20代の若者が「走る楽しさ」なんかに目覚めるわけが無い
トヨタ「86(ハチロク)」が発表された。
ターゲットは「20代の若者」、目的は「走る楽しさ」を届けたいと。
とりあえず車に興味の無い30代からの意見としていわせて貰うと、
ターゲットに対しては売れないと思うなぁ、これ。
発表報道での違和感
ニュースやネットの記事を見ていてものすごい違和感が。
まずニュースではトヨタ系列店を集めての市場イベントを実施。
開発者は「まずエンジンをのぞき込むような車ができて嬉しい」とコメント。
試走はプロドライバーを付けて、S字走行や急発進・急停止といった走りを実感するイベント。
なるほど。
走りは凄いんだろうと思う。
でも、「街中ではできない走りなのでサーキットで」って、最初に言い切っている時点でどうなんだろう。
明らかに「車に詳しい人」向けの話ばかり。
結局、若者は買っても走れないって事じゃ無いのか?
AE86を知らない僕ら
そもそもが「86」というネーミングセンスがどうなのかと。
開発名称「ft-86」はどうでもいいが、30代の自分ですら「ハチロク」はマンガやゲームの中でしか知らない。
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実際ニュースを見ていても、開発者やモーターショーの来場者、販売店やコラムニストなど
みんな30代・40代で「この車は凄い」「復活して嬉しい」とか言っているが、
そういう分かる人向けの、オジサンの向けのネーミングとコンセプトになっていないか?
自動車を買ったことの無い人達
そもそもターゲットにしている20代とはどんな世代か。
「ゆとり」 / june29
「20代」とひとくくりにしても大学生から新社会人、中堅になろうとしている社会人8年目まで含むので
あまり世代論はしたくないんだが、自動車工業界が調べてくれている資料を分析してみる。
・リンク → 2009年度 乗用車市場動向調査
この中で読み取れることはかなり色々あるが、今回のことに関連して言うと、
自動車を持っていない人達の特徴は「都会に住む」「独身者」「低収入」ということ。
都会では自動車は要らない
引っ越しの回数が既に15回という自分自身の経験から言っても、都会では自動車は要らない。
都会の自動車は金食い虫の上に、結構効率が悪い。
調査でも大都市圏になるほど所有率が下がっている。
このデータでは都市と地方の差は数%に見えるが、首都圏での詳細分析では23区内だけ激減しているのがよく分かる。
これは実際にそうで、都市と言っても調査は「都市圏」として行われるので都市辺縁部の住宅街では
車社会になっていることも良くある。
独身なら車は要らない
同じく今度は年収やライフステージで切り取った所有率。
年収5分位とは、この調査独自の年収クラス。
自動車の所有率が激減する「第1分位」は年収平均127万円のクラス。
これが全体の1/5を占める。
世帯年収だから、実際には学生や高齢者などの単身者という区分になると思われる。
というかこれが1/5も占めるのか・・・
高齢者になって車が不要になる、あるいは運転に不安があるので車を手放すのなら分かるが
実際には独身者の方が所有率が低い。
自動車を持たない理由の第一位は
自動車を持たない理由も調査している。
今まで自動車を持ったことが無い人に、その理由を聞いている。
複数回答もあるが、要素が複雑になるので単一回答をピックアップする。
なんと一位はぶっちぎりで「免許を持ってない」こと。
バラツキはあるが自動車を持っていない人の約半分は免許をそもそも持っていないと言うことになる。
つまり「車を持とうと考えたことすら無い」人が半分ということ。
この意味ではトヨタのCMでドラえもん(ジャン・レノ)が「免許無いじゃん」と
のび太くんにツッコミを入れた図というのはネタでは無く、「そうだよね」と共感を得る図と言える。
まとめると
このほかの資料もあるが、全体をまとめると、結局若者は免許を持っていないし、
金も無いので自動車を買う気が無い、ということになる。
結婚して、あるいは子供ができて自動車が必要になるとようよう自動車を買うという流れだろうか。
子供ができて、というのはライフステージとしては家を建てる時期とも近い。
都会から家を購入して郊外に行くと、生活環境として自動車が必要になるということかもしれない。
とにかく、その段階では「必要に駆られた」自動車の購入になる。
SAKURAKO. Sleep in car. / MJ/TR (´・ω・)
