さようなら、トリケラトプス。
トリケラトプスがいなくなるという話が一部で話題になっている。
triceratops / milpool79
映画でも図鑑でも、ティラノサウルスの次ぐらいには有名じゃないかという恐竜だが、
どうもトリケラトプスは「トロサウルス」という別の恐竜の幼体じゃないか、とのこと。
生物の名前は有名な順ではなく、当然見つけた順に付けられる。
そのため、別々に登録されていたものが同じ種類だった、と分かった場合には
どれだけ有名な物であっても、先に登録された名前に置き換えられる。
少し前では大型の恐竜、「ブロントサウルス」がいなくなったのが衝撃だった。
Brontosaurus skeleton / ivanlanin
今では「アパトサウルス」という名前になっている。
恐竜ではこの手の話は昔から結構多い。
追記:訂正
この件、一年以上も前のネタで、研究記事の曲解で、しかももし消えるとしても、消えるのは「トロサウルス」の方だとのこと。
本当、元データをしっかり確認しないといけないと痛感しました。
言い訳のしようもありません。
ふらぎ(@afragi)さん、ご指摘頂いてありがとうございます。
・リンク → fantasia*diapsida - 全面改造計画中…
・リンク → GIZMODO『トリケラトプスが教科書から消える?』に対する古生物クラスタの皆さんの反応まとめ
なんでそんなことも分からないの?
なぜこんな事が起きるのか。
恐竜の化石の話は、知らない人も多いと思うのでちょっと話をしてみる。
「恐竜の化石」というと博物館でみる、全体骨格のイメージが強いが、
Dinosaur Exhibition Beijing / IvanWalsh.com
実際には一体の恐竜の、100%の骨が見つかることはまず無い。
100%の全身骨格が揃っているのは、集団で化石が見つかったごく一部の例で、
恐竜の発見は通常、硬い歯や、ごく一部の骨の破片から始まる。
Fossil Tooth / klvinci
一欠片の歯、小指ほどの骨、糞(糞の化石も「糞石」といって立派な資料)、足跡など断片的なデータから、
「これ、どれにも当てはまらないから新種じゃないか?」
という感じで新種が決まる。
だから名前はあっても、「この系統の新種の恐竜」というだけで、
足の形は分かっていたも、頭の形が正確でなかったりする。
(頭は複雑な形状の上に、目の周り(眼窩)など骨の薄い部分も多く、完全な形ではまず出土しない)
化石学者の難しさ
考古学者は断片的なパズルを組み合わせていく、探偵のような物というが、古い物ほど情報は少なくなる。
恐竜の生きていたのは6400万年以上前。
1日前の交通事故や、10年前の殺人でも探すのが大変だし、1800年前には卑弥呼がどこにいたかで論争になる。
DSC_0100.JPG / くーさん
それに比べての6400万年前。
恐竜学者は、いったいどんな情報を元に化石を再現しているのか。
化石になる確率
そもそも、化石になること自体がとても難しい。
生物が死ぬと、腐敗が始まるとともにその死体を処理するたくさんの動物や微生物がやってくる。
普通は死体はそうして処理され、骨も風化するし、一カ所には残らない。
化石になるには、例えば洪水に飲み込まれてそのまま泥の中に沈むなど、死んだ姿で腐敗もせずに体が残らなければいけない。
Real Baby Shark / inazakira
情報は骨だけ
足跡や糞、羽毛や皮膚もまれに残るが、化石になるのは基本的には骨。
少なくとも肉や内臓は残らないので、肉付きや模様は化石からは分からない。
「愛・地球博」では氷漬けのマンモスが話題になっていたが、マンモスが生きていたのは数千年前。
それですら奇跡なのに、桁が4つも違う恐竜では、骨のカケラが残っていること自体が奇跡だと言える。
骨だけではどのぐらい区別が難しいかというと、
例えばこの二枚の写真。
Cr〓ne de chat / Thomas B. -_o
Skulls on Parade / puliarf
上が猫、下がライオンらしい。
わざと縮尺の分かりにくい写真を選んだけど、実際分かりにくいでしょう。
実際、専門家でも骨だけで判断しろと言われると分類はかなり難しいらしい。
それに対して化石学者は、骨の断片の情報しかない。
形も、動きも分からないのなら、当然結論も推測の部分が多くなる。
一億年前の情報は、5年で書き換わる
そんな少ない情報から分析する化石の世界は、猛烈な勢いで進化している。
何せ元の情報量が少ないので、新しい発見で世界の考え方がガラッとひっくり返されたりする。
恐竜は走れたのか?
分かりやすいところでは「ジュラシックパーク」。
昔、恐竜は「巨大なトカゲ」と考えられていた。
動きはのっそりしていて、しっぽは地面に擦るような再現模型だった。
Dinosaur World / mcdlttx
たとえばこの模型、何か時代を感じるでしょ?
元の化石は同じなのに、その組み立て方が違うだけ。その再現時の考え方で時代まで分かってしまう。
ところが今では恐竜は「鳥の祖先」という考え方が定着している。
しっぽは水平に、前傾姿勢で素早く走れるようになった。
Dinosaur World / CafeYak.com
ジュラシックパークは、当時先進的だったこの考え方を入れたことが「新しい恐竜像」として話題になった。
羽、生えてたの?
ここはまだ議論の結論が出ていないみたいだが、恐竜、特に小型の恐竜では羽毛が生えていた可能性が高くなっている。
Feathered Dinosaurs 1 / Aaron Gustafson
本当に鳥のように、羽をはやして地面を走り回っていたと考えられている。
大型の恐竜についてはその情報が無いので、旧態依然のトカゲの肌だが、これも今後の発見で変わるかもしれない。
恐竜は男子諸君にとってのロマンだが、発掘している学者にとってもかなりロマンのあるジャンルだと思う。
何せ業界の考え方が10年も経てばガラッとひっくり返ってしまうのだ。
研究のジャンルでそこまで常識がひっくり返るジャンルというのもなかなかないと思う。
そして何より、化石という証拠が一番強いので、自分の発見で常識をひっくり返す可能性を秘めている。
展示会の骨格標本の組みたて姿勢一つでも最先端の研究で考え方がひっくり返るし、
学者は学者で情報を探すのが基本なので砂漠に出かけているような人が多い。
dinodig / Memekiller
学者の「プロジェクトX」をやればネタになりそうな人ばかりかもしれない。
恐竜の博物館・展示を見に行く機会があれば、その背景を思ってみても、結構面白いかもしれない。
恐竜の再現図・立体模型は動いているか?どんな姿勢か?どこにいるのか?
そんな情報一つ一つが、様々な議論の中の最新の見解だと思えば、絵の見え方も少し変わってくるかもしれない。