電通が生き残るための道
- 作者: 山本直人
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/12
- メディア: 単行本
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大きくまとめると、電通は拡散型のマスマーケティングを牛耳り、
リクルートは住宅情報や転職情報など、個人に向けた情報を収集・整理し発信する能力に長けていた。
この二社を取り上げて表題としたのは、この二社が一番成功した時代がそれぞれ高度成長期と、
バブル・平成不況期であり、それぞれの世相を表すのにこの企業のビジネスモデルが良い切り口になるという
筆者の意見によるもの。
それぞれの企業のビジネスモデルを図示するとこんな感じか。
電通
「マスメディア」という大きなパイプがあり、そこに流す情報の仲立ちをするのが電通。
本書の中ではマスに対して発信する「発散志向広告」と定義し、
特にテレビやラジオに関しては電波という公共物の「元栓を押さえる」ことで
ビジネスモデルを作り上げていると分析する。
リクルート
大小様々な企業の思惑を吸い上げ、それを整理整頓して発信するのがリクルート。
本書の中ではターゲットとなる顧客層に対して発信する「収束志向広告」と定義され、
様々な企業の情報を「毛細管」のように吸い上げ、ターゲットを絞ってピンポイントで発信することで
ビジネスモデルを作っていると分析する。
21世紀型モデル
とすれば21世紀型は消費者が自ら発信するタイプの会社が主体となるのかな。
それはtwitterであり、Facebook、日本ならクックパッドであり、ニコニコ動画だろうか。
企業はプラットフォームの整備を粛々と行うことに意味があり、コンテンツは消費者が自ら作り、
加工し、拡散する主体を担うことになる。
こちらも図示するとこんな感じか。
発信者=消費者であり、明確な線引きは存在しない。
もちろん企業も発信するが、あくまで一ユーザーでしかない。
電通という会社
マスメディアから個人が発信する時代へ、話をまとめた書籍と言ってしまうと良くある話で、目新しさは無い。
ただ、リクルートは雑誌からネットの時代になってもスムーズに移行できると本書では分析しており、
実際にリクナビを始め、ネットサービスでもリクルートが最大手というジャンルは多く存在する。
これは元々が大口・小口の雑多な情報を集めて整理すること、
ニーズに合わせて新しい発信方法(従来なら雑誌)を提案することに長けていたという企業特性の分析からの結論。
こう読んでいくと、電通という会社に興味が出てくる。
dentsu / d'n'c
日本の4大マスメディア(新聞・テレビ・ラジオ・雑誌/書籍)への広告出稿時には代理店を通す。
この「窓口」として機能しているのが電通や博報堂。
この寡占事業を、本書では「蛇口を押さえている」と表現している。
この事業をメインに置いている電通は、マスメディアの広告減の影響をモロに受けるし、
ネットへの移行が苦手と本書でも分析している。
ネットの蛇口?
ネットの特定界隈では電通の評判はすこぶる悪いが、そこでは電通は
「ありもしないブームを捏造する悪の企業」として捉えられているように見受けられる。
しかしブームを仕掛けて成功したとしても、電通への実入りは数億〜数十億が良いところでは無いだろうか。
電通の売り上げは09年度で1兆3150億円(単体)。
このうちの6割はマスメディア向けの広告。
個別の案件としてブームの仕掛け人的なことをやっているかもしれないが、企業の「事業」として考えると
柱となる収益の仕組みをどこで作れるかが問題になる。
では評判の悪い「ブームの仕掛け人」をいくつか見る中で、「継続した収益」を作ろうとした物はあるだろうか。
一番に思いつくのは「セカンドライフ」。
NISSAN / Daniel Voyager
正確には仕掛け人は電通か博報堂なのか分からないが、
「ネットの世界で、仮想の土地を大量に押さえて新規参入組に売りさばく」
という考え方は「蛇口を押さえる」という方向に向いていて、この収益構造に近いことが分かる。
もちろん結果は周知の通り。
電通の未来
マスメディアの蛇口を押さえる、という安定収益に頼った収益構造は将来的に不安定、
そんなことは分かっているが、数千億円規模の売り上げが安定して発生する4大マスメディアへの依存は変わらない。
特に電波という認可制の配信事業を持っているテレビは競合参入が無く、完全な既得権益。
中期計画では4大マスメディアの依存はこれから低下し、新事業比率が高まるとしているが、
私の読解力が低いのか、何を書いているか分からない。
・リンク → 電通グループ中期計画
「自社の強み」も「注力分野」も書いてあるんだが、全然理解できない。
これ、業界の人なら分かるのかな。
ネットの本当の蛇口
1兆円の売り上げの半分は今後もマスメディアから入るとして、数千億規模の売り上げを新規に伸ばしていかなければ
電通という会社の未来は暗い。
では今の時代に新しい「蛇口」は何か?