自動車に興味が無ければなおさら自動車が「買わざるを得ない」感が強くなるだろうし、
ライフステージとしても無駄なお金は使えない。
トヨタがやるべきこと
本当に20代に売りたくて、「走る楽しさ」というのなら、その「場」を用意してあげる必要がある。
強力なトルクで、高速まで伸ばせるパワーがあったところで、街中では迷惑で、危険でしか無い。
それを分かって「走る楽しさ」なんて言うのは詭弁でしか無い。
本当に良い車を、走る楽しさで公道で実感させたいのなら、日本にもアウトバーンを作る必要がある。
知り合いは社会人になってすぐにスカイラインGT-Stを買っていたが、なんでこんな車を買ったか聞くと
「週末にはゼロゼン(1000mの直線レース)にでているから」と言っていた。
彼なりには「走る楽しさ」を良く分かっていたわけだ。
自動車の趣味の方向にも色々あるが、「走る楽しさ」という方向性の人達は日本では多かれ少なかれ法律を犯す必要がある。
法を変える
アウトバーンなのか、いろは坂の夜間限定封鎖なのか知らないが、表だってレースできる場を用意する。
レースで無くてもいいが、「この場所・この期間なら速度制限はありませんよ」といってやる。
Auf der Autobahn / Last Hero
場所を作る
日本でサーキットと言えばどこだろうか。
鈴鹿サーキット・富士スピードウェイ、最終目標として「走ってみたい場所」としては良いかもしれないが、
免許を持たない大学生・社会人に「自動車ってこんな面白いんですよ」と伝えるにはハードルが高すぎる。
逆にF-1が走るわけでは無いので、そこまで大きく・しっかり作らなくて良いし、極端な話、オーバルでも良い。
Circuit Carole / zigazou76
とにかく「走る楽しさ」の教習所が必要。
繰り返すが、相手は免許も持っていない、金のない学生・社会人になる。
彼らが自動車に興味を持って貰うための、「入り口」として自動車を走らせる場所を提供してやる必要がある。
つまりは遊び方
自分もそうだが、「車の走る楽しさ」とか言われても、それがどんなものか、というより
「それをどう楽しんで良いか」分からない。
趣味として車を走らせるなら、それは公道のドライブであるべきか、サーキットのレースであるべきか。
公道を快適に走れれば良いが、今の日本の道路事情・道交法・環境指向ではそれは進むべき方向では無いと思う。
つまりは自動車を一つの趣味として捉えたときに、その遊ぶ「場」もメーカーが提示しなければいけない。
今のトヨタのスタンスは、「スキー板は作ったからどこでもスキーしてこい」と突き放されている気がする。
スキーでもゴルフでも、それを遊ぶ場がしっかり整備されているからこそ趣味として成立している。
ゴルフクラブだけを販売されてゴルフ場が無かったら、駅のホームで一人素振りをするしか無い。
はっきり言って今のスポーツカーの売り方はそれに近いと思う。
From Larry Sultan's 'Pictures From Home' / Voyou Desoeuvre
トヨタがやっていることと、ハチロクの未来
実際、トヨタは若者に訴えるべくCMやゲーム連携などをやっている。
でも、それは「面白い」だけでそこから車に繋がるには大きなギャップがあると思う。
車を楽しむには「体験」させなければいけない。
その間のギャップを埋める手法が、今のトヨタの手法からは欠落している。
ではハチロクは大失敗して売れないのか?
これに関してはまだまだ未知数。
ハチロクはトヨタがしばらく離れていた「純粋なスポーツカー」という特徴があり、
名前からしてもオジサン世代が大喜びで飛びついている。
価格も200万円台から。
ということは40代の趣味のセカンドカーとしてそれなりの地位を作れてしまう可能性もある。
トヨタはネーミングからしてそこもターゲットにしていると思われるが、
それで成功してしまうとまた若者の車離れは一層加速することになるというリスクも同時に持っている。
個人的にはスポーツカーには興味は無いし、そんなことよりさっさとオートクルーズ(自動航法)が実用化して
運転なんかしなくて良い世の中になれば良いのにと思っているが、
相変わらずそっちは日本メーカーは本気で無いみたいで悲しい限り。
IMG_1277.JPG / edkohler
これもアメリカが良い技術を出して席巻されて、20年後には
「実は昔は日本が世界一の自動車メーカーだったんだよ」といって
子供に「嘘だー」とか言われるのかな。