ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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半歩先の文化・サービスとは何か

「ヒットする商品は時代の半歩先」とは前にも言った気がするが、
商品だけでなく、文化やサービスも同じような物だと思う。
今でこそ伝統芸能や高尚な趣味とされる物も、最初の頃は「キワモノ」だった。


例えば歌舞伎
今は歌舞伎というと伝統芸能の扱いだが、昔の歌舞伎はそれこそ
「風紀を乱す物」として何度も禁止令を出されている。
「歌舞伎を見に行く」というと、今なら「クラブのオールナイトイベントに行く」ぐらい
ちょっとオジサンには参加しにくい、サブカルなモンだったろうと思う。

Kabuki, Sadler's Wells Theatre, London - 11 June 2010 / GanMed64

今日は文化・サービスを考えてみます

このブログは主に商品や戦略を扱っているが、対象を「文化・サービス」としてみて、
今現在、上手くいっていないものがどうやれば成功する可能性があるかを考えてみる。
文化・サービスが普及するには、一つには「目標」を作ってやることが一つだと思う。

「目標」を持って楽しむ

分かりやすいところでは「茶道」「華道」「書道」などの「段位制度」
お茶なんて自分で楽しめば良いもんだし、書だって自分で練習できるし、自分で納得できれば良い。
でも実際には、段位制度があってそれに向かって「なんとか流」に所属し鍛錬する人が増えることで
その「なんとか道」全体のレベルが上がり、裾野が広がる。

茶道 / alberth2


これがスポーツなら「国体」「全国大会」になる。
目標があるからみんな真剣に練習するし、競技としての枠組みができて専用器具も開発されプレーヤーの裾野も広がる。

第66回国民体育大会 静岡県選手団 結団式 #2011kok utai #山口国体 / HIRAOKA,Yasunobu


文化はすべからく「サブカルチャー」として始まると思う。
これが世間の認知と地位を獲得し、裾野を広げるにはどこかで「なんとか教室」という仕組みが必要になる。
ブームとしてはヒットとしても、それが50年といった単位で残って行くには、枠組みが重要になる。

「枠」のないサービス

例えば日本で始まって大ヒットしたサービスに「カラオケ」がある。
日本で発祥し、世界に羽ばたいているが、これには「枠組み」「段位制度」「全国大会」もない。
カラオケは畢竟、「歌って聞かせるのが楽しい趣味」という枠組みから動いていないといえる。

fast rap / dominiekth


今現在、カラオケの市場規模は700億円前後でゆるやかに衰退中(「カラオケ白書2011」より)

一時期のブームが過ぎて安定・衰退期に入ると人口は減少する。
カラオケは装置産業なので、ユーザーが一定以上いなければ新曲の提供ができなくなる。


まだまだそれを危惧する段階では無いが、プレーヤーが減少すると、安売り競争から
「残ったプレーヤーの単価アップ」に走る必要がある。
この際に必要になるのが、「なぜ単価がアップするのか」という根拠。
段位制度では、段位の認定や試験にかかる費用、有段者からの定期的な会費によりそのサービスの維持向上を行う。
カラオケにも、そういったサービスを導入する時期が何年か先にやってくる。

成功していない文化が成功するには

カラオケは既に成功したサービスだが、成功していないサブカル文化だっていくらでもある。
(というかその方が多い)
ジオラマやガンプラ(プラモデル)、鉄道模型だって、やろうと思えば成功の方法はあると思う。
「オレらは趣味でやってるから、細々とやって行ければいい」というのはオタクの言いがちな論法だが、
やっぱりきちんとした仕組みを作って広げることが、結果周辺機器の技術も上がり、業界に良い結果をもたらす。

ガンプラ焼き / takamorry

面白い成功事例:コスプレ

そんな中で面白い事例の一つとして「コスプレ」を挙げる。

コス‐プレ
《「コスチュームプレー」の略。和製英語だが、cosplay と書いて世界で通用する》漫画・アニメ・コンピューターゲームなどの登場人物の衣装・ヘアスタイルなどをそっくりそのまままねて変装・変身すること。
提供元:「デジタル大辞泉

ドン・キホーテなんかに行くと「看護婦コスプレ衣装」とか売っているが、本来は特定の職業の制服では無く、
特定のキャラクターになりきることだそう。

Mario / malfet_

↑これは正しい


矢野経済によると、コスプレ関連衣装の市場規模だけで2007年度、前年度比6.8%増の360億円規模。

日本に約10〜12万人と言われているコスプレイヤーの多くは、関東・東海に集中し、次に関西、東北・北海道に分布しています。関西より西は、福岡を除いてイベントに参加するタイプのコスプレイヤーは少ないのが現状です。
コスプレ市場の現状と展望 - livedoor ディレクターブログ

