ペンとサイコロ -pen and dice- BLOG

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ガラスはなぜガラスなのか(1)

「わかりやすく解説する」の実践として、このニュースを解説してみる。
・リンク → ガラスの形成しやすさと原子配列の関係を解明 − 「ガラスはどうしてできるか?」の謎に迫る −(プレスリリース)
・リンク → JASRIなど国際チーム、SPring-8を使用してガラスがガラスたる理由を解明
「ガラスがガラスたる理由」となんとも哲学的なタイトルだが、要は「ガラスとは何か」がやっとわかったんじゃないか?という話。

ガラスって何だ?

21世紀にもなれば、基本的なことはほとんど解明されていて、
脳科学とか生命科学とか、よく分からない領域にしか「謎」は残っていないと思われることがある。
ところが科学で分かっている事なんて、本当に一部でしかない。
例えば今回の研究。
「ガラスとは何か?」

Glasses_800_edit / pne

当たり前のようなこんな疑問にも、実は科学は答えられない。

このことに関して、思い出深いのが次の台詞。
読んだのが中学の頃で、その本も手元にないのでうろ覚えだが。

神秘の島 (上) (福音館古典童話シリーズ (21))

神秘の島 (上) (福音館古典童話シリーズ (21))

無人島にたどり着いた人達が火を起こそうと苦労して、失敗したところにリーダー(通称「教授」)が帰ってくる。
教授は「記者」の時計を見て、それを分解してレンズにして簡単に火を起こす。
それを見た「漁師」が「あなたの知っていることを本にしたらとんでもなく分厚くなりそうですね」といったのに答えた言葉。
「いや、知らないことを本にした方がよほど分厚くなるよ」
知識があるほど、その限界もよく分かっているという、深い言葉だと思う。

さて、「ガラス」というと窓ガラスなどにも使われる透明な、つるつるした材質のこと。
ところが科学では「ガラス(正確には二酸化ケイ素:SiO2)」という物質名ではなく、「ガラス状」の物体の総称としても使われる。
(ちなみに窓ガラスなどに使う一般的なガラスは「ソーダ石灰ガラス」と言われる)


物体の状態は「気体・液体・固体」の三種類があるが、固体でも「結晶・非結晶」などの色々な状態がある。
この「非結晶(アモルファス)」という状態を「ガラス状」という。
この辺の定義は結構曖昧なようで、資料によっても微妙に言葉が違っている。
今回は「ガラス」というと「ガラス状(非結晶)になっていること」とする。

結晶と非結晶

ガラスの特徴は「非結晶」だが、「非結晶とは何か」は今でもよく分かっていない。

「結晶」とは?

比較のために「結晶」とは何かを考えてみる。

けっ‐しょう 〔‐シヤウ〕 【結晶】


[名](スル)
原子・分子・イオンなどが規則正しく立体的に配列されている固体物質。日常的には単結晶をさすが、多結晶をさすこともある。「雪の―」
ある事柄が積み重なり、他のある形をとって現れること。「愛の―」「日々の努力が―する」
・リンク → 結晶:デジタル大辞泉

結晶とは、中の構成部品(原子・分子)が既存的に並んでいるもののこと。

iceIh / vitroid

これが乱れずに並んでいると、その結晶は人の目で見ても分かるぐらいキレイな構造を取る。
塩や雪の結晶がそうだし、ほとんどの宝石は鉱物の結晶。(真珠は除く)

651 - Crystal DeStructured - Texture / Patrick Hoesly

結晶には、その結晶構造で強い方向・弱い方向が決まっているので、加工する時には決まった形に仕上げる。
これが宝石の「カット」といわれる作業。

では非結晶とは

非結晶は簡単に言うと「結晶で無いもの」のこと。
決まったパターンがないので決まった形も持たない。
だからガラス細工は粘土のように自由な形を作ることができて、形を変えても場所によって特性が変わらない。
そのため「液体をそのまま急冷して固めた物が非結晶」と解説される。
「ガラスは固体ではなく、極端に粘性の高い液体である。そのため1000年もしたら窓ガラスは流れて無くなってしまう」
と言われていたこともあったが、実際にはそこまで粘性は低くないので大丈夫らしい。

ちなみに「ガラスは液体です」と言い切っているサイトのリンク集
・リンク → ガラスとは何か?
・リンク → ガラスQ&A − 東京理化学硝子器械工業協同組合
・リンク → よくある質問一覧 − サカイグラステック株式会社
・リンク → テーマ:ガラスの不思議 − 伝統工芸なぞなぞ百科

ガラスの歴史

そんな特性の分からないガラスだが、歴史は驚くほど古い。
天然のガラス(ガラス状物体)としては黒曜石があるが、これはマグマが水で急冷されるといった特殊な条件で生まれる。
(=生産場所が限られる)
黒曜石は石器時代から武器として使用されていた。

Obsidian / Antanith

人が作ったガラス

人間がガラスを作ったのはエジプトともメソポタミアとも言われていて、
紀元前5000年頃にはすでに陶磁器の一部として使われていた。
作るのに必要なのは

  • 二酸化ケイ素=砂
  • 灰(融点を下げるのに必要)
  • 高温(1000℃以上) → 急冷

という三要素なので、「砂の上でたき火をした後から見つかったのが最初」と言われるが
個人的には、かまど等の「炉」に水をぶっかけたか、雨が降った後からでも見つかったんじゃないかと思う。
(一応実験では砂の上のたき火でもガラス粒はできるらしい)

ガラス作りの技術

ガラスの製法は次の順序で発展していく。
(これ以上無いぐらいざっくりしたまとめ)

  • 型押し法
    • 型で押す。手間がかかる。値段が高い。紀元前1500年頃
  • 吹きガラス
    • 吹いて膨らます。一つずつの職人芸だが、型押し法より大量生産可能に。紀元前100年頃


Glass blowing / Andy M Smith

  • フロート法
    • 大量生産で高精度の板ガラスを安価に供給可能に。1950年代。

この辺、さすがに今回の本題とは関係ないのでさっさと進む。

閑話休題
フロートによる大量生産が確立するまで、ガラスは高かった。


アメリカ開拓時代には、大草原に空き家を建てて土地の権利を主張するという詐欺まがいが横行した。
権利を主張するには「家」が必要だったが、ミニチュアハウスで安く家を作ってしまうなど。
行政はこれを取り締まるため「この基準を満たさないと住居と認めない」というルールを作った。
その一つに、「窓ガラスがない建物は家と認めない」というのがあった。
人が住むには窓ガラスが必要だが、ガラスは高価なので、ニセ物の家では付けないことが多かったかららしい。

N.Y. Playground (LOC) / The Library of Congress

プラスチックもなかった時代、窓にはガラスが必要だが、高い物、という背景がよく分かる一例だと思う。


あれ、「ガラスはなぜガラスなのか」に踏み込めていないぞ。
ではいよいよ今回の論文について、踏み込んで解説。


続きはこちら
・リンク → ガラスはなぜガラスなのか(2)