Faucet / Shaylor
普通に考えればもちろんネット、ということになる。
ではネットの「蛇口」とは?
プロバイダーやDNSという言い方もできるが、現実的にはやはり「検索」と「プラットフォーム」だろう。
今更にしか見えない意見だが、電通が今までと同じ「蛇口を押さえる」事業を行うというなら、
検索サイトを自前で作り、ポータルとして押さえればいい。
つまりGoogleに勝てば良い。
なぜ「電通が」?
日本で検索が盛り上がらないのは、Googleが強いという話の他に、
データを自前で収集して解析するという検索の仕組み自体が法律的に引っかかるという問題がある。
Immigration Reform Leaders Arrested in Washington DC / Nevele Otseog
つまり日本企業であり、日本にサーバを置く時点でおおっぴらに検索には手を出せない。
しかし、だからこそ電通ならやる価値が出てくる。
電通は日本の広告の元締めのような会社で、マスメディアに強い分大企業とのパイプが強い。
また大企業だけでなく、官公庁とのパイプもある。
こんなにあらゆる巨大組織とのパイプを持っている会社も無い。
今まで日本の会社が行うには「いかにルールをすり抜けるか」という前提だったが、
電通がやるなら、まず「ルールを変える」所からやれば良い。
それなら日本で最初で、唯一の会社になれる。
Googleに勝てるのか?
次にポイントになるのはどうやってGoogleに勝てるのか。
まず数百億〜数千億規模の投資をしなければいけないのはもちろんだが、
電通ならではの独自性を出さなければいけない。
例えばテレビが広告によって無料で運営されているように、ネットや電話、アプリを無料で運用する仕組みを作るとか。
ネットでの検索ではないがスマートフォンのアプリ向けの広告もある。
admob_02 / hahatango
(実際、AdmobはGoogleに買収された。無料提供しているアプリが儲かっているかは別問題)
ネットで無料で運用して、広告収入だけで成り立っている業態としては例えば「Jコミ」がある。
・リンク → Jコミ
ここは絶版マンガを無料公開し、その広告収入だけで成立している。
こういう「仕組み」を押さえなければいけない。
数百億、数千億規模の事業は小さい物の寄せ集めでは無く、メインの大きな軸足が必要になる。
それをネットに求めるなら、「セカンドライフ」のようなできあがったものに乗っかるのではダメで、
ある程度リスクを取って自分が仕組みを作る部分が無ければ難しい。
要は電通という会社がそういう無茶をできるかが、生き残れる(成長できる)カギじゃ無いだろうか。
スマートフォンや検索など、ネットの世界では置いてけぼりの日本企業の中で、
電通のような大企業が本気でやって、突破口が見えれば面白い。
もちろん普通に考えれば、会社の仕組みやら何やらで潰されると思う。
ただ既存の事業からの数千億の売り上げがある今のうちが、大規模投資へのラストチャンスとも言える。
電通、頑張れ。