というか衣装だけでカラオケの半分の市場ってすごくないか?
ちなみにスポーツ人口で10万人というと結構なマイナーの部類。
サッカー750万人、剣道130万人、ラグビー42万人、ボート18万人。


日本ではマイナーの域を脱していないコスプレだが、中国では独自の進化をして、拡大しているらしい。
・リンク → 中国のコスプレ大会は国家事業である(前編)5億5000万人が見るコスプレ中継:日経ビジネスオンライン
・リンク → 中国のコスプレ大会は国家事業である(後編)この国のコスプレと寸劇の関連性:日経ビジネスオンライン
なんと記事引用は日経。
中国では国策としてコスプレ大会を開いていると。
本当かよ。
要約すると、中国ではコスプレを「衣装」ではなく、複数人の「寸劇」として行う大会を開いていると。
元々演劇を行う文化のあるお国柄なので、変身願望と自己顕示欲が相まってなかなか好評らしい。
また政府がバックについて大会を実施しているのも分かっているので、国の方針に沿った寸劇をみんなが行うことで
大会自身を国のプロパガンダとして利用しているとのこと。
(この辺はいかにも中国らしい)
ポイントは「全国大会を実施している」ということ。
目標があり、その指針が明確であれば裾野が広がり、レベルも上がる。
まさに上で書いたことを中国政府が実施していると言える。

sneaky fox / istolethetv

↑写真は京劇の物。たしかにコスプレっぽい

日本でコスプレが成功するには?

じゃあ、日本ではどうなのか?
実は世界コスプレサミットと称する大会が毎年日本(愛知県)で実施されている。

↑2011年ファイナルステージの写真。公式サイトより転載
・リンク → 世界コスプレサミット
主催はテレビ愛知らしいが、実行委員会には名古屋市」「外務省」
オフィシャルパートナーには観光庁」「経済産業省も名を連ねる。
日本の文化発信の一部という意識はあるらしい。


一応世界大会として各国代表を集めてやっているらしいが、どうも世間ではキワモノ扱いからでていない。
いくつかの方法はあるが、一つには「これが良いコスプレ」という指針を明確にすることじゃないかと思う。
例えばカラオケでは、「歌が上手い」ことが指針になる。
だから「カラオケ教室」ではいかに上手く歌うかを教えてもらう。
実際にはパフォーマンスや、他の人が歌っている間の隣との会話が最重要でも、教室ではそれを教えてくれない。


ではコスプレの基本指針は何か?
「コスプレサミット」のページを見てみたが、どうもその基準がよく分からない。
なにかの真似をするなら「より本物に近い」が正解なのか、
モデルのように「美しく見せる」ことが目的なのか、
ファッションショーのように「服を作り、着こなす」ことが目的なのか。
複数の指針があるなら、「××部門と分ければいい。
基準が明確になれば、「まずは入門としてここから」と言えるし、「一番凄いのはこれ」と言える。
それがないからコスプレとはどんな物か、という定義からして曖昧になってしまう。

DSC_0453.JPG / kazamatsuri

↑ここまで来るとコスプレとかぶり物の差が分からない。ってか仮面ライダーって剣持ってた?

新興の文化

今回コスプレを挙げたのは、それが新興の文化だから。
模型作りもなかなかに奥が深い趣味だが、歴史が長く複雑怪奇なので、なかなか極端な突破口を見いだせないと思う。

ロータリーエンジンの模型 / HIRAOKA,Yasunobu

↑でもこういうのを作っちゃう人は大好きです
また、日本で始まった文化なのに、各国で違う発展を遂げ、他国の方が盛り上がってその国で成功してしまうかもしれない。
それももったいない。


あと、サブカルチャーとしてキワモノ扱いされている現状も新興文化としては素晴らしい。
俳句だってかなりのキワモノ扱いで、一晩ぶっとおしで俳句会を開いた人間が名を挙げたりするような
バブリーな代物だったらしい。
後に残る文化なんて、その時代ではかなり怪しく見えてちょうど良いと思う。

伊藤園新俳句大賞 / june29


最後に、よく言う「時代の半歩先」にあるのも良い。
「コスプレなんかしたことないし、する気も無い」と言う人でも、京都に来たら舞妓体験をするし、
太秦では時代劇衣装、ディズニーランドに行ったらネズミの耳ぐらいは付けている。

東京ディズニーランド, Tokyo Disneyland / aginorz

それって、本当は小さなコスプレなんだけど、みんなが意識していないだけだと思う。
ハロウィーンの本場、アメリカが台頭するか、国策の中国が出てくるか、本家の日本が成功するか。
コスプレを文化としてみるとなかなかに面白いタイミングにいると感じたので、取り上げてみた。