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ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

ボードゲーム制作を行う「ペンとサイコロ」のブログです。公式サイトはこちら→http://penanddice.webcrow.jp/

高級市場の作り方:腕時計市場

わかりやすさ

腕時計は面白い

腕時計市場は凄く特殊。
どんな市場にも低価格から高価格までの市場があるが、
腕時計は1000円から1000万円以上まで、1万倍の価格差があり、しかも本質機能(時計機能)に差がない。

My Metal Banded Watches / alexkerhead

しかも高級品も、一応は量産品と言うことになっている。
家具や宝石、文房具などでも高級品はあるが、アンティークや高額素材(宝飾品)などを
組み合わせた特殊な物であることが多い。
時計はほとんどの高級品にちゃんと型式があり、一般市場で価格をつけることができる。

時計市場の歴史

時計の歴史を調べると、つい最近までは他の市場と同じような運命をたどっていたことがよく分かる。
この資料に詳しいが、補足説明を含めてここでまとめさせていただく。
・リンク → 国際競争と高度化のイノベーション…我が国製造業の競争基盤−長岡大学紀要 第2号 原 陽一郎
ブログ記事は一部参照なので、興味のある方は元論文を参照されることをおすすめする。


さて、時計の話。
どんな技術・製品についても、まず用途に対してのニーズがある。
時計の場合は「時間を知る」こと。
古くは日時計水時計から順に正確な時計が作られていった。

DSC04621 / ume-y

技術革新による価格破壊

最先端の製品は、革新的な製造技術によって低価格化が進む。
例えば

Paper Weaving / FeatheredTar

中国で発明されたとされる「紙」の製法が欧州に伝わるまで実に1200年かかったと言われる。
これは始め中国が、ついで中東諸国が製法を極秘としてなかなか伝わらなかったため。
また伝播した後も、紙の製法をぼろ布に頼った欧州では、布の回収を各家庭に対して強制的に行ったほどの巨大な産業だった。


ところが現在では紙は廉価品
鼻をかんで捨てるのにも紙が使われる。

Box of tissues is empty now / CB and GK

これは技術革新によって、紙の大量生産と、安価な加工を実現したから。
製紙業界の4大発明と言われる発明のうち、3つが1800年前後の50年間に確立している。

  • ルイ・ロベールによる長網式抄紙機の発明(1798年、フランス)
  • ロジンによるサイジング法(内添サイジング)の発明(1807年、ドイツのイリッヒ)
  • 砕木パルプを発明(1844年、ドイツのケラー)
時計市場の技術革新

時計市場を振り返る上で、最も重要な転換点は「クォーツ時計」の誕生。

Seiko Lukia / MJ/TR (´・ω・)

クォーツで正確な時計を安価に作れるようになったおかげで、
時計の「正確さ」はスペックとして通用しなくなった。
つまり時計の常識を、根底から覆した。


クォーツ時計の心臓部は電子部品なので、この主要部分さえ手に入れれば簡単に時計が作れる。
これに目をつけたのが東南アジア
今では世界で一番時計を作っているのは中国
日本は台数・金額とも世界第二位だが、その主要部品である「ムーブメント」は実は8割が日本製

new movement test run! / believekevin

※写真は掛け時計用のムーブメント
つまりどこの時計を買っても、時計としての性能はほとんど変わらなくなっていることがここからも分かる。

スイスの復興

ただ、時計市場が他の市場と異なるのはここ。
クォーツ式時計の隆盛により、それまでの時計会社がことごとく売上を減少し、多くは廃業した。
例えばアメリカ

USA Flag 1 / srqpix

1970年代のクォーツ発明前夜、アメリカはスイスを脅かす急先鋒として時計市場で地位を増していたらしい。
当時世界の腕時計生産は、スイス(42%)・日本(14%)・ソ連(12%)・アメリカ(11%)の順。
この4国で80%近くを占めている。
※出典:スイス時計製造者協会による統計
ところがクォーツ式時計の台頭によりアメリカの時計市場は壊滅。
最近の統計には国名すら表示されていない。


スイスの復興は二段階で行われたと言われる。
まずは時計会社連合の設立と、新商品Swatchスウォッチ)」の発売。

Swatch Color Codes Watch Collection / chinnian

スウォッチは当初から「対日本」を想定して、「廉価ながらファッショナブル」というコンセプトで作られた。
そのためスタイルが「1シーズンのみ、春秋発売」という洋服の様な売り方が特徴になっている。


そして上位機種、高額品市場の確立

Bedat & Co. @ Geneva International Airport ( Cointrin ) Switzerland : WATCH : WORLD : SENSE : ICON : Enjoy every minute of exploration!! :) / UggBoy♥UggGirl [ PHOTO // WORLD // TRAVEL ]

どの市場においても、衰退した前世代技術は「高級品市場」で細々と生き残るが、
スイスは高級品市場の中を数十万〜1000万以上というレンジを設けて市場の深みを持たせた。
価格破壊の起きた市場で、高級品化した前世代の技術が一番売上が大きい。
こんな逆転現象のある市場は他には知らない。

衰退産業の歩き方

時計産業の趨勢は、事業が衰退してきたときにどうやって生き残るかの素晴らしい見本になる。
スイスが素晴らしいのは、時計産業を「国」という単位で盛り返したように見えることだと思う。

Switzerland / Simon Aughton

実際、時計の産業構造を解説する際にはよく「スイスは」と一括りで解説される。


新技術への対抗策として,高付加価値化するにも、新技術に追従するにも売上・利益の低下は避けられない。
またその対抗策の開発には高い技術力と開発コストがかかる。
これは大手でなければ難しいため、普通は市場のほとんどの会社が廃業に追い込まれる。
スイスも同じで、まずいくつかの会社が廃業した。
しかしETAという企業連合を作り、新技術の乗り換えを計り、デザイン性で差別化しスウォッチを作ることで生き残ることができた。


技術革新にはもう一つある。
それまでの時計は「一貫生産」が当たり前だった。
しかしクォーツが起こした革命は「ムーブメントの供給」というもう一つの側面がある。
先にも書いたが「ムーブメント」とは「駆動部品」のこと。
針を動かす駆動部分をパッケージ化したものを買えば、簡単に時計が作れる。
これは低価格面でもそうだが、高級機種でも
「高級機種用のムーブメントを供給できれば、今までの技術で高級時計を量産できる」
これが高級時計に起きた、もう一つの革命。

Watch movement macro (Extension tube test) / GuySie

スイス時計地図

スイスの時計業界の構造をまとめられた良い資料があるので参照する。

・リンク → スイス腕時計ブランド業界図 | Features | TOKEI ZANMAI - 時計三昧 - 機械式時計を楽しむサイト
中心に先ほどのETAが所属するスウォッチグループがあり、ここから各社に
ムーブメントが供給されている。


日本・東南アジアはSEIKO、ミヨタなどからのムーブメント供給が市場を作っているが、
スイスは自社、またはETAからのムーブメントが市場のベースになっている。
この「分業制」が会社・産業を存続させて、新たに発展させたことは間違いない。
それまで競合していた企業同士が手を組むことで、ここまで力強く復活できるという良い例だと思う。


まとめると、企業連合と分業制が、時計の高級市場を作ったと考えられる。
これは時計業界のメッカがスイスという一カ所に固まっていたことが要因として大きい。
明日はこの分析を元に、衰退市場で高付加価値化を狙えるジャンルが無いかを考えてみる。