDFDディスプレイ − NTT技術ジャーナル online
市販されていないので、展示会で見たことがあるレベルだが、実際二層・三層でも
この論文にもあるとおり人間の脳が補完することでそれなりに立体的に感じる。
それなら10層、20層もあればほとんど違和感なく、立体が表現できるのではないか。

多層式三次元ディスプレイの作り方

液晶には、テレビで使うような不透明な物だけでなく、窓で使われる透明な物もある。
電気を通すと、特定の部分だけを不透明にすることで
直射日光によるまぶしさの防止や、プライバシーの保護に使用されている。

・リンク → スイッチ一つで変化するガラスでリフォーム[窓・サッシ・玄関ドア]All About
・リンク → UMU world:ウムフィルムの機能
この透明な液晶をたくさん重ねて、順に画像を表示させることで立体を表示できるのではないか。

もう一つ、多層にするとたくさんのガラスを重ねるので、「透過率が問題になるのでは?」と思われる方もいると思うが、
先日「見えないガラス」として透過率99.5%というとんでもないガラスが開発されている。(2011年10月)
透明配線の問題はあるだろうが、こういった素材改良の面からも、この方式は検討の余地があると感じた。
・リンク → 日本電気硝子の見えないガラス、視感反射率は0.1%以下  :日本経済新聞

色はどうやって出すの?

液晶は色を持っていないので、そのままでは色がない。
液晶ディスプレイではバックライトからの光に、「カラーフィルター」で色をつけることでカラー表示をしている。
だが、多層ディスプレイでカラーフィルターは入れられない。
それだけで見た目が真っ黒のカタマリになってしまうからだ。

Emergence of mysterious Black Box DDC_0348 / Abode of Chaos


そこで、液晶はあくまで一色だけにする。
そこに、外部からレーザーで画像を投影し、カラー表示させる。
多層ディスプレイといっても、レーザーが照射できるのは一面だけなので、
順に液晶をONし、それぞれに対してレーザーを照射することで一面ずつ画面を作り、その残像で立体を表示する。


実際に半透明のガラスにプロジェクターで画像を投影するシステムは実用化されていて、
店舗用などの業務用で使われている。

・リンク → プロジェクタ用透明スクリーン『Crystal Illusion Screen』 の販売を開始−DNP 大日本印刷

順番に表示って、表示が遅くならないの?

例えば20面のパネルを重ねて、一面の表示に1/20秒(0.05秒)かかった場合、三次元全体を表示するのに1秒かかる。
これでは動画は表示できない。
ところが都合の良いことに、今の液晶ディスプレイの表示速度は速い。
4倍速(240Hz)の更新速度なら、20面重ねても秒12回、3次元が表示できる。
テレビの動画が秒30コマ(30fps)、映画が秒24コマなので、
普通のディスプレイにすればカクカクするが、秒10回を超えれば経験上「動画」として十分使える
不満はあれど、とりあえず使えるレベルではないだろうか。

今の時代だから、多層三次元ディスプレイ

液晶テレビの低価格化に各社が困っているが、逆に考えれば安いのならたくさん使っても大したコストはかからない。
DisplayBankによると2011年12月現在、モニター用20インチパネル原価が$60(現在のレートで約4,600円)
・リンク → Displaybank - All About Display Industry & Beyond
今回のシステムではカラーフィルターなどを省けるし、自社工場ならもっと安いだろう。
一枚3,000円として、20枚で6万円(パネルのみ)。
他の三次元システムが原価レベルで何十万、何百万している事を考えると、ものすごく安く提供できる可能性を秘めている。
できあがった三次元表示システムは今までのテレビとは全く別物なので、競合しないし、高い付加価値を付けて販売できる。


このテレビが出来たら、形状は「箱」になる。
置き場所はテーブルの上になり、壁に離して置かれる大型テレビとは全く別物になる。
液晶パネルを内製しているメーカーが圧倒的に有利になるので、サムスン・LG・シャープが製造可能で、ソニーには難しいだろう。
むしろこのタイミングで台湾のODMメーカーがテレビに参入してくるかもしれない。

P1070330 / fanglan


新しい原理・技術の商品は、工業用や研究用で始まり、ある程度こなてれから民生に降りてくることが多い。
それは技術やサポートの面もあるが、生産台数を徐々に上げることで生産コストを下げるという面もある。
ディスプレイに関しては、もう限界と言うぐらい生産の効率化が進んでいるので、
いきなり民生品として作らないと、競合に先行されて生き残れないかもしれない。

ディスプレイにも、未来を

三次元ディスプレイやホログラムは、SFやアニメを紐解くまでもなく人類の夢だと言っていい。

Two Holograms: Rimmer and Leia / ssoosay

3Dテレビの失敗は、「三次元なんて要らないんだよ」ではなく、まだみんなの求める三次元に足りていないという教訓だと思いたい。


家電業界ってやっぱりそういう「未来」な感じのする物が引っ張って盛り上がって欲しいよな、と思う。
昔はそれがトランジスタラジオであり、ウォークマンであり、コンポであり、iPhoneだったんじゃないかと思う。

New Transistor Radio Group 1 / alexkerhead

10年と言わず7〜8年前のテレビ業界もそうだった。
「これからはプラズマだ」「いや、実は有機ELの開発が進んでいて」「アメリカじゃリアプロが注目されているらしい」
こんな会話があって、それぞれの方式に各社が投資をして、盛り上がっていた。
当時、テレビが薄く大型になり、高画質化することで、見たことが無い映像を気軽に見られるという夢があった気がする。
スマートフォン太陽電池の次の事業として、どこか本気でやらないもんかなぁ。


これだけで終わるのもアレなので、もう二日続きます。


続き
・リンク → 新ディスプレイ考・3:薄いディスプレイはどこに行く
・リンク → 新ディスプレイ考・4:みんなが嬉しい電子書